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Column » ECD: 失われたWANT LIST » vol.7 [2006-09-17]

V.A.『Hotwax presents Girls, It ain't easy JAPANESE POPS 1970'S』

中華料理を食べに行くと店内で台湾や香港の現地のポップスが流れていることがある。最近、その中にR&Bやヒップホップの体裁を取った曲が結構あるが、日本の有線で流れる和製R&BやJ-RAPの割り合いと比べても多くなったと思う。以前から、時代遅れのニュー・ジャック・スィングもどきのアレンヂの曲をたまに耳にすることはあったが、それがここにきて急速にクォリティーが高くなっている。US産への肉薄度という点では日本産に負けていない。「よくできているなぁ」と感心する。
ただ、歌そのもの、ラップそのものに心を動かされたことは残念ながらまだない。耳をすり抜けていってしまう。僕は最近やたらとラップを聴くのが好きで、US産のラップのCDを月に4、5枚は買うのだが、結局、アメリカの黒人の使う英語の響きが好きなのだと思う。厚みが感じられるからだ。ラップが生まれて30年近く、その試行錯誤が積み重ねられた厚み。それが響きとなって伝わってくる。同じ意味での厚みは20年を超えた日本語ラップの最近のいくつかの成果にも感じることができるのだが、そうは言ってもまだまだ数は少ないので、日本語を聞きたいと思うとどうしても昔の音源に手が伸びてしまう。というわけで、ここからが本題。

70年代の女性アイドル・ポップスのコンピレーションである。1曲目に収録されている小川みきの「マイ・ロスト・ラブ?初めての愛」は和製R&Bの傑作として知られた名曲だが、僕も和モノを掘り始めて間もない96年くらいに結構な額でオリジナルの7inchを手に入れたことがある。といっても、このコンピレーション自体はそんなDJ的視点で編まれたものではなく、もっと間口を広げてポップスとして良質で今でも聴くに値する曲が集められている。どの曲も日本語の響きに無理がなく耳に心地よい。和製ポップスの歴史も「ヴァケイション」等の日本語カヴァーで始まった50年代から数えれば、70年代でもう20年の歴史があるわけだ。やはり厚みがある。
60年生まれの僕は、70年代はそのまま10代である。13の頃から洋楽に興味を持ち始め、14、15でいっぱしのロック少年。17にはパンクスになっていた。それでも、TVの歌番組は欠かさず見ていたし、AMラジオで歌謡曲のチャート番組を聴くのも好きだった。それなのに、このCDに収められた曲のどれひとつをとっても当時全く聴いた覚えがない。ひょっとしたら一度くらいは耳にしているのかもしれないが、繰り返し聴く機会がなかったから記憶に残っていないのだろう。つまり、売れていなかったのだ。にもかかわらずこのクォリティーの高さ。もったいないことである。

僕のようなアンダーグラウンドで活動するアーティスト、マイナーな立場をあえて守ろうとするミュージシャンに対して「閉じている」と批判するひとがよくいる。しかし、アンダーグラウンドには数こそ少ないけれど、確実に聴衆がいる。ライブは大体5、6組で行なわれるが、自分を目当てに来た客でなくても面白ければ歓声をあげてくれる。少ない聴衆にだが開かれた空間がそこにはある。売れるために作られた音楽は売れなかったら誰にも届かない。売れたら売れたでまた閉じてゆく回路ができてしまっているのだ。ライブハウスで活動していたバンドがメジャー・デビューしてそこそこ売れるようになると、ライブ活動はワンマンが基本、それもアルバム発売に合わせたプロモーション期間にしか行なわなくなる。人気があればあるほどチケットを取るのは困難になる。そうやって、売れれば売れるほど熱心なファン以外からは遠ざかってゆくのである。

話を戻そう。このCDに収められたような不幸にして売れなかったアイドル達は、TVやラジオでなければどこでその歌声を披露していたのだろうか。このCDに集められた音源が今も聴くに堪え得るのは、しっかりしたサウンド・プロダクションによるところが大きい。生のストリングスやブラス・セクションなどが惜しげもなく導入されているのだが、皮肉なことにそのゼイタクさがライブでの再現を難しくする。レコードのサウンドと同じアレンヂで歌おうと思ったらカラオケのテープで我慢するか、大編成のバンドをバックにつけるかの二者択一になってしまうのだ。実際、70年代のTVの歌番組には伴奏のためのオーケストラが不可欠だった。手元にある歌謡曲のライブ盤を見てみると、ザ・ピーナッツのバックが高橋達也と東京ユニオン。ピンクレディのバックが前田憲男が指揮する稲垣次郎とソウル・メディアだったりする。TVの歌番組に出るのもコンサートを開くのも売れて初めてできることだ。このCDに収められた楽曲のうち、どれだけがライブで再現されたことがあったのか。

と、ここまで書いた後で、YOU TUBEでなんと佐東由梨が「ロンリー・ガール」を当時の歌番組でオーケストラをバックに歌う姿がUPされているのを見てしまった。

 

ECD : 失われたWANT LIST

 

AUTHOR PROFILE:
ECD

ジャパニーズ・ヒップホップ黎明期から活動を続けるオールド・スクーラー。2009年9月16日、通算12作目となるアルバム『天国よりマシなパンの耳』(FJCD004)をリリース。2009年10月には、レコード会社Avexとの契約打ち切りから現在にいたるまで、ECDに訪れる日々のリアルすぎる出来事とその驚きを素朴な言葉で綴った著書『ホームシック 生活(2~3人分)』を出版。
 

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