Column » ECD: 失われたWANT LIST » vol.4 [2006-01-15]

野坂昭如『鬱と躁』

インタビューや対談というのが苦手だ。まだ、自分の中で答えを出していないようなことまで場の雰囲気に呑まれて口に出してしまい、あとで悔やむということがよくある。ついこのあいだも中島美嘉が自分は駄目で、という発言が雑誌に載った。その記事を読んでも、僕が何故、中島美嘉が駄目なのか、という肝心なことが全く読み取れない。「分らない……(苦笑)」で終わってしまっている。これではブログなどによくある、わざわざ「つまらなかった」とか「カッコ悪い」とだけ書き捨てるような輩と同じだ。
そんなことがあって、何故、中島美嘉が駄目なのか、改めて考えていた。彼女のCDを買ったことはない。それでも、TVで耳にする頻度は高い。ほとんどはスポットCMや深夜のチャート番組で断片を耳にするだけだが、一回か二回、ミュージック・ステーションか何かでフル・コーラスを歌う彼女を観たことがある。そして、そんな風にTVでもてはやされる歌手には珍しくミュージック・マガジンなど音楽誌での評価が高いことを知る。順序が逆ならCDを買うこともあったかもしれない。雑誌で誉められていれば気になる。聴く機会がなければ自分でCDを買うしかない。中島美嘉の場合はTVにその歌声が溢れていた。どんなに誉められても、その歌声を聴くとわざわざ買う気にはなれなかった。僕にはただ、お行儀のよい歌にしか聴こえない。音楽的には岡村孝子なんかと同じような保守的なものでしかないのではないか。中島美嘉にあみんの「待つわ」を歌わせたら、かなりハマるのではないかと思う。映画「NANA」が公開中で、中島美嘉はロック・シンガーの役を演じている。これまた原作も映画も観ていない。しかし、断片だけはTVでイヤというほど見ている。中島美嘉は漫画で描かれたロック・シンガーに寸分違わず成り切っているように見える。その成り切り方が見事過ぎて、イメージに「忠実に」「従順に」奉仕する姿しか見えてこない。漫画の絵にあそこまで似せるのは奇異である。岡村孝子は木綿っぽい、いかにも清潔そうなルックスで保守性をアピールした。しかし、中島美嘉はロック・シンガーの姿を借りて保守性をアピールする。今はそういう時代なのだ。
それにしても中島美嘉に限らず、TVに出ているタレントの誰も彼も保守的な奴ばかりになってしまったとつくづく思う。保守的でなければTVに出してもらえない、という感すらある。若いひとたちが保守化しているというひとがいる。僕はそういう大雑把な観測に同調したくない。そもそもTVを見ない若者も増えている。だが、TVという限定された職場を見る限り、その保守化は認めざるを得ない。
と、ここでやっと本題。僕は子供の頃にTVの歌番組で野坂昭如が「マリリン・モンロー・ノー・リターン」を歌うのを見たことがある。ラジオでも何度も聴いたことがある。僕は自分の曲「迷子のセールスマン」で、「マリリン?」のサビのフレーズ「この世はもうじきお終いだぁ」を借用させてもらっている。特に考えてのことではない。「マリリン?」に深い思い入れがあったわけでもない。バック・トラックのサンプリングのループを繰り返し聴いているうちに、自然に「この世はもうじき?」と口をついて出てきたまでのことだ。歌というのはそんな風にひとの体に残ってゆく。野坂昭如はあの「オモチャのチャチャチャ」の作詞者でもある。この曲もかなりの深度で僕の中に残っている。野坂昭如が「マリリン?」のヒットと同じ頃、「四畳半襖の下張り」という小説の表現を巡って、いわゆるワイセツ裁判を戦っていたこともよく覚えている。その後、田中角栄に対抗するためだけに、わざわざ田中角栄の地盤である新潟の選挙区から国会議院に立候補したりしたこともあった。今、流行りのチョイワルオヤジどころか、かなりワルいオヤジとして僕の目には映っていた。世間の受け止め方もそんな感じだったと思う。当時のTVには野坂昭如程度にワルい感じのする大人はいくらもいた。というかTVはそんなワルい大人の遊び道具のようにすら見えた。あのNHKの、しかも子供向けの人形劇「ひょっこりひょうたん島」の内容が、今の目で見ると驚くほど左翼色が濃かったりする。番組ばかりかCMも、本気で商品を売る気があるのか分らないような、大人の悪フザケとしか思えないものも多かった。それら全てを肯定するつもりはない。TVが左翼一辺倒になってしまうのもどうかと思う。しかし今のTVには、ワルいひとと言えばニュース番組で報道される本物の犯罪者か、ドラマの中の架空の悪人ばかりで、本当に世の中に楯突いているようなひとが出ているのを見ることは稀になってしまった。
反抗や反権力といったことをイメージすらできない世代が育っているようなイヤな感じがある。反抗や反権力のイメージはこうやって昔のレコードを紹介するような形で、過去から掘り起こしてくるしか方法がないのだろうか。

 
 

AUTHOR PROFILE:
ECD

ジャパニーズ・ヒップホップ黎明期から活動を続けるオールド・スクーラー。2007年11月には自身の半生を振り返った著書『いるべき場所』を出版。そして、2008年2月21日、通算11作目となるアルバム『FUN CLUB』(FJCD003)をリリース。その中から「L.A.M.F.」と「FINAL JUNKYのテーマ」の2曲が、自身のレーベルFINAL JUNKYとJET SETとのダブルネームにて絶賛発売中。
 

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