「ナッシングマン」の巻
■コペンハーゲンの街を散歩したのははじめてだったのですが、20分ほど歩いてみたらやはりばっちり、中古レコード屋さんに行き当たりました。一軒にぶち当たることができれば、あとは芋づる式です。自慢できる特技を持たない小生ですが、はじめての街に降り立って、中古レコード店を見つけること。それだけは得意なんです。■10月初頭のお話です。東京よりちょっと肌寒い。そんな季節のコペンハーゲンとストックホルムにて、<トーキョー・サウンド・リヴォリューション>というイベントが開催され、エゴラッピン、ペペ・カリフォルニアというエクセレントな音楽家の方々とともに参加させていただく機会に 恵まれました。大盛況だったイベントの詳細についてはいずれどこかで触れさせていただくとして、そう、中古レコードです。■イベント会場であるヴェガというクラブから街の中心部まで、リハーサルの合間を縫って約一時間半の散歩。その短い時間で出逢った中古レコード屋さんは、3軒でした。わずか3軒でコペンハーゲンの中古事情すべてを語ることはできないとは思いますが、どちらのお店にも共通していたのが、店内がまるで整理されていないこと。そして、80年代のレコードがやたらと多いこと。その2点でした。中古盤を眺めることの面白さはレアな一品を探すこととしばしば短絡的に思われがちですが、なんと言えばいいのでしょう。その土地が過去にどんな音楽を聴いていたのか。それを総体として捉えることができるという楽しみの方が先に立ちます。東京のように尋常じゃないほど細分化された尋常じゃない数の中古レコード店がある街は例外として、世界の各都市はたいてい10軒足らずの中古レコード店を有しており、わずかその10軒弱に、その都市の過去の音環境の大半がぐーっすりと眠っているのです。その眠りをさくさくと揺り起こすのが、楽しいんですね。■80年代のレコードといってもいろいろありますが、コペンハーゲンの安レコード棚で幅をとっていたのは、MTVで全世界を席巻したアメリカのポップス。そして、その影響からダイレクトに産み落とされたと思しき地元アーティストたちの作品でした。お、これはデンマークのマドンナだなとか、これはオランダのワム!だな…とか。ものまねバトルの素人コーナーにも匹敵するむずがゆさが背中を走りますが、そのむずがゆさはわりとどこの都市でも感じるむずがゆさでありまして、いつのまにか我が身を振り返らせているむずがゆさでもあるのでした。80年代アメリカのエキスがぽたぽたとこぼれ落ちているそんなレコード棚を片っ端からチェックしつつ、例えば、オランダ録音の80Sネオ・ロカの傑作、THE BLUE CATS"FIGHT BACK"だったり、ハンガリーの人気ネオ・ロカ作品、HUNGARIA"ROCK AND ROLL PARTY"だったり…。なぜだか気がつくとそっち系のレコードを大量に抱えて、会場へと戻った小生なのでした。国は違えどなんとなく、カウリスマキな気分を引きずっていたからでしょうか。■噂に聞いていた通り、どうやら中古レコード事情がいいのはストックホルムの方でして、事前調査の段階で20軒弱の店名があがりました。まずは、公演を行わせていただいたソドラ劇場近くの中古盤屋さんで大沈黙。倉庫のようなだだっ広い店内から黙々と、PERCUSSIONの"BEATWAVE"…などの作品を抜き出します。こちらは地元スウェーデンのエレクトリック・パーカッション・グループの84年の作品でして、"DON'T STOP"に続くセカンド・アルバムです。ブレイクダンスにぴったりな人力エレクトロ・ビートと、シンセの嵐。そこにひょっこり参加してしまっているドクター・ジョンのボーカル入りのトラックもかなり面白いのですが、彼らのユニークネスが表れているのはやはりインストゥルメンタルのトラックでしょう。それにしても、北欧のレコード墓場で日本人である小生が、ふと手に取ったジャケットの裏に"MANHATTAN JUNGLE (FOR SUN RA)"…なんて曲名を見つけて驚喜する。そのなんともいえない感覚。文化のよく分からない混ざり具合。■ストックホルム中心街の朝市でもやはり、売れ残っていた80年代ものに掘り出し物が多く、スウェーデンのニューウェーヴ・バンドUBANGIの"OH NO,I'M PREGNANT!"をはじめ数十枚を、半額セール棚から救出させていただきました。内ジャケットのメンバーの写真からスウェーデン産のファンカラティーナかな、と推測したらわりとその通り。明記されてはいないのですが82-83年の作品のようで、ちょっといなたいヘアカット・ワンハンドレッド。あるいは、女性ボーカルを加えたオレンジ・ジュース…といった感じ…なんて安心していると、そこにトーキング・ヘッズっぽいボーカルや、ジョー・ジャクソンっぽいフレーズが乱入します。ジャケはどことなく、バウ・ワウ・ワウ。曲によってはエレポップ風味のディスコに挑戦していたり…つまり日本の80Sのバンドの多くに聴くことのできるバラエティー感がここにもあり、アメリカ(そしてイギリス)を発信の源とする80Sの世界同時多発的な文化の混乱を堪能できる作品なのでした。"IN ZAIRE"のカバーも入っているので、クラブ使用としても重宝しそうです。ちなみにギターとボーカルを担当しているバンドの中心人物ORUPさんは現在も活躍されているということなのでホームページを見てみたところ、いやはやだいぶお歳を召していらっしゃいまして、すっかりアメリカかぶれのちょい悪になっていました。それにしてもアー写のやたらと多いホームページ。なにやら大御所の貫禄あるマッドさが漂っています。■マッドといえば今回の旅のお供に持って行った小説は、ジム・トンプスンの新訳「失われた男」でした。南カリフォルニアの小さな街の新聞記者を主人公とした、実にジム・トンプスンらしい良く出来た、ど・アメリカンな三文小説なのですが、妙に心にフィットしたのが"THE NOTHING MAN"という原題なのでした。どの街に出かけても、カスっカスな文化が大手を広げて自分を待っている。そのカスっカスが心地よく、気がつくとカスっカスしか愛せなくなっている。そんな気持ちと被ったのかもしれません。



