第六話
人というものは暇な時間が出来てしまうと、酒を飲んで盛り場で相撲をとってみたり、女の人にやさしくしてセックスしようとしてみたり、この星の未来が心配になって急に嫌な気持ちになってしまったり、と中々落着かなくなってしまうものらしい。だからと言って朝っぱらから顔を洗ったりシャンプーをしたりして、どこかに出かけて遽しくしていれば、そんな落着かない目に遭わずに安らぎのあるなんとかライフを送っていけるかと言えば、そんな風にも上手くいかなくて何故だかとても嫌な気持ちになる。
うっかりしていると見落としてしまうものなのだけれども、命ある限りこのような世間のカラクリに騙され続けて生きていかねばならない、というのも面白くないのでなんとか解決方法を模索してみなければ、と先日一所懸命に考えてみた。しかし、なかなかにものすごく長いこと人類を煩わし続けてきた、長寿カラクリなことだけあって隙を見つけるのがなかなか難しい。最終的にはそこにたどりつくという見立てで、ちょっと違うことを考えたり思い出したりしてみた。
ついこのあいだの六月に、磯部涼とタカラダミチノブと一緒に長野県松本市へ土日の連日出演で行ってきた。ハコはダイエーかジャスコの駐車場の裏手にある 「瓦」という名前のクラブなのだけれども、クラブというよりは年季の入った大きな一軒家で、若者連中があれこれと不思議なアイデアを持ち寄って真面目な感じでやっている、といった体になっている。
玄関でスニーカーを脱いでふわふわしたスリッパに履き替え、どうもはじめましてこんばんわと玄関から上がると、向かいにお客さんから入場料金を貰う人がいて、そこを右に入ると数組の男女がお酒を飲んだり小さな声で話をするラウンジになっていた。オーガナイザーさんが気前よく酒を飲ましてくれるというので、さっそくたくさんのお酒をいただいてから、こっちがダンスフロアですと案内してもらってラウンジの奥の扉を開けたら、畳の六畳間ダンスフロアがあって数人のお客さんが胡坐をかいたり雑魚寝したり、とのんびりした事になっていた。踊るとなると泥棒の人みたいな摺り足になってしまうかも知れない。とかなんとか思いつつ、案内の人にこんどは二階に連れて行ってもらうと、布団がたくさん敷いてある十二畳くらいのスタッフやお客さんの宿泊用の大部屋が二部屋、さらに三階には八畳と二畳の隠れ部屋があった。二畳の隠れ部屋は面白くて、畳をはぐると階下の大部屋が覗けるといった大人っぽい小細工がなされていた。まぁ、そんな感じのクラブとして考えなければ様々な楽しみが見つけられそうな不思議バコだったのだが、腹も減ったし時間もまだまだあるものだから、信州蕎麦の美味い店に行ってみたくて、連れて行ってくれそうなやさしい人について行く事にした。
お勧めの蕎麦屋に向かって磯部やタカラダと先導されながらぷらぷらと歩いていると、薄暗くなった右手の川向のビルに囲まれたへこみの敷地に神社が見えた。次の日には姫路城、彦根城、犬山城とともに四つの国宝城郭のひとつとされる憧れの松本城へ観光に行こうと思っていたから、関連あればいいなぁと思いながらぼんやりと目に入れていると、なんだか鳥居が黒色に見えたものだから、近眼のガチ目なくせにダンディズムのようなものの為にコンタクトを入れていない自分の目が間違いで、鳥目化したとも疑って注意深く見直してみても、通常の神社にある赤色の鳥居ではなくて黒色の鳥居だ。気になるものだから磯部にも確認してみたのだがやはり彼も黒色に見えると言う。気になるほどのことでもなく自分が世間知らずなだけで、ほんとうは自分の知っている神社以外は全部鳥居が黒色なのかもしれないし、なんだか珍しいのは珍しいのだけれども、少し年配の方なら誰でも結構知っているくらいなのかもしれない。しかしやはりはじめてなので気にはなる。
蕎麦を食い終えて、「瓦」に戻ってからも強く印象に残っていたものだから、スタッフの人に何故ここの神社は鳥居が黒いのかと聞いてみた。ところがおかしなことに「そんな神社はありません」と答える。そんなことは絶対になくて先刻自分の目でしっかりと見たことは事実であるし、一緒にいた磯部も黒色だとはっきり言っていた。人を嘘つき呼ばわりするようなスタッフでは話にならんと憤りを感じ、もうちょっと年季の入ってそうなスタッフさんにも同じことを聞いてみたが彼もまた「そんな神社はありません」と同じふうに答える。その後も地元の方ですかと念を押しながら皆に同じ質問をしたのだが、全て同じ返答だ。漠然とした不安が小さくなった心に絡まっている。外では延々と雨が降り続けて……。(続く)

