日本のヒップホップを黎明期から作り上げてきたラッパー/トラック・メイカーであり、そのキャリアに於いてセル・アウトをした時期があるわけでもなく、リリースを重ねるごとに毎回新しい探求をしながら、メジャーを舞台に10年以上もの間(!!)活動してきた稀有な存在、ECD。自身の曲の中でもたびたび登場するように下北沢に住み、ちっとも大御所ぶることなく若い才能たちと積極的に共演し続けるオールド・スクーラーが、AVEXとの契約を破棄し、完全自主制作で作ったニュー・アルバム『失点IN THE PARK』がいよいよ8月12日リリースされます。今年3月にほぼエクスクルーシヴというかたちでリリースされたライヴ・アルバム『LIVE N JAPAN』が特大ヒットを記録するなど、いつもお世話になっているJETSETとしては、当然インタビューしないわけにはいきません。
NEW RELEASE: 失点IN THE PARK
ふらりと店に立ち寄られては、鋭い嗅覚でスタッフを驚かせるアイテムを試聴したり買っていかれるECDこと石田さん。DJならいざ知れず、エレクトロニカ〜エレクトロクラッシュ〜電子音響〜ディスコ・ダブ〜ゲットー・テックまでばっちりチェックしているラッパーって果たしてどれ位いるものなんでしょうか?かつて、石田さんがジム・オルーク主宰の再発専門レーベル、モイカイから初LP化されリリースされたメゴのピタ(注1)のアルバムを買っていかれたことに非常に驚かされたのですが、先日その訳?を聞いてみたところ更に衝撃の事実が判明しました。「ネタとして使おうと思ったのですか?」という僕の問いに対し、「あんなのネタになんか使わないよ。もともとメゴ系のギャーッて音は好きだったからさ。というか、オートポイエーシス(注2)のCDジャケのやつが最近かなり好きでね、仕事の行き帰りに良くウォークマンで聴いているんだ。あれってアナログの方はCDと内容が違って素材しか入っていないから、持っていたけどアナログの方はすぐ売っちゃったけれど。」オートポイエーシス!一瞬僕は誰と話しているのかと、クラクラした記憶があります。 何はともあれ、とんでもない貪欲さでばりばりディグを続けている驚くべき現役ラッパーが、大きな節目を迎えて放つニュー・アルバムということで、「ぜひともインタビューさせてください!ただし、営業時間が終わってからになってしまうのですが、、、」というこちらの都合を押し付けての願い出を快く引き受けてくださった石田さんに激しく感謝とリスペクトを捧げます。 深夜僕が呼び出してしまうかたちで待ち合わせた石田さんは、T-SHIRTに短パンといったラフないでたちで、ふらりとスペースシャワー・ブランチ(注3)の前に現れました。インタビュー前にお茶でもどうですか?ということだったのですが、石田さんが頼んだのはなんとチョコレート・パフェ!僕も合わせてフルーツ・パフェを頼み、2人して喉が渇いた状態で店を出たのでした。で、インタビューにこれではいけない、ということで自動販売機に向かい、石田さんに何を飲まれますか?と聞くと、「生茶の新しいやつ(注4)はあまり旨くないんだよね」ということだったので、新しくない方の生茶を飲みながらのインタビューと相成りました。では、どうぞ。
TEXT: HORI (JET SET TOKYO)
E: ECD / H: HORI(JET SET TOKYO)

H: 今日は夜遅くにすいません。お聞きしたいことが山ほどあるのですが、よろしくおねがいいたします。
E: はい、よろしく。

H: 遂に!というか待望の新作なんですが、ジャケット(注5)とかCCCD問題(注6)とか、もう色々と追加情報というか語られるべき背景というか、あるじゃないですか?
E: んー、でもジャケとラップの内容は別に関係ないんですけどね。ジャケにあの写真使いたいって言い出したのはイシグロ(注7)で。ただ、同じ時期にデモ(注8)とかに熱中しだした関係で、僕もすぐにOK出したって感じです。
H: そうそう!デモ!ですよ。僕の中のイメージでは、石田さんにもともと最近のような政治色?みたいなものをあまり感じていなかったので、ここのところの変化?には何かしらの理由があるのかな?と思っていたんです。
E: 政治色はねー、隠していただけで、それが9.11とか今年のイラク戦争で段々、表に出てきたというか。自分の中で機が熟したというか。
H: 隠していたものが出てきた、っていうのは、これまでのメジャー契約が終わって自主制作に変わった、というのもあるのかな、とか勝手に推測しちゃうところもあるんですが。
E: あ、もちろんそれはあります。AVEXで出せるジャケじゃないですね。最近いろいろやってると、メジャー時代の不自由さ当時は感じてなかったんだけど、今になって、やっぱあれは不自由だったなあ、と思うことが多いです。
H: 単刀直入にお聞きしたいんですが、メジャー契約破棄に関して、CCCD問題が最大の原因だったと思うのですが、本当にそれだけだったのか、どうなんでしょう?
E: 破棄というと、こっちからやめてやったという感じですが、実はそろそろ潮時かなーと会社側の空気は感じてて(笑)、はっきりもう無理です、と言われる前に離れた、ということです。
H: 例えばこの間のECDR(注9)の盤面に"FUCK CCCD"と書いてあったのが、もう本当に格好良かった!わけなんですが、一般的に作り手側としては買ってもらいたいもので、ダビングはあまりされたくないというのがあるんじゃないですか?
E: そりゃ買ってくれるにこしたことはないんですが、ダビングされるのは全然構わないです。でも今回はダビング用の生CD-R代とか手間とか時間とか考えても、買った方が楽だと思える価格設定にしたつもりです。AVEX離れたのも3000円もするCD出したくなかったからってのも大きいです。
H: AVEX時代のベスト盤『マスター』の回収っていうのもありました。あれって原因の詳細は何だったんですか?
E: 回収はされてなくて、出荷停止です。「マス対コア」のユウ・ザ・ロックのパートで「おカマラッパー外放り出し」ってところが、キングギドラの回収事件(注10)があったせいで、社内で問題になって、そこを消してから出し直す、ということになったんですね。
H: 結構長い間オーダーしても全然入ってこなかったんですよ。ECDRとほぼ同じタイミングでのリリースだったこともあって、一緒に買いたかったのに買えなかった人も大勢いたような気もします(注11)。先ほどの話の中で、AVEX内の雰囲気が、、、というくだりがありましたが、問題作にして超傑作『SEASON OFF』に対する一般的な反応っていうのはどうだったんでしょうか?あれって日本で生まれたヒップホップのひとつのマイルストーン的なアルバムだったと思ったんですが。
E: 評判は良かったんですけど、セールスには結びつかなかったということです(笑)。
H: 参加陣もリョウ・アライにイルリメと、早いし分かっている感ありありでしたもの。『失点』での参加メンバーはどうなっているんですか?
E: 僕がトラックとラップを録音して、ミックスダウンとマスタリングを(イリシット)ツボイ君です。
H: 今回ゲストがいない原因というのは何かあるのですか?
E: それはやっぱり、金が無くてギャラが払えないからです(笑)。
H: 石田さんというと、イルリメもそうですが、さかのぼれば『さんぴんキャンプ』(注12)の時もそうだったように、若手をフックアップするセンスが抜群というのがあると思うんです。たとえば今注目している国内の若手というと誰がいるんでしょうか?
E: 好きなアーティストは沢山いますけど。一緒にやってみたかったK.BOMB(注13)はすでにセッション実現しちゃったし。そんな感じで自然にリンクしてくのは嬉しいです。
H: セッションというのは、イルリメとK.BOMBとやったやつ(注14)ですね。『失点』もそうなんですが、所謂ブレイクビーツの上にラップというのじゃなくなってきていますよね。これはどういった流れでそうなっていったんでしょうか?
E: ドラムが無いってことですね。ビートというか。なんかねー、打ち込みのスネアにしろキックにしろハットにしろ、全部、ここが何拍目ですよ、っていう標識にしか思えなくなっちゃって。
H: 機材の変化というのも大きいのかな、と思ってたんですが。この間、僕の家に未発表曲(注15)のマスターCDRを焼きにいらっしゃった時(注16)に、タスカムの4チャンネルのMTR(注17)だったことにビックリしたんですよ(笑)。あの曲に関して使われたトラックというと、必然的にバック・トラックに2チャン、ラップに2チャン、というシンプルなものになるわけですよね。トラックはどういった機材で作られているのでしょうか?
E: ROLAND W-30という、サンプリングができるキーボードを使ってます。サンプルした音をキーにアサインして、曲によっては弾いたりすることもあるし、パッドじゃなくてキーなところが面白いというか、まだまだ独自の手法を開発できそうです。
H: ライヴの時に弾いている?あれですね。では、ジャンルとかアーティストなどで、トラック・メイクに影響を受けているものというのはあるんですか?
E: ギャングスターの新作は、サンプル・ネタの選び方の目の付け所がヤバイなと思ったり。
H: ビートがクォンタイズ(注18)されていない感じに、REQ辺りのミュータント・ブレイクビーツ勢(注19)にも通じる部分があったりするなあと勝手に思ったりもしているんですが、あのビート感はシーケンスで組まれているのではないのですか?
E: キーを押すタイミングです。シーケンス組んでないですから。というか、W-30のシーケンサーの使い方知らないんですよ(笑)。10年も使ってるのに(笑)。
H: え!ということは完全弾き語りスタイル?で作られているのですか?完全にライヴ録音ということになるんですね(笑)。では、いつ頃からあのスタイルに変わっていったんですか?
E: レコーディングだと、『スリル・オブ・イット・オール』に入ってる「大脱走」がそのスタイルだけで作った最初のトラックです。で、その曲をライヴでやることになった時に、既にアナログ盤も出来てたんですが、レコーディング前のW-30のキーにアサインしたサンプル・ネタを弾くのと、ツボイ君が同じ曲のレコードをターンテーブルでこするというのを同時にやるというスタイルが出来たわけです。
H: スタイルと言えば、常々感じていることなんですが、90年代前半のアルバムのジャケットなんかで石田さんのファッション(注20)を見ると、明らかに今と違いますよね。かなりオシャレ系というか(笑)。
E: 今はもう、所謂NO FASHION(注21)だからなー(笑)。知り合いのバンドのTシャツとかしか着ないし。でもねー、92年ぐらいまでは、とにかく向こうのラッパーの新しいファッションをイチ早く取り入れるということに命をかけてた(笑)。例えばティンバー(ランド)のブーツをB-BOYアイテムとして履いたのは僕が日本で一番早かったはずだし。結構、金も使ってましたねー。ムロ君ほどじゃなかったけど。トゥループのセット・アップ着たムロ君見てくやしかったりしてました(笑)。
H: NO FASHION!石田さんがセット・アップを着ている映像が浮かばないんですが(笑)、かつては着てたりしたんですか?
E: 89年に初めてN.Y.に行った時に買った水色のナイキのセット・アップは、早速N.Y.のダウン・タウンで着てたら、知らない女の子に「クール!どこで買ったの?」とか聞かれて嬉しかったりした思い出があります(笑)。
H: 下北ライフ(注22)でおなじみの石田さんですが、服を買うエリア、というとやはり下北ですか?
E: そうですねー。わざわざ代官山に買いに行ったりはもうしませんね。例えばボトムだったらディッキーズのチノ、サイズはウエスト34インチ、レングス30インチだけがあればいいんだけど、これが意外に見つからなくて。一番街に一件売ってる店があって。パンクの店なんですけど(笑)。すそを切らないでレングスで探すというこだわりだけはあります。
H: え〜、それでは、お互い眠くなってきたところで、そろそろおしまいにしましょうか(笑)。改めて『失点IN THE PARK』について何か一言お願いします。
E: いや〜、もっと早く出したかったんですけど(笑)。今度の『失点』は結構、自分で聴きたくなって聴くことが多いという珍しいアルバムです。
H: では最後に、今後の予定を教えてください。
E: ライヴは今のぺースで続けます。リリースは、どっちが先になるかわかりませんが、ECDR-02としてミックスCD、それとECDVD-01としてライヴDVD、今年中にどちらかは出したいです。あと、イルリメ君とK-BOMBとやったセッションをイルリメ君が出してくれるはずです。
H: 長々と(注23)本当にありがとうございました。
E: いえいえ。


▼ ECD が JET SET TOKYO 店頭から選んだお勧めディスク
MU/AFRO FINGER AND GEL OORUTAICHI/DRIFTING MY FOLKLORE SUICIDE/HALF ALIVE CEX/ROLE PLAYA
MU /
AFRO FINGER AND GEL
OORUTAICHI /
DRIFTING MY FOLKLORE
SUICIDE /
HALF ALIVE
CEX /
ROLE PLAYA
筆者註:
1) オースリアはウィーンを拠点とするストイックな電子音響/テクノイズ・レーベル、メゴ。最近では、ツジコ・ノリコが衝撃のデビューを果たしたレーベルとしての知名度の方が高いような気もしますが、そもそもは極めてハードコアな姿勢及びサウンドゆえ、アナログでのリリースすら殆ど無く、中心核的な存在であるピタことピーター・レバーグのポスト・テクノ名盤『ゲット・アウト』がモイカイからLPでライセンス・リリースされた時はちょっとした話題になりました。
2) AUTOPOIESES:かつてドイツの名門電子音響レーベル、ミルプラトーとその傘下レーベルであるリトーネルの看板ユニットとして登場、ライヴ盤までリリースするほどの大きな注目を集めたものの残念ながら解散。メンバーのエックハルト・イーラーズはマーズやベトリーブ名義などでも活躍中!
3) JETSET TOKYOの最寄りカフェ。JETSETスタッフもランチによく利用させて頂いてます。
4) 口どけ生茶:従来の生茶に対し増量使用された玉露の甘みが、好き嫌いの分かれるところ。
5) 2003年4月17日、杉並区の児童公園の公衆トイレに反戦メッセージを書いた青年が逮捕され、"落書き"としては異例の重罪である『建造物損壊』で起訴されました。『失点 IN THE PARK』のそのジャケットはその現場写真を素材にしたものになり、アルバムの売り上げの一部は彼の救済活動団体に寄付されるとのこと。(『REMIX』 NO.146磯部涼『DAILY BEATS』より)
6) COPY CONTROL CD:アーティスト、レーベル、ライターそれぞれの立場からの様々な思惑が入り乱れて、大きな議論を巻き起こしている火種。興味のある人は色々と調べてみると興味深いはず。
7) イルドーザー
8) 様々な団体、ミュージシャン、ライターたちが参加して行われたイラク戦争反対〜有事法制反対〜路上開放を訴えるデモ。ミュージシャン・サイドからは、ストリート・レイヴというアプローチとしての色も強かったようです。主な参加DJには井上薫、フォース・オブ・ネイチャーのKENT、EYE、ムードマン、秘密博士、マユリといった錚々たるメンバーが名を連ねました。なお、デモから派生したパーティーなどでは、ECD自身もDJとして参加しています。
9) 今年3月に自主制作で発売されたライヴ・CDR・アルバム『LIVE N JAPAN』
10) キングギドラのマキシシングル『UNSTOPPABLE』、『F.F.B.』が、商品回収、出荷停止となった事件。回収の原因となったのは、歌詞中に含まれる「ホモ野郎」「オカマ」「HIV」といった同性愛者やHIV感染者に対する不適切な表現。ニュースなどにも大きく取り上げられました。
11) 『MASTER』(注:最近になってようやく再出荷になった模様。)
12) '96年、ECDの呼びかけで行われた伝説のジャパニーズ・ヒップホップ・イベント。ブッダ・ブランド、ライムスター、キング・ギドラなど今ではすっかりビッグネームとなった面子が大挙参加しました。
13) シンク・タンクのMC。メンバーは他に、BABA、JUBE、NOXのMC陣と、DJチームのAK-47(=DJ YAZI 、DJ WADAKE)とで構成されています。
14) これがもう凄いことになっています。ECD、イルリメ、K.BOMBがそれぞれ繰り出したネタ(←ドラムは一切なしのフリー・ジャズ色強い混沌サウンド)に、3MCが自在に言葉を重ねていくというスタイルで繰り広げられました。
15) 先述のデモで逮捕者が2人も出てしまったことに対するECDからの痛烈なプロテスト・ソング「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ」。ちなみに、今のところこの曲に関してはリリース予定はありません。
16) 石田さんの家にはCDライターが無いのですが、諸事情から急いで焼く必要があり、急遽僕の家にて焼かれることとなりました。
17) バンド経験者なら誰もが知っているはずの、タスカム社製4チャンネルのカセット・マルチ・トラック・レコーダー。最もシンプルな宅録機材と言えます。「まさかECDが!」とビックリするポイント。
18) リアルタイムでの打ち込み用語:基本的には4の倍数の拍に自動的に寄せて記憶する機能。これを使うと、手打ちで打ったデータが、ジャストなタイミングでシーケンスされます。
セカンド・アルバム『WALK THIS WAY』
19) ファットボーイ・スリムに代表されるビッグ・ビート系の名門レーベル、スキントからデビューし、前作からはワープに移籍した変り種トラック・メイカー。最近では、同じくグラフィック・ライターとしても活躍するキッド・アクネのセカンド・アルバムに共同プロデューサーとして参加し、異形なブレイクビーツを披露しています。
20) 例えば'93年のセカンド・アルバム『WALK THIS WAY』での石田さんのファッション参照!
21) 10年くらい前のUKで生まれた、T-SHIRTにジーパンといったラフなファッション・スタイル。(石田さん談)
22) 「下北沢から三軒茶屋とかその辺りのことは大体分かる。」とのことです。ただし、そんな石田さんでも、JETSETスタッフも通う下北定食屋名店「三福林」の一番高いメニューは未だに食べたことが無いとのこと。(勿論JETSETスタッフには手が届かないアイテム)興味ある人は是非チェックされたし。
23) 時計は既に朝の6時を回り、すっかり外は明るいどころか真夏の日差しに気温はぐんぐん上昇中、という状況に。既に石田さんも僕もグロッキー状態だったことは言うまでもありません。
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