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V.A.『Inspiration & Power 14 Free Jazz Festival 1』

2005-11-02

僕が自分でレコードを買い始めたのは中学に入ってからのことだ。その頃、自分の自由になるお金といえば親から一ヶ月に一回もらう3000円だけ。当時、LPが一枚2500円だった。月に一枚だけ買うLPを選ぶために、お金がもらえる毎月25日の一週間前くらいになると毎日のように駅ビルの中にあるレコード店に出掛け、レコード棚に並ぶ全てのレコードを飽きもせず何度でも上げ下げしては、今月はどれにするか迷った。そんなことをしていたから、自分で遂に買わなかったレコードもジャケットを見た記憶だけは残っている。だから、今では中古レコード屋で自分がこれまで見た覚えがないレコードというのに出くわすこと自体が事件だ。そして、見たことがないレコードのジャケット写真が沢山載っているレコードのガイド本というのが大好きだ。本では見たことがあっても店頭では見たことがない、というレコードがまだまだある。そんなレコードの紹介文を意味もなく何度も読み返す。ガイド本が無ければ出会わなかったレコードも多い。“ECDのロンリー・ガール”のネタである佐東由梨の“ロンリー・ガール”もそのうちのひとつだ。このレコードが紹介されていたのが96年に刊行された稲森龍夫&ポップス中毒の会『歌謡曲完全後略ガイド('68-'85)』(学陽書房)という本だった。この本は歌謡曲を「影響を受けていると思われる洋楽の音楽性で分類する」(編集ノートより)という手法を取っていた。ジャズとラテン系、ソウル/ダンス系、果てはジャパニーズ・アシッドなんて分類もある。“ロンリー・ガール”はソウル/ダンス系のページで、「マーヴィンへの生前トリビュートか?」という見出しで紹介されていた。83年リリースのこの曲を僕はそれまで、聴いたこともなければジャケットを見たこともなかった。この本は一時期流行ったネタばらし本ではないから、はっきりとは書いていないが、本文によれば、“セクシャル・ヒーリング”を下敷きにしていることが推察された。この本に載ったせいなのか、見つけた時には確か6800円とかの高値がついていた。ありそうなところは探しつくした後だったから、その値段で買った。その後、二度と店頭で見たことはないから、買っておいて正解だったと思う。
いまだに枕元に置いてあるのが『ラブ・ジェネレーション 1966-1979 新版日本ロック&フォーク・アルバム大全』(音楽之友社)だ。日本のロック、フォークのガイド本としてこれ以上の本はない。ジャックスの『LIVE 68.7.24』やフリクションの前身バンド、3/3の10枚しかプレスされなかった作品をちゃんと紹介しているのはこの本しかないだろう。中古盤屋で見つけたレコードを、この本でどう評価されていたか、家に帰って一度確認してから買うなんてことも多い。しかし、1800枚以上を紹介しているこの本にも載っていないレコードというのはある。その点、凄いのは黒沢進『日本ロック記GS編』(シンコーミュージック)だ。この本にはGSのレコード、全てが一枚残らず紹介されている。もちろんGSという限定されたジャンルだから出来たのだろうが、それにしても素晴らしいの一言に尽きる。
他にもお世話になったガイド本はある。『モンド・ミュージック』(リブロポート)、最近なら田中雄二『電子音楽 In The (Lost) World』。いずれも特殊な視点からのガイド本だ。そんな風に音楽の辺境にまで目を向けたガイド本はあるのに、ひとつ、どういうわけか今まで一度もガイド本という形でまとめられていないジャンルがある。それは日本のジャズだ。日本のフリー・ジャズに関しては、副島輝人『日本フリージャズ史』(青土社)という名著がある。間章「非時と廃虚 そして鏡」(深夜叢書社)にも重要な何枚かが紹介されてはいる。しかし、レコード・ガイドに類する本は見当たらない。僕はジャズ界の事情は全く解らない。だから全くの推測でしかないが、ジャズの世界では想像以上に国産ジャズへの評価が低いのではないか、という気がする。先日、ディスク・ユニオンの新宿ジャズ館の中古フロアーで日本人ジャズの特集があった。見たこともないレコードでしかも高値がついたレコードが何枚もあった。そういう評価の基準はあるのだから、ガイド本の一冊くらいあってもよさそうなものだ。
今回紹介するこのCDはジャズに関しては僕の何倍も詳しいツボイ君から教えてもらった一枚だ。2003年の初CD化だが、もう入手しづらいかもしれない。この辺の日本のフリー・ジャズはひっそりとだけど着実にCD化はされている。中にはマスター・テープが見つからず、盤起こしのものもあるが、これはオリジナル・マスター・テープからのCD化だ。内容が余りに良いので僕は最近、オリジナルのアナログも買ったくらいだ。日本のフリー・ジャズ未体験のひとにも迷わずお薦め出来る。


Profile

ジャパニーズ・ヒップホップ黎明期から活動を続けるオールド・スクーラー。自主レーベル"Final Junky"を運営。2010年5月26日、通算13作目となる最新アルバム『Ten Years After』をリリース。著書『失点イン・ザ・パーク』 『ECDIARY』『いるべき場所』『ホームシック 生活(2~3人分)』。2011年3月16日にはエッセイ集『何にもしないで生きていらんねぇ』を発売予定。

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