「タイ・マン」の巻
■漫画「最強伝説 黒沢」をアタマから読み返していたら、大変なコトに気がついてしまいました。第一巻の、わりと冒頭部分です。今日は自分の誕生日なのに、会社の同僚がまったく気づいてくれない……と、主人公黒沢がイジイジ悩み苦しむエピソードがあります。ご存知でしょうか。黒沢といえば、44歳、独身、建設会社の平社員、友人なし、恋人なし、人望なし、目標なし……というダメっぷり。そんなダメ全開の黒沢の誕生日がなんと、昨年産まれた小生の息子と同じ、12月10日だったのであります。いやはや。……ということは、うちの息子は黒沢と同じ星回り。大丈夫なんでしょうか……。■なんだかちょっと不安になったので、ネットで同日生まれの有名人を検索してみることにいたしました。すると眼に飛び込んできたのが、安田大サーカスのクロちゃん……。ちなみに、その日に起こった歴史的大事件を見てみると、68年に東京都府中市で三億円事件発生……。86年にタイトーがファミコン向けゲームソフト「たけしの挑戦状」発売……。いやはや。大丈夫なんでしょうか……。■まぁ、黒沢はタイトルに「最強伝説」とあることから推測してこれから先、おそらく格闘で「最強」の道をひたすら歩みはじめるはずです。なので、嘆く必要は無い、のかもしれません……。それにしても福本伸行さんの漫画だからきっと、誕生日ひとつとってもなんらかの意味が込められているはずだよなぁ……と思い、さらに調査に励んでみたところ、分かりましたよ。12月10日は、福本さんご自身の誕生日なんですね。もうひとつの自分を描く……というニュアンスを込めて、黒沢の誕生日をご自身の誕生日にしたそうです。やれやれ。■ダメな男が自覚のないまま、それもかなり戸惑いながら、売られた喧嘩にひとつひとつ応えていく。そのうちに、最強の道を歩んでしまう……。「最強伝説 黒沢」とはテンションは正反対ですが、主人公が格闘へ巻き込まれていくそのプロセスが近いかもと思われる作品に、森恒二さんの「ホーリーランド」があります。「ヤング・アニマル」連載のコミックであります。こちらの主人公もダメ人間といえばダメ人間でして、元ひきこもり。常に挙動不審気味の彼が、ふとしたことから不良をなぎ倒してしまった。さぁ、大変。以降、「ヤンキー狩りボクサー」という異名とともに、不良が群雄割拠する夜の街にずるずると引きづり込まれていきます。逃げればすむのに、逃げられない。下北沢の治安が尋常じゃないぐらいに悪化している……というありえない状況ながらわりとリアルに読めるのは、閉塞しきった青少年の視線からストリートを眺めている、という点にあるのかもしれません。■ご存知の方も多いと思われますがこの作品は最近、ドラマ化されました。関東では、テレビ東京の深夜に放送されています。総合演出は、金子修介さん。原作がしっかり面白いので、ドラマはどちらに向かうのかな……と毎回楽しみに見ておりますが、なかなかグッド。まず、格闘シーンが素敵です。アクションが非常にうまく演出されているので、話に強弱があって、合間に入る主人公の自閉症的な独白が原作以上に効いているように思いました。■主人公は唯一の親友がリンチにあったことをきっかけに、覚醒。街の破壊者へと変貌します。キレやすい子どもたち、大人たち……というようなニュースがますます多い昨今でありますが、これほど閉塞した環境下ではむしろ、キレやすいぐらいがちょうどいいのかもしれません。怖いのはどちらかというと、キレにくいひとがキレてしまった時の歯止めがきかないこの感じ。いやはや。ほんと、大変なことになっています。■今シーズンの連続ドラマでは結局、その「ホーリーランド」ともう一つ、内館牧子さんが脚本を担当している「汚れた舌」を見ています。前者はストリートを舞台にしたアクション・ドラマ。後者は閉ざされた室内が印象的な恋愛ドラマ。設定だけとれば正反対ともいえる2作品なのですが、なんといいますか、全篇に漂っている空気感は近いといえそうです。閉塞感といえばいいのでしょうか。ほんと日本は、家の中も外も息が詰まるよね……と、見ていてそんな気分になってしまう。■家族との関係も、仕事場での関係も、恋人との関係もすでにズタズタなのですが、なぜかずっとそこに縛られている。逃げればすむのに、逃げられない感じ。内館さんが手がけたここ数年のTBSドラマに必ずといっていいほど漂っているのが、そんな閉塞感です。「週末婚」、「昔の男」、「年下の男」……という路線ですね。■小生は特に「昔の男」がフェイヴァリットだったんですが、ひとりの女を取り巻く人間関係のその窮屈な感じは、「汚れた舌」でもそのまんま引き継がれています。実にトゥー・タイト。特に、主人公の最大の敵となる女……それは結局どちらも家庭に留まっている主婦なのです……の描き方がほぼ同じなんですね。「汚れた舌」の前回放送でいよいよ発狂にアクセルがかかった主婦・牧瀬里穂さんを見ていて、おっとこれは……と。富田靖子さんがフランスパンで主人公の撲殺をもくろむ、「昔の男」の名場面を思い出した方も多かったのではないでしょうか。いやはや。ほんと、大変なことになっています。■今回はなんだか、マンはマンでも「対マン」のお話になってしまいました。ちなみに、一対一で勝負をすることを意味する、この「対マン」という俗語ですが、語源は「対懣(たいまん)」という漢語だそうです。もともとは、お互いが相手に腹を立てること、相手に対してもだえること、を表す言葉だったそうです。もだえること……ですよ。いやはや。閉塞した人間関係は結局、対マンに向かう。そういうことでしょうか。



