アイ・キャン・シー・ザ・ミュージック - Vol.8 [2013-10-08]

 読書の秋。インディ・ロックの秋。色々と興味深い新譜が出ていますが、ブルックリンの三人娘、Au Revoir Simoneの復帰アルバム『Move in Spectrums』はもうお買い求めになったでしょうか? 私が日本版のライナーを書いているという事実は置いておいても、心から推せるアルバムです。彼女たちの音楽で夢見心地に秋をお過ごし下さい。


 MVに関していうと、三人の佇まいがクールだった「Somebody who」のビデオも良かったけれど、私がお勧めしたいのは新曲「Crazy」のビデオ。ヘザーの男装もキュートなこのビデオ、実はマーティン・スコセッシのカルト・クラシック映画『アフター・アワーズ』のパロディになっているのです。発端となるのが、ヘンリー・ミラーの「北回帰線」だというところまで、映画のまま。こんな風に、本がきっかけで生まれる出会いには心ときめくものがありますね。それが危険の入り口だと分かっていても。このMVの監督コンビの片割れであるPoppy de Villeneuveは、私の大好きな作家サイモン・ヴァン・ボーイの脚本で「Love is like life but longer」という素敵なショート・フィルムを撮っています。ヴァン・ボーイはブルックリンのグリーン・ポイント在住らしいので、はからずもここでブルックリンの音楽/文芸シーンがクロスした感じです。

 

 

 文芸とインディ音楽といえば、Department of Eaglesの片割れでもあるフレッド・ニコラウスのソロ・プロジェクト、Golden Suitsの「Swimming in ‘99」のビデオはそのものズバリです。フレッドがニューヨークの書店を巡って、ジョン・チーヴァーの短編集をありったけ買うというこのビデオ、私も大好きな書店が次々出て来て、それだけで楽しかった。ソーホーのインディ書店McNally Jacksonや、お馴染みの巨大古本屋Strand、文学の品揃えに定評がある古本屋East Village Books、ユニオン・スクエアのチェーン店Barns & Noble。フレッドがジョン・チーヴァーのサイン(!)入りの初版本を手に入れるのは、ウェスト・ヴィレッジのLeft Bank Bookです。フレッドが本屋から本屋へと流れていく様子には、それこそジョン・チーヴァーの短編を基にした映画『泳ぐ人』で、主人公が人の家のプールをはしごして泳ぎながら家に帰ろうとするのと同種のシュールさがあります。

 

 

 ちなみにGolden Suitというプロジェクト名もジョン・チーヴァーの有名な短編「郊外暮らし」の一節からとられたものです。日本では1970年に出た「現代アメリカ短編選集」の第二巻に収録されています。私はこの本をずいぶん前に古本で入手して持っていたので、久しぶりに引っ張りだして読んでみました。「郊外暮らし」がどんな作品だったか、すっかり忘れていたのです。「金色の服を着た王さまたちが象に乗って山々を越えてゆく夜となる」という最後の一節まで息もつけない、すごい短編でした。2013年の9月を、私はGolden Suitを聞いてジョン・チーヴァーを読んだ季節として覚えていることでしょう。さて、ではゆっくり読書でも…と思ったところに、ローマン・コッポラ監督による Arcade Fire<http://www.jetsetrecords.net/artist/303> のすごいショート・フィルムがサタデー・ナイト・ライブで公開されたり、サラ・シルヴァーマンが奇怪でせつないダンスを披露するPsychic Friendの「We Do Not Belong」に心奪われたりと、やはり落ち着かない秋なのでありました。

 

 

 

【関連商品】

MOVE IN SPECTRUMS

AU REVOIR SIMONE - MOVE IN SPECTRUMS

ブルックリンが産んだインディ・ガール・シンセ最高峰トリオ、さらに甘く揺らめく激傑作4th.!!

LP+CD |  ¥3,450 |  MOSHI MOSHI (UK)  |  2013-10-09 [再]  | 

CRAZY

AU REVOIR SIMONE - CRAZY

女の子版Phoenixと言いたい無敵のロマンティック・キラーが7インチ・リリース!!

7" |  ¥1,300 |  MOSHI MOSHI (UK)  |  2014-02-17 [再]  | 

REFLEKTOR

ARCADE FIRE - REFLEKTOR

James Murphyが共同プロデュースを担当したオドロキのインディ・ディスコ・キラー!!

12" |  ¥1,450 |  MERGE (USA)  |  2013-10-01 [再]  |