京都市左京区岡崎。平安神宮から哲学の道や南禅寺へ、そんな、京都観光のメッカとも呼べる地帯の、とある一軒家(ただし数件隣はラブホテル)。Baiyonなる奇妙な名前のアーティストは、80年代の少年時代を宝塚で過ごした後、そんな京都の観光地帯へと移り住み、辺鄙な滋賀の芸大へと進み通う中で、ある種の異様なオブセッションを醸成してきた。CHARLES HAYWARD、THEMSELVES、MASONNA、BOREDOMS、RISE FROM THE DEAD、マジカル・パワー・マコ、中原昌也、DIETER MOEBIUS+MANI NEUMEIER=ZERO SET 2(!)…、彼が学生時代に学祭の一環として毎年主催していた「DO YOU」の出演者リストは、余りに物凄い。一体、何がそんなに彼を駆り立てているのか?その、なんだか良く分からない熱意のようなものはその後も続き、例の一軒家の自宅からは、奇怪な音楽作品、グラフィック、デザイン群(JET SET主催のパーティー"route"のSMITH N HACKの回のフライヤー/ポスターも彼の作)が次々と生み出され続けている…。そして今回、Baiyon名義でのフル・アルバム(と、限定ピクチャー7")が、ようやく完成した。その音楽は、パーティー向けでは無いかもしれないけれど、「心の機微を繊細に表現したデリケートな音響作品」などといった物からも全く反対の位置にある。それは例えば、クラブで彼のライヴを見れば一発で分かるだろう。関西アンダーグラウンド〜ノイズに浸っていた彼の素養が、そこには間違いなく反映されているのだ。グリッチやらテクノイズといったキーワードを誰も気に止めなくなってしまった時期にこんな作品を堂々とリリースするという、トレンドを全く無視した行為も、彼にとっては問題ではない。なんと言っても、彼の半生の記憶をふんだんに埋め込み、かつ私小説的な内容としてしまうことなく、ファンタジックな世界へと仕立て上げるにはこの方法が最適である、という訳だ。ともかく、このように不可解な熱意や脅迫観念に突き動かされ、"創るしかない"的な状態になっている人の作品はいつだって面白いに決まっているし、このアルバムは紛れもない傑作である。
INTERVIEW + TEXT: EISHI KURODA(JET SET KYOTO)
Baiyon Works
BAIYON / LIKE A SCHOOL ON LUNCH TIME
BAIYON / LIKE A SCHOOL ON LUNCH TIME EP
CONCEAL / BAPTIZED TROOPERS
DIRECRED BY HANS FJELLESTAD / MOOG
■ JET SET

Baiyonとしての活動内容、作品制作におけるコンセプトを教えて下さい。Wet Sideとしてグラフィック・デザインも行ったり、Concealとして4つ打ちの作品を制作したりもしていますが、Baiyon名義との関わりというか、バランスはどのようになっているのでしょうか?

■ Baiyon

Baiyonというのは私のオウン・ユニットです。コンセプトは…もちろん変化していったりすると思うのですが、今回のアルバム、あと、一貫してあるBaiyonのコンセプトというのは、私的なパーソナルな記憶の素材を使用することによって、他人にそれはどのような形で伝わるかといったことです。しかし、それは実験という意味ではありません。当然どこまでが記憶なのか、夢なのか、本当なのか、嘘なのかはたまた他人の記憶なのかわからなくなる瞬間もありますが…。

例えば、環境音にしても、実際に自分が足しげく10数年も通った場所の音と、たまたま初めて行った場所で録った音では、それはサウンドとして結果に現れなかったとしても決定的に何かが違うと思うんです。それは一方は絶対使わないとかそういうことではなくて、その違いは何か、という様なことをBaiyon名義では追求しています。そして、パーソナルなサウンドが生む制作過程での歪み(もしくは何か)がなんらかの形でリスナーにも届くと信じています。

ConcealはSatanicpornocultshopのughとのユニットです。4つ打ちを軸にしながら、本来の音の強度というのがテーマです。

その他現在オウン・ユニットとしての寄りハウス、テクノにアプローチしたユニットの音源制作、DJを行ってます。Baiyon名義でのコンセプトとは違って、Concealと同じように音の強度を求めると言うか、サウンドのソースはどこかとか何かとか、そういったことは考えません。かっこいいと思える音を素直に使ってかっこいい曲を作る、そういった感じです。

Wet Sideはグラフィック・ユニットです。デザイン、プロダクト制作、マンガ、t-shirtのデザイン、ライブ・ペインティングと様々なビジュアル表現を試みています。Wet Sideもまた、自分の表現の中で非常に重要な軸となるユニットです。

Baiyon名義との関わりですが、もちろんBaiyon名義のアルバムのデザインをWet Sideで行うと言った連動した動きは常にあります。出来ることはすべてやってみたいので、常に新しい試みを行っています。その結果、様々な名義が生まれ、化学反応が起きています。そして、そのどの名義も、ほかの名義にスポイルすることはないです。というか、それが一番まずいと言うか、気をつけていることですね。

■ JET SET

今回の作品ですが、FENNESZを始めとするMEGO/TOUCHなどのアーティストが切り拓いたデジタル・プロセシングによる制作、またその中に情感を織り込んでいくという作業の延長上にあるようでもあり、また、恩田晃がカセット・メモリーズと称して行っている、フィールド・レコーディング音源をカセット録音したものを利用してのエレクトロ・アコースティックにおける、パーソナルな記憶の堆積のようなものの中から滲み出てくるような何か、といったものからの共通項も感じることが出来ます。Baiyonの音楽制作において、どのようなアーティストから影響を受けましたか?また、最近気になっているアーティストはいますか?

■ Baiyon

もちろん、MEGOやTOUCHのアーティスト、恩田晃さんも大好きです。特に恩田晃さんのカセット・メモリーズ・シリーズは大好きです。マテリアルだけでなく作品自体に影響を受けていると思います。サウンドに関しては影響を受けたものをあげるときりがないですが…例えばVincent Galloの作品の作り方は素晴らしいと思います。影響を受けているものに一貫して言えるのは、言われている通りパーソナルな記憶の堆積の用なものを素材(または題材)にしているものに影響を受けています。そして、それをなんというか、作品というよりもむしろ装置っぽい感じにしていることに非常にシンパシーを感じます。

■ JET SET

7"シングルにのみ収録されている、anticonのDoseoneや中原昌也氏とのセッションですが、どういった経緯でレコーディングされたものなのでしょうか?

■ Baiyon

以前、私が学生の時に行っていたイベントがあって、毎年様々なアーティストを国内、国外問わず招聘していました。その最後の年にDoseoneはThemselvesとして出演してもらいました。そして中原さんと私がユニットでライブを行ったのですが、どうしてもDoseoneにラップしてほしい部分があったのでお願いしたら、やろうよって言ってくれて、それでそれを録音してたんです。で、すごく気に入っていたから、いつかのタイミングでリリースしたいなって思ってて、今回コンセプトともばっちり合ってるしってことで、7"に収録することになりました。

■ JET SET

ファミコン等、ゲーム・ミュージックのサウンドを変形し歪ませることにより、センチメンタルさを抽出し増幅させたような、オリジナリティのある音響へと仕立てていますが、そのアイデアはどこから来たのでしょうか?

■ Baiyon

さっき言ったようなことを実践しているうち、そのようなアイデアが生まれました。アルバムのコンセプトとしては、タイトル通り小学校の給食のラジオの様なようなものをイメージして作りました。あの歪んだ感じと言うか…。ゲーム・ミュージックも一度消費していることによって、(たとえ音感、音質だけであったとしても)パーソナルな記憶が堆積しているので、パーソナルな場所で録った環境音と一緒なんです。単純な音の趣向の果てという側面ももちろんあります。

■ JET SET

ゲーム・ミュージックを使用したり、コミックとリンクしたりするといった所は非常に日本的というか、特に8bitゲーム機に対するノスタルジーというのは、ある意味、特定の世代の日本人には非常によく分かる感覚、逆にいえば、そのある一定の世代を外すと伝わり難い感覚かも知れない、と思います。その辺りはどのように意識していますか?

■ Baiyon

少し前に聞いた非常に興味深い話があるんですが、まあ単純に今20代、30代の人だと8bitの質感とかに多少なりともノスタルジーを抱きますよね?それがプレステ世代だと、プレステ初期のいわゆる完成度の低い三角のカクカクのポリゴン見て泣けるって言うんですよ。それにすごくビックリしたと言うか、こっち的にはポリゴンで泣けたりしないですからね…。実際そういうことってあるんだなって思いました。

たださっき言ったように、パーソナルなマテリアルって言うものが持つエネルギーというものを信じています。これを言うとどうなの?って思われるかもしれないですが、パーソナルな素材ってすごくエンターテインメント性があると思うんですよ。ただ当然、環境音ですらもそういう意味では時代性からは逃れられない訳で…極端な話ですけど…。だからそのパーソナルなマテリアルのマジックと言うかそういうのを信じてやってます。それが歪なシンクロであっても、なにかしらは伝わるのではないかと思っています。決して、『原点回帰』とか、『昔は良かった』とかそういう理由でそういう方法をとっている訳ではないので。ただ一つの出発点が単純にそうであるってことだけです。

■ JET SET

サウンドとリンクするような今回の作品のアートワークですが、どのようにして今回のコラボレーションは実現したのでしょうか?

■ Baiyon

メチクロくんという知り合いの造形師/デザイナーがいて、弐瓶さんの本の装丁をやったりしている人なんですけど、彼が弐瓶さんのビジュアルとWet Sideのキャラくっつけたらヤバいんじゃない?って提案してくれて、それで是非ってことで実現しました。で、メチクロくんにアート・ディレクションとコーディネートとデザインをやってもらいました。ジャケットは今回は非常に重要だったので、作品のトータル・イメージに関してはいっぱい話し合いましたね。本当に素晴らしい物が出来上がって嬉しかったです。その過程で、Baiyonのアルバム・ジャケットということでふんだんにパーソナルな記憶の素材も使用しました。

■ JET SET

PVについて教えて下さい。

■ Baiyon

PVは映像作家のcatchpulseにお願いしました。彼は僕の高校の後輩なんですが、今回はパーソナルな記憶というのが非常に重要なポイントなのでその点で、非常にやりやすかったと言うか、すごくスムーズでした。実際に私たちが通っていた高校、小学校、昔の遊び場等を素材として制作しました。あの裏校舎の西日の感じが…みたいなオーダーもすでに共通のビジョンがあるのですごく気持ちよかったです。

■ JET SET

今作のマスタリングはStephan Mathieuが行っていますが、彼の作品もやはりBaiyonの作品とリンクする部分が大きいと思います。Stephan Mathieuと言えば電子音響好きなら誰もが認める天才ですが、彼にマスタリングしてもらうことになった経緯について教えて下さい。

■ Baiyon

Stephanの作品はずっと好きで、一番好きなのはRitornellからリリースされた『frequencyLib』です。あともちろんfullswing名義のものも全部好きです。彼の音の質感が大好きで、マスタリングをお願いできるならばお願いしたいとずっと思っていました。それでStephanにメールでお願いしたら、気に入ってくれて是非って言ってくれたんでお願いしました。上がってきたものは音が柔らかくなっている感じで良かったです。