
知る人ぞ知る「ガールスカウトの日」である5/22、非常に興味深いコンピレーション・アルバムがリリースされました。タイトルはずばり『10 Girls' Voice』。その名の通り、10人の女性ヴォーカリストが起用された“歌もの”アルバムである今作、興味深い点はどこかと言いますと、歌い手全員がガールスカウト出身である!ということではなく、そこに収録された11の楽曲全てを手掛けたプロデューサー、Hidenobu Ito氏の特異な音楽的背景/キャリアにあります。
Hidenobu Ito。Juzuや白石隆之といった今も活躍するベテラン・クリエイターたちのリリースでお馴染み、ジャパニーズ・テクノ史を語る上で外せない名門レーベル、ns-comからデビューを果たし、その後はKazumasa Hashimotoやdillなど、これまた個性的なアーティストによるリリースを重ねる名門flyrec.からリリース。巨匠半野善弘のリミックスを手掛ける傍ら、Machine DrumやGel:、Tujiko Norikoといった、エレクトロニカ〜エレクトロニカ・ブレイクビーツの人気クリエイター勢の来日公演ではサポートを務めるなど、テクノからエレクトロニカへ、という時代の潮流のど真ん中を突き進んできた(ように見える)氏。
'06〜'07年にかけて国内外シーンで大きな話題となったfenou〜mo's ferryからのリリースも表面的には、ポスト・エレクトロニカ期のひとつの主流である4つ打ちダンス・ミュージックへの展開/回帰路線にリンクした「変化」ということになるのでしょう。しかし、実際に氏の作品を体験してみると、実はとんでもなく個性的な、少なくとも国内に同路線と呼べる対象は存在しない、つまり「孤高のサウンド」へと到達してしまっていることに気が付くはずです。
この数年間で一番の衝撃作と言えるのが、自身で主宰するレーベルelegant discからリリースされた宇羅々ヒカル名義のデビューCDEP『LOVER』でしょう。上記fenouからもクリック・ハウス仕様にセルフ・リミックスされリリースされたタイトル・トラックは、匿名女性ヴォーカリストが起用されたブラコン風ポップスに仕上げられており、そのハイブリッドな質感や真っ直ぐな(そしてある意味では立派に屈折もしている)ポップ志向は、周辺の関係者やクリエイター/DJ勢からも困惑をもって迎えられ、ダンス・フロアは勿論、エレクトロニカなどリスニングもののイヴェントからも敬遠されてしまいがちでした。
しかし、一般的に「テクノ耳」と呼ばれるセンスを持った「シリアスな」リスナーの多くが、'90年代中頃に洗礼を受けたアブストラクト・ムーヴメントの影響もあって?、残念ながら退けてしまいがちな「何か」を湛えた今作は、例の小沢健二の問題作『Eclectic』を肯定的に受け止めた個性派?リスナー、或いは、当時当店で大ヒットを記録したMark(蛇足ですが'07年、遂に待望の新作が完成との知らせあり!!)や、鬼才Oorutaichiらの作品を嬉々としてチェックしていたような珍作マニアたちによって先ずは評価され、(意外や?)カルトなスマッシュ・ヒットを記録することになります。作者の意図とは捩れた意味での面白アイテムとして。あのWARPの主宰自らが、今後の名門を背負っていく存在であるとコメントしたJimmy Edgar(『Color Strip』)の衝撃的なまでの進化/変化との同時代性をそこに見る人は当時それほど居なかったような気がします。洒落の作品、というのが一般的な受け止められ方であったようです。
しかししかし。大方の予想に反し、イトウさんはマジだったのです。elegant discから届けられた、なんと自らのヴォーカルが全編に渡って披露される2枚のアルバム、『Love The End』と『KISS』を聴けばそれは一目瞭然。テクノ畑エレクトロニカ経由の実力派クリエイターは、マジで本気でポップスを作りにかかったのです。 そして遂に届けられたのが今作『10 Girls' Voice』。単刀直入で申し上げます。ずばりこちら傑作です。そして猛烈に「ポップ」です。大きな枠で括ると同じような受け入れられ方をしてもおかしくない(?)、口ロロやpal@popといった「新型ハイブリッドJ-POP」勢との決定的な違いとして、リスナーが明確に感じていたであろう歪な違和感が、自身による荒削りなヴォーカルであったこと(実はそこにこそ中毒性の高い魅力が存在することも事実なのですが)は否定しませんが、今作においては女性ヴォーカリストたちを起用することでそれが「一応は」包み隠されちゃっているのです。
そして、自身の体内でひたすら鍛え上げられてきたと思しき圧倒的なまでのファンクネスが、エレクトロニカを通過したその繊細なプロダクションの中で柔らかに躍動するのです。それは時にスウィングという形をとって。或いは、優雅な響きを備えたエレクトロニカ以降の室内楽という形をとって。Akuffen以降の、断片的に加工されたドラム・フィルが生み出す精巧なファンク・グルーヴと、Oval以降の美麗なる電子音響とが、「エクスペリメンタル・サウンド」や「フロア志向のトラック」ではなく、あくまでも優しい聴き心地のポップスへと昇華された至極の1枚。しかし…ちらりちらりと姿を見せる、ヴォーカリストたちの素人っぽく隙を残した歌いっぷりや、イトウ氏自らによるピュアさ全開の歌詞は果たして計算内のことなのか否か。例えるならば、ジ○リ・ワールド的な無邪気さにも似た?? またしても煙に巻かれてしまうのでありました。奥深き「ポップ」サウンド。
そこで、遂に敢行しましたHidenobu Itoインタビュー。核心に迫れますかどうか。
- 01. balanco
最初ピアノ中心のアレンジで山崎阿弥さんに歌ってもらったものに、後から強引にオーケストラのサンプリングをオーバーダブして完成させた曲。
- 02. lover(ver5.2)
- fenouやelegant discからリリースした曲の別ヴァージョン。元々は、「宇羅々ヒカル」という架空のアイドルをコンセプトに作曲したもの。実はヴォーカルはNYのhappyやnobleからリリースしている某氏。
- 03. sigh
ベルギーのu-coverからデビューしてるparadigmのタカハシユウキさんに歌ってもらった曲。声が幼いかわいい感じだったので、あえてトラックを初期Oval風にして「ありえない折衷主義」的にしました。
- 04. kiss me
yoshimiのソロ・アルバム用に作った曲の別ミックス。音すっかすかのセクシーファンク。「異常に音数少ないファンク」を目指して作曲しました。
- 05. come
コマイヌのヴォーカリスト、ヤマダアンナによるヴォーカル。ピアノのハーモニーとのバランスが美しいかなと。
- 06. merci
「OK FRED」編集者オードリーとyoyo.によるフランス語と日本語での詩の朗読。ある種のラップだと思っています。電子音楽やヒップホップを自分なりに消化したらこうなるというイメージ。
- 07. heaven(remix)
- 1999年にns-comからリリースした自分のソロ・アルバム収録曲のリミックス・バージョン。原曲はドラムンベース寄りでしたが、今回は甘いアーバン・ファンクにしてみました。ヴォーカルは当時レーベルから紹介されたタカコさんという方です。
- 08. forget me not
ピアノのハーモニーが美しいバラード。Hiroyo Kodamaさんは参加者の中で一番声張って歌ってくれました。
- 09. bedtown
- この曲が今回のアルバムを作るにあたって一番重要な曲でした。ヤマダアンナの繊細なヴォーカルをじっくり聴いてみて欲しい曲です。
- 10. ride on bus
この曲のみ、メロディーと歌詞が頭に同時に浮かんできて出来た曲。サビのコード進行が気に入っています。 歌詞も含めて一番ポップスよりな曲になりました。タグチノリコさんの声質が薬師丸ひろこを思わせます。
- 11. sayonara
- メロディーやハーモニーをありえないくらい自由に動かす感じで作曲した曲。これも一曲目を歌っていただいた山崎阿弥さんです。