「ニンジャ・マン」の巻
■ 古いVHSを無作為に取り出して整理でもしようかなと眺めていたら、おそらく90年前後のオン・エアーだと思うのですが、伊勢丹が提供していた情報番組『WHAT'S NEXT』が収録されており、フレッド・フリスさんのインタビューがはじまりました。ちょうど彼の映画『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』の日本公開があった頃だと思うので、91年の番組かもしれません。国境を次々と越えて音楽する即興演奏家の姿を真摯に追ったこの短編は今年の4月に、やはり彼が出演している『TOUCH THE SOUND』の公開にあわせてリバイバル上映されていたそうです。そんなことなどつゆ知らず、すっかり脳の片隅に追いやってしまっていた録画映像を眺めながら、当時来日公演を覗きに行ったことなどを思い出しつつ、番組中ずーっと東京の街をフィールド・レコーディングするフリスさんの手に握られたソニーのポータブルDATに目が止まります。そういえば当時この映像に感化されたのか、いやそうでもなかったのか、突発的に有り金を叩いてまったく同型のソニーのポータブルDATを買ったこと。そのDATは残念ながら短命で、購入後すぐ、タイの小島をフィールド・レコーディング中にテープごとクラッシュしたこと…。約15年前の記憶が次々と連鎖をはじめます。■ 当時はとにかくVHSテープに3倍モードで気になった映像を興味のままにひたすら録り重ねたものですが、その適当さ加減が今となっては非常に面白く、なんといいますか、90年代初頭の自分の脳みそを、そこに影響を与えた素材からわりと冷静に傍観できたりするんです。ちなみにこの『WHAT'S NEXT』という番組のエンディング・タイトルは中野裕之さん。音楽はキノ・モデルノ。いわゆるビデオ・ドラッグのコンビが担当していたのですが、そんなことももちろん脳の裏でぐっすりと眠っていた情報なのでありました。■ そういえばこのキノ・モデルノ。90年にリリースしていたアルバム『SYNC YOU』とその約3年後にUKでシングル・カットされた"SYNC YOU-REMIX"(フランキー・バレンタインがリミックス担当です)は、バイノーラル・レコーディングをはじめ3D処理にこだわった、つまりアシッド・ハウス以降のトビを模索していた初期和物ハウスの傑作なのですが、いまだに評価が低くて残念なんです。■ …なんて思いつつ、ビデオ・ドラッグなエンディングが終了すると、若干のノイズ。その直後にVHSに重ね録りされていた素材は、90年のレゲエ・サンスプラッシュのライブ映像でした。NHKの衛星でたしか深夜に録画したもので、カット割りとか相当ゆるゆるです。フリス?ビデオ・ドラッグ?ダンスホール・レゲエという絶妙な流れで登場したのは、全身黄色のパジャマのような衣装を身にまとったシンガー、ココ・ティーでした。個人的に衝撃だったのは"LOSOME SIDE"をおもむろに唄いだしたことでして、この曲は昨年リリースさせていただいた小生のミックスCD(ストリクトリー・ロッカーズ・シリーズの一枚。プロモ・オンリー)にもセレクトしたぐらいフェイバリットな楽曲なのですが…15年前の自分がこの曲のライブ映像を楽しんでいたなんてこと…やはりまったく記憶にございません。■ そんな中で唯一、このVHSでやたらと鮮明に憶えていたのが、赤毛のワン・レングスで登場したニンジャマンのライブ・シーンでした。ステージに登場するや否や、とにかくメンチ切りまくり。怒りまくり。他のMC引きまくり。ビッチ踊りまくり…。どことなく、どおくまんっぽいんですよね。ゆるいなぁと感じていたライブ映像が一気に引き締まるんです。66年生まれのキングストン育ち…ということは恐ろしいことに、小生とそれほど年齢は変わらない…らしいです。「アグリーマン(醜い男)」の芸名でDJデビューし、「ダブル・アグリー」、「ダブル」などと改名後、80年代後半に「ニンジャマン」として時のひとに。とにかくバッド。シャバ・ランクスをはじめとするメジャーどころのMCにマシンガンのように暴言を乱射するスタイルは、YOUTUBEにもいくつかアップされているのでぜひチェックを。特に91年のスーパー・キャットとのクラッシュが凄いんですが、そう、ここで、フリスさんとの共通のキーワードが浮かび上がってきました。「即興」ですね。■ 個人的には、久々に目の当たりにしたニンジャマンの勇姿に打たれ、ここ最近すっかり追うことを忘れていた彼の動向を調べてみたのですが…いやはや。出てくるのは、事故や喧嘩のニュースばかり。04年2月には「ニンジャ自動車事故で入院」という見出しのもと、「先月はビーニマンが自動車事故で重傷を負って入院、その3日後にはエレファントマンが自動車事故で軽傷を負うなど、最近やたらと事故のニュースが多いが、今度はニンジャマンが自動車事故を起こして入院した」…って、大丈夫なのか「マン」たち…。さらに05年6月には、「ニンジャマン再び自動車事故で重傷」の見出しが…いやはや、人生そのものが即興。その人生を凝縮したのが彼らの音楽なんです。■ ここからは蛇足です。ここ日本で忍者といえば、60年代の『少年忍者風のフジ丸』、『サスケ』、『忍者カムイ外伝』からはじまり、時代の趨勢に合わせて様々なテイストでヒーロー化されてきました。小生の世代では『科学戦隊ガッチャマン』なんですが、そう、「忍者」に「マン」がくっついた例は意外と珍しく…というのもそもそも「忍者」の「者」と「マン」が意味的に被るので、「馬から落ちて落馬した」的なミステイクを背負ったネーミングなんですよね。■ ニンジャマンと聞いて個人的にまず思い出すのは、91年から約1年間「週間少年サンデー」に連載されていた漫画『炎のニンジャマン』でしょう。島本和彦さんの作品ですね。城塞高校「忍術忍法部」の戦闘頭である主人公、忍火満太郎が送る青春物語です。■ 次に思い出されるのは、アニメ『忍者マン一平』です。日本テレビ系列で1982年10月から全13話放映されていた作品で、主人公の柳生一平は、山奥のトキオ村に住む私立忍者小学校の4年生。特技は、目玉が飛んでいって、撮影・再生をしてくれる目ん玉特捜隊。そして髪の毛ミサイル…。ライバルは、テクノ村メカ小学校…って、活字にするとちょっといい感じですね。■ 一方、特撮の分野では『忍者戦隊カクレンジャー』にもばっちりニンジャマンというヒーローが登場しています。こちらはさすがに世代的にノー・チェックなんですが、妖怪大魔王に騙され、千年前に壷に封印され、宇宙へ追放になっていた…というキャラ設定らしいです。大嫌いな言葉は「青二才!」で、そう呼ばれると、怒りが頂点に達し本来の姿であるサムライマンに変身します…。いやはや。ここで、気がついたのですが、今回のキーワードは「即興」と「暴力」だったのかもしれません。



