LSD『1983 ? 2005 HATE』
'05年の9月にN氏から、「ぜひ、お時間があれば明日来てください」というメールをもらって、吉祥寺バウスシアターに"CRISTAL VOYAGER"というサーフィンのドキュメンタリー映画を観に行った。
そのメールによれば、「ラスト20数分間、ピンク・フロイドの"エコーズ"が爆音で流れて、カメラが波に突っ込むだけなんですが、これがもう明日が最終の劇場上映でしか味わえない、強烈な体験なんです!」ということなのだ。僕はその当日8時過ぎまで仕事が入っていたが、仕事場の半蔵門から吉祥寺まで、急げばその最後の20分には間に合いそうだ。仕事場を出てすぐタクシーを拾って四谷の駅から中央線に乗り、無事、最後の20分を観終わった。その後、吉祥寺駅近くのファミレスでN氏から聞かされたのが、このLSDのCDの話だった。「憎悪をゾウアクと読み間違えたまま歌っててそれが…」という話だった。
僕は'76?'78年くらいの、いわゆるオリジナル・パンクと呼ばれている時代の海外のパンクは、リアルタイムで輸入されたレコードのほとんどを聴いている。国内だったら、東京ロッカーズから関西NO WAVE、それから吉祥寺「マイナー」を拠点としていたようなバンドまで。しかし、その後の'80年代のパンクは洋邦共にほとんど聴いていない。海外ならディスチャージとかクラス、国内だとギズム、ガーゼ、OUTO。どれも名前は知っていても、ライブにも音源にもリアルタイムで触れることはなく過ぎてしまった。LSDもそんな中のひとつである。だから、僕より10歳下のN氏によるLSDの話も、焦点がよく飲み込めないままにただ聞いていた。それでも、そのCDを薦めてくれていることだけはわかったので買ってみたのである。このCDにはDVDも付いていて、渋谷「屋根裏」でのライブや練習スタヂオでのリハーサルの様子などが収録されている。このリハーサル映像が良い。
僕は昔から音楽が死ぬ程好きなくせに、バンドをやっているような人たちにある偏見を持っている。ルサンチマンと言っても良い。楽器が演奏出来ること自体、小さな頃からピアノを習わされていたような、裕福な家庭に育った子供だけに許された特権ではないのか。そんな連中が、海外からの最新流行にいち早く飛び付き、独自の価値観を形成して共同体を作り、一般人と自分達を差別化する。はっぴいえんどからYMOにいたるエリート集団はもちろん、その対極にあるように見られていたキャロルも、その支持母体であるヤンキーの一体感がどうにもなじめず、好きになれなかった。親も貧乏人で本人にも何の取り得もない、そんな、言葉どおりのパンクスがやっている音楽にお目にかかることはほとんどなかった。どんな素晴らしい音楽に出会っても、「どうせ○○じゃないか」、そう言って、自分に何も出来ないことの言い訳をしていたのだ。パンクを自称して出てきた連中だって大差なかった。特にリザードの上昇志向はパンクとは真逆のものだと思っていた。
しかし、LSDは違っていたのだ。'82年という、もう、パンクがクールじゃない時代だったせいもあるかもしれない。このDVDで見られるLSDは本当にクズのような連中である。メンバーのひとりは18歳のころからファッション・ヘルスやSMクラブでバイトしていたらしい。ヤンキーのようにいずれ世間に迎合するような種類の不良ではない。ファッションでひとやま当てるような才覚もありそうにない。そうかといって、世界の不幸を一身に背負っているように深刻ぶって見せることもない。メンバーの彼女だろうか、女の子が回すカメラに向かっておどける姿。見ていて恥しい部分もあるが心底楽しそうである。その恥しい部分も含めて、おそらく彼らとは同世代であるだろう僕自身が当時、思いっきり発散していたであろうどうしようもなさ。まるで自分を見ているようだ。それは僕の場合、その後、ラッパーとして遅いデビューをして、CDを出したりする中で自分をパッケージングしていき、そのつもりはなくても隠蔽してしまったどうしようもなさだ。それがLSDではむき出しになっている。
インナー・スリーブには'05年にこのCDを出すにあたってこんなコメントが寄せられている。「失笑をかえればそれで幸い 2005.FEB.ACHY」。失笑を買うことを恐れるあまり、ツマらなくなってしまっている表現、そんなものが世の中には多すぎやしないか。改めてそう考えるのである。
関係ないけど、この連載一回目でちょっと書いた、'80年代の終わり頃のヒップホップ再発CDが'05年にかなり出た。スティーゾ、ジャスト・アイス、トール・ダーク・アンド・ハンサム、それにクラウン・ルーラーズなんかまで。
ECD : 失われたWANT LIST
- Vol.1 タージ・マハル旅行団『July 15.1972』 [2005-01-07]
- Vol.2 富岡多恵子『物語のようにふるさとは遠い』 [2005-04-12]
- Vol.3 V.A.『Inspiration & Power 14 Free Jazz Festival 1』 [2005-11-02]
- Vol.4 野坂昭如『鬱と躁』 [2006-01-15]
- Vol.5 LSD『1983 ? 2005 HATE』 [2006-05-09]
- Vol.6 村八分『Recorded Live '73』 [2006-06-05]
- Vol.7 V.A.『Hotwax presents Girls, It ain't easy JAPANESE POPS 1970'S』 [2006-09-17]
- Vol.8 光束夜『ファースト・ライブ 1979 吉祥寺マイナー』 [2006-10-23]
- Vol.9 V.A.『黄金のニューリズム』 [2007-02-21]
- Vol.10 サイトウミワコ『ガール ミーツ ボーイ』 [2007-04-19]
- Vol.11 Cock C'Nell『re-incarnation』 [2007-07-11]
- Vol.12 天地聡子『天地聡子大全〜フーコのコマソン・パラダイス』 [2007-10-10]
- Vol.13 燻 裕理『MIGOKU』 [2008-02-05]
- Vol.14 外道『外道LIVE』 [2008-05-03]
- Vol.15 KIM JUNG MI『NOW』 [2008-08-05]
- Vol.16 ジャックス『腹貸し女 若松孝ニ』 [2008-11-03]







