「ヤットデタマン」の巻

■年末ちょっと暇ができたので部屋の整理をしていたら、CD棚の奥から封印を解かれたかのようにひょっこりと「タイムボカン名曲大全」が出てきたので、大掃除のBGMとして、久しぶりに大音量で聴いてみたんです。ご存知の方も多いと思いますが、こちらは91年にリリースされた2枚組のCDでして、「タイムボカン」(75~76年)から、「ヤッターマン」(77~79年)、「ゼンダマン」(79~80年)、「タイムパトロール隊オタスケマン」(80~81年)、「ヤットデタマン」(81~82年)、「逆転イッパツマン」(82~83年)、「イタダキマン」(83年)…まで、いわゆる<タイムボカン・シリーズ>の主題歌や挿入歌が44曲ずらーっと容赦なく並ぶ、恐ろしい全集なんです。何気なく流しっぱなしにしているといつも、飛び交うデタラメな言葉の洪水にアタマがくらくらしてきます。なので、今回はなるべく掃除の手を休めずにBGMとして楽しんでみたんです。が…いやはや、やはりへヴィーですね、山本正之さんの世界は…。■いわゆる山本節に久方ぶりに酔いしれながら思い出したのは、十数年前によくツルんでいたひとりの友人のことでした。ハンサムでマッチョないい男。しかし、その友人はドライブ中、なぜかいつも大音量でアニメソングをかけるんです。普段アニメなんて見てないはずなのに、なぜかガンガンにアニメソングなんです。で、ある夜、理由を聞いてみることにしたんです。するとただ一言…だって高揚するんですよ、というんです。たしかに、アニメソングを立て続けに聴いていると、独特の煽られ方をする時があります。特にその友人がカーステレオでヘビー・ローテーションしていたのは、ロボットものや戦隊ものだったのでなんといいますか、軍歌のテンションに近かいのかなぁ、なるほどねぇ…。なんて相づちを打ちつつ。個人的にはその時、ある楽しみに気づいたんです。それは、まったく見たこともなく、むろんなんの思い入れもないアニメの主題歌を立て続けに聴くことのスリル。ストーリーやキャラクターとまったく切り離された状況でアニメソングを聴き込んでみる…という遊びです。■そもそもは、歌詞のデタラメさに負おうところが大きいのですが、アニメの主題歌にはご存知のとおり、仮想の敵、仮想の地、仮想の名…聞いたこともない固有名詞が一般常識のように唄い込まれています。つい最近の経験で言いますと、たしか福岡のデカダント・デラックスで<ゴッドファーザー>というパーティーを行わせていただいた帰り道だったと思います。何気なく聴いてみようかな、と思ってチャンネルを合わせた、某航空会社の国内線の音楽プログラムが凄かったんです。次々と聴こえてくるアッパーなトラック。歌謡曲としては、どう考えても意味不明すぎる歌詞。何語だ、これは。呆気にとられてしまい、それが単なるアニメソングの専門チャンネルだと気づくまでに、数分を要してしまいました。ヤマタカEYEさんが以前インタビューで、70年代ディスコのパラダイス思想について言及されていましたが、ディスコ・ミュージックが持つ「今ここにパラダイスがある」という強烈な思い込みにも共通する、なんというかサイケデリックな夢想を、アニメソングにも時々感じたりなんかしちゃったりするんです。■<タイムボカン・シリーズ>でいいますと、小生が毎週食い入るように見ていたのは「ヤッターマン」までです。なので、この「タイムボカン名曲大全」を聞き流していて、具体的なキャラクターが鮮明に思い浮かんだり、ストーリーを反芻したり、あるいはつい自らの少年時代を思い出し郷愁を感じてしまったりするのは、15曲目までなんです。16曲目以降、つまり「ゼンダマン」以降の楽曲は小生にとっては全く安心のできないパート。音楽が、本来あるべきそれぞれの物語、それぞれの登場人物から乖離して聴こえてくるんです。■そんな「タイムボカン名曲大全」の危険な後半パートで、唯一懐かしさを感じたのが、ある種の違和感とともに脳に刷り込まれていた一曲、鈴木ひろみつさんが歌う「ヤットデタマン・ブギウギ・レディ」でした。ほんの数滴だけP?ファンクの精子がたらされた和物ブギーですね。そう、「ヤットデタマン」のサウンド・トラックといえば、シリーズでは珍しくディスコ・アレンジが特徴的です。山本正之さんのコメントによると、そもそも「ヤットデタマンの歌」を歌っているトッシュというボーカル・グループ自体も、「上野かどこかのディスコ」で見つけて来た…らしいです。他にも、和物ディスコ好きの方にはたまらない、尾良有作&ピンク・ビッギーズ「ディスコ・ダイゴロン」も収録されています。こちらは「どすこい、ディスコい」がメイン・フレーズのラテン・ディスコですね。系統としては、ドクター南雲とシルバー・ヘッドホーンの「ソウル若三杉」(歌詞は仲畑貴志さん!作曲は鈴木茂さん!!)の痒さをしっかり踏襲した、正当派相撲系コミック・ディスコです。コズミック・ディスコもいいけど、コミック・ディスコも、ね。なんて。いかがでしょう…か。ストーリーから乖離した多くのアニメソングがそうであるように、時代が経ち、ちゃかしている対象と乖離してしまったコミック・ソングもかなりサイケデリック。■ちなみにこの「ヤットデタマン」の一連のディスコ・アレンジを担当されているのが、EPOさんや大貫妙子さん、竹内まりやさんなどのアレンジャーとしても知られるキーボーディストの乾裕樹さん。個人的に好きだったのは、フランク永井さんの「WOMAN」と「愛のセレナーデ」かな。両者とも山下達郎さんとともに編曲に携わっていらっしゃいます。「ヤットデタマン」が放送されていたのが81年~82年ですから、その頃ちょうど並行的に携わっていたであろうアレンジ仕事としては、81年10月からテレビ東京で放送された、「まいっちんぐマチコ先生」の主題歌「私はマチコ」と「ボクらは小さな悪魔」があります。あとは、「がんばれ!!タブチくん!!」なんかも同時期の仕事ですね。その後のアニメとしては、音楽監督として「装甲騎兵ボトムズ」と「蒼い流星SPTレイズナー」を手がけていらっしゃっていたり…。今度気をつけて聴いてみたいなぁと思うのは、70年代終わりのにっかつ仕事でして、池波志乃さん主演の「白く濡れた夏」や、小沼勝監督の「金曜日の寝室」も乾裕樹さんの仕事だそうです。いやはや。

 
 

AUTHOR PROFILE:
MOODMAN

パーティ"HOUSE OF LIQUID", "GOD FATHER","SLOWMOTION"などのレジデンツDJとして活動中。世の中の新しいクラブ・ムーブメントと常にシンクロしつつ、バトルDJやマイアミ・ベースの発掘などつねにフレッシュなアイデアをパーティに持ち込み続けている。2006年には東京地下シーンを詰め込んだコンピ『NOSTALGIA OF MAD』への楽曲提供や、元スーパーカーの古川 美季のリミックスなども発表。
 

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