Column » 磯部 涼: BACK 2 BACK » vol.2 [2005-06-17]

プログレッシヴ・ハウス、ドエル・サウンド・フォース、ガチャピン

石黒君と電話で、「プログレッシヴ・ハウスのパーティに行きたいね」という話になった。プログレッシヴ・ハウスというとハード・ハウスの流れを組む大味なハウス、程度の印象しかなかったけれど、最近はクロス・オーヴァーなプレイがモードらしく、昨年のアンセムとなったネイザン・フェイク“スカイ・ワズ・ピンク”のジェームス・ホーデン・リミックスを聴いたり、レコード屋のコーナーにサイケデリック・トランスからクリック・ハウス、果てはいわゆるエレクトロニカまで突っ込まれているのを見るだけでも、何だか面白いことになっているのが分る。その上、遊びに来ている女の子がとにかく可愛いらしい。しかし、会場となっているのはID・チェックのある、いわゆる大箱で、僕も石黒君もIDの類いを一切持っていないので、「今度、役所に作りに行かなきゃね」というところで話は終わってしまった。あれから何ヶ月か経つけれど、面倒臭くてまだ何もしていない。プログレッシヴ・ハウスのパーティへの妄想だけが膨らんでいく。そういえば、ID・チェックどころかボディ・チェックまでされるようになってからというもの、渋谷のハーレムもご無沙汰だ。TTCのテキに、「ハーレムはヤバいよ。クランクみたいなE・チューンで、東洋人のキュートなB・ガールと子供みたいな顔をしたB・ボーイが踊ってるんだぜ。あんなシュールな光景はないよ!」と言われて、久し振りに覗いてみたくなったけれど、やはり、その前に役所か教習所に行かなくてはならないし、残念ながら今の僕は、何千円もする入場料を払えるような経済状況ではない。
鉄壁なエントランスを潜ることが出来る選ばれた人間たちのパーティは純粋培養で変態度を増して行くのだろう、と嫉妬する、僕のような選ばれざる人間たちのパーティは、あちら側からすれば、それはそれで変態に見えるのかもしれない。昨日も、東高円寺の小さなバーで、ゴールドで回していたベテラン・DJのプレイで、12時間ぶっ続けで踊った。要するにダンス・ミュージックのパーティは、大袈裟に言えば、金があるか、気合いがあるか、どちらかでないと行けないという、二極化に向かいつつあるわけで、となると何だか寂しい気もする。
去年の夏、ドエル・サウンド・フォースがサウンド・システムを出すというので、東京駅から20分ぐらいの某駅からさらに歩いて20分ぐらいの海沿いにある公園まで足を延ばした。終電で到着し、駅前のコンビニで酒を買って会場まで歩いていると、横をこれ見よがしとばかりに族車がノロノロ通り過ぎていく。入り口の駐車場にはロー・ライダーがずらっと並び、ヒップホップやユーロ・ビートを爆音で鳴らしている。公園自体も相当広く、まず、入り口のいちばん近くではドエルが音を出していて、その奥の野球場ではギャルとギャル男がサイケデリック・トランスで、さらに奥の海岸沿いではヒッピーっぽい格好をしたひとたちがゴア・トランスで踊っている。それぞれがそれぞれに、勝手にやっているといった感じだけど、間に壁があるわけではないので、次第にパーティが混ざっていく。モノリスのDJでギャルが「このブース、なんかまったりしてていいね?」と和み、ピーチ・ボーイのDJでヒッピーがガシガシ踊り、リョウキチのDJを単車にまたがった暴走族が興味深げに眺め、サイケデリック・トランスのDJが“Rock The Casbah”のトランス・ヴァージョンをかけたので僕は思わず「これ、何てアーティストですか?」と聞きに行った。いい夜だったと思う。2年前のサウンド・デモも、山じゃなくて、街の中でレイヴをやったらどうなるんだろう? というのがスタートにあったけれど、この時も、隔離された場所で、特定少数の人たちと遊ぶのとはまた違う、どう転ぶか分らない面白さがあった。すっかり夜が明け、寝そべりながらレゲエを聴いていると、ゾロゾロと帰っていくギャルとギャル男たちと入れ違いに、野球のユニフォーム姿のおっさんたちが入ってくる。野球場のベンチには疲れ切ったキグルミンの女の子が3人寝ている。まだ中学生ぐらいだろう。ピカチュウとプーさんとキティちゃん。めちゃくちゃ可愛い。友達のピンポンダッシャーが彼女たちをデジカメで撮ろうとしているので、「起こしちゃうから止めなよ」とか言っていると、後ろから「私も撮って?」という声が聞こえる。振り向くと、朝日をバックにガチャピンが駆けてくる。
「そろそろ暖かくなってきたし、またあそこでパーティをやろうか」という話が誰からともなく出始めている。ここ1年ぐらい、的の真ん中を狙って矢を放つようなハードコアなパーティでばかり遊んでいたから、久し振りに、人込みに向かって小石を放りなげるような、いい加減なパーティで遊んでみたい。

 
 

AUTHOR PROFILE:
磯部 涼

78年生まれ。96年、執筆業開始。以降、「remix」(アウトバーン)、「blast」(シンコーミュージック)、「STUDIO VOICE」(インファス)、「MUSIC MAGAZINE」(ミュージックマガジン)、「indies issue」(ビスケット)などで定期的に執筆、SPACE SHOWER TVで構成、JET SETで企画・営業を担当。04年10月、日本のアンダーグラウンドについて書いた原稿をまとめた単行本「ヒーローはいつだって君をがっかりさせる」が太田出版から刊行された。06年初頭には「日本語ラップ史(仮題)」を河出書房から刊行予定。DJのレギュラーは、東高円寺「GRASSROOTS」にてシロー・ザ・グッドマンが隔週でオーガナイズしているパーティ「スナック」の第一水曜日。