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Column » LATIN RAS KAZ: "WRITTEN LASKAZ" » vol.4 [2006-11-14]

イケナイコトカイ

珈琲と男はちょっと甘めの方が良い。最近気に入った缶珈琲のコピーです。同感です。こんにちは、頭がチョイワルおやじlatin ras kazです。この連載も今回が最後になってしまうが、レコード・ショップ発の(意地でも"レコ屋"とは言わないぞ)フリー・ペーパーなので、僕なりの音楽の話で締めたいと思います。

先日、隣の部屋から、深夜にも関わらず何だか非常識なヴォリュ?ムで音楽が聴こえるので、何の曲か気になって壁に耳を付けてみると、最近の日本語の曲らしい。しかもカラオケで歌ってる。これがキーの結構高い曲で、サビの部分になると辛くて咳き込みながらも、よほど気に入っている曲なのか、聴かれている事も知らずに夢中で歌っている。しかもたぶん一人で(推定20代後半男性)。
初めはうるさくて、うっとうしかったから、壁でも叩いて苦情を言おうかとも思った。しかし、そうしなかったのは、ほんとに何度も咳き込みながらも歌うのがたまらなく可笑しくて…。けなげにも聴こえたからというより、こんな間抜けな歌が聴けなくなるのは少し勿体無いし、ただ苦情を言うのはカドがたつし芸が無い、まあ、そのうちやめるだろうとも思ったからだった。
しかし、その後も変な時間に時々、まるでジャイアンの嫌がらせを思い出させる隣の部屋の独りリサイタルは、何度も繰り返された(だいたい朝晩の一日二回公演。レパートリーはこの曲だけ)。本当に非常識な時間に非常識なヴォリュ?ムでおっぱじまるから、さすがにキレそうになるのだが、あの魅惑の咳き込み唱法は、こちらを呆れさせると同時に怒りも半減させる。隣の部屋のこの公演が途切れると、ちょっと寂しかったりするくらいだったが、忘れた頃にまた繰り返される。

だいたい何の前触れもなく急に始まるそのリサイタルは、俺が勝手に推測するところ、初めは恐らくヘッドホンであの大好きの曲を聴いているのだが、聴いてるうちにたまらなくなり歌わずにはいられなくなるのではないか。聴かれているとも知らずに、…いや、むしろ聴こえるようにやっているのか、その無邪気に、もしくは、アホのように一端のシンガーになりきって歌うその歌を何度も聴いていると、こちらも天性の悪戯スピリッツを刺激される。向こうにも聴こえるように手拍子で合の手を入れてみたり…隣の歌のテンポに合わせて音楽をかけてみたり…逆嫌がらせというかセッションをする事もあった。
それでも隣人も歌うのやめないからすごい。こっちの音に気が付いてないのかも知れないけど、何だか変な意地の張り合い、をしているうちに、隠し撮りをしたそのボーカルに勝手にオケ付けてCDにして商売したろか…などとイケナイ想像をしたこともあった。

それだけ続くとさすがに、いつのまにか、誰の歌かも知らないその歌を覚えてしまい、時折頭の中で鳴り出すようになる。知らない隣人が歌う知らない歌。なんだか気になり出す。過去に知らない音楽を知るきっかけは色々あれど今回のこんなのは初めてで、おかしなきっかけだ。これは手の込んだ新手のプロモーションか。
ある日、偶然見ていた歌番組でその曲が分かった。スキマスイッチの曲だった。でも何だかあの咳き込みがないともの足りない…ということはないとしても、おそらく隣からあの歌が聴こえてこなければ知らずにいたであろうこの歌。言わば自分で選択した訳では無い、偶然に巡り会った音楽。

これから死ぬまでにそうやって、どれだけの音楽に巡り会うのだろうか?

 
 

AUTHOR PROFILE:
LATIN RAS KAZ

80年代にテクノポップや初期のヒップポップ・ムーブメントに影響をうけ音楽製作を始める。DJとしては過去にBEASTIE BOYS、AFRIKA BAMBAATAAのフロントアクトをつとめた他、様々なオールドスクール/エレクトロ・イベントにも出演。RHYMESTER、TOKONA-X等の楽曲製作、またLL COOL J太郎(杉作J太郎)/"RADIO"ではサウンドプロデュースをつとめた。ヒップホップを中心しつつも素材を選ばない『EDIT』スタイルを得意とするクリエイター。最近では邦楽、洋楽問わずに類似楽曲を独自の手法で斬る、サウンド版モーフィングを提唱中。音楽製作のみならず執筆からラジオ番組の構成から出演までと『聴く』以外のすべての五感をも満たすべく、活動のフィールドを拡大中である。