アイ・キャン・シー・ザ・ミュージック - Vol.12 [2014-10-07]

ようやく秋めいてきましたが、皆さんお元気でしょうか。


私は悪い秋刀魚に当たって、九月を棒に振りました。食欲の秋だというのに…食べる力を取り戻すべく、現在活躍中のバンドで最もおいしそうな名前を持つ、The History of Apple Pie の発売になったばかりのニュー・アルバムからのシングル・カット"Jamais Vu"のMVから話を始めましょう。

 

Jamais Vu directed by Alistair Redding from Alistair Redding on Vimeo.

 

ぎゃー、何これ、めっちゃキュートでウィムジカル! 深い森でサバイバル・ゲームをするメンバーたちの銃からズキュンズキュンと放たれるカラフルなアニメが愛らしい。そしてメンバーたちの佇まい、テンポ、ロケーションと非常にゴーダルエスク(ゴダールっぽい)。

案の定、監督のアリステア・レディングが「ゴダールの『ウィークエンド』+ウェス・アンダーソンみたいな感じを意識した」(大意)とインタビューで答えていました。


アリステア・レディングはロンドン在住のカメラマンで、手がけたMV作品は多くありませんが、今後の作品に期待がモテそうです。彼のサイトで見たRiot Apolloというバンドの"The Chater"のビデオも面白い出来でした。

デジタル・カメラで撮影した映像をわざと荒い粒子でモノクロにプリントアウトして、その紙でアニメーションを制作したという裏技が効いているMVです。

でも、ゴダールの『ウィークエンド』を基にしたMVって他にあったよね?

 

 

そう、Vampire Weekend の"Oxford Comma"。長回し、横移動、キャプションの入れ方など、「ゴダールっぷり」に関していえばこちらの方が上。監督は(日本語表記)リチャード・アヨエイド改めリチャード・アイオアディ。長編映画『嗤う分身』がもうすぐ日本でも公開です。

 

 

しかし、こういうゴダールやヌーヴェル・バーグを意識したMVって、90年代の邦楽シーンには散見されたものですよね?

日本人には懐かしい、ゴダールをはじめとする60年代フランス映画の(言ってみれば)Tweeな解釈っていうのが、今、英米では非常に新鮮にとられているのかもしれません。


それが証拠に、アメリカでは女優に歌わせてセルジュ・ゲンズブールを気取りたいミュージシャン/プロデューサーがちらほら見られます。 Handsome Boy Modeling School で有名な ダン・ジ・オートメーター もその一人。『デス・プルーフ』や『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』で知られるメアリー・エリザベス・ウィンスレットと組んだバンドのGot a Girlなんて本当、音楽ジャンル=渋谷系。アルバムジャケットはまるでコンテムポラリー・プロダクションだし、"Did We Live Too Fast"のMVもこの通り。レトロなファッションが話題の英国ガールズ・シンガー・ソング・ライターの一連のMVもシックスティーズの解釈が非常に渋谷系っぽい。

 

 

これらのビデオを手がけているロバート・フランシス・ミュラーは、日本でも「ベン・ウィショーがダンスするビデオ」として有名な Years & Years の"Real"のVも手がけています。Years & Yearsは俳優オリー・アレクサンダーのバンドで、ベン・ウィショーは舞台で共演した関係で特別にこのビデオに出た模様。

 

 

そのオリー・アレクサンダーの最新出演作が、Belle & Sebastian のスチュワート・マードックの監督作『God Help The Girl』になります。

スチュワート・マードックが長い時間をかけて手がけてきたプロジェクトが、ようやく映画になったというだけでもファンは感涙ものだと思いますが、もう予告編が愛らしくてドキドキします。Tweeといえば、これ以上にTweeなミュージカル映画も他にないでしょう。そして予告やクリップを見れば見るほど、これこそ90年代の東京で作られるべきだったのに、永遠に作られなかった映画なのではないかという気がしてならないのです。

 


【関連作品】

GOD HELP THE GIRL (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)

STUART MURDOCH - GOD HELP THE GIRL (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)

ごぞんじBelle and Sebastianのフロントマンによる初のサントラ・アルバム!!

2LP |  ¥3,750 |  MILAN (USA)  |  2014-10-09 [再]  |