V.A.『黄金のニューリズム』
今回、紹介するのは'91年にリリースされた昭和30年代の歌謡曲のコンピレイション(Victor / VICL-60955)である。タイトルにある「ニューリズム」とは何か。黒沢進氏によるライナー・ノーツから引用する。
1950年代から60年代にかけて、日本のレコード界は毎年のように世界中のいたる所から流行しそうな音楽、ダンスを見つけてきては、”今年のニューリズムはこれだ!”として売り出すキャンペーン商法をおこなっていた。(中略)1955年の”マンボ”の大ブーム以来、様々なニューリズムが売り出されたが、成功したものもあれば、不発に終わったものもあった。最大の成功を収めたのは60年の”ツイスト”で、腰をひねるだけの単純な踊りが受けて風俗面まで影響を及ぼす爆発的流行を巻き起こした。以降、二匹目のドジョウを狙って次々に新しいリズムが売り出され、”サーフィン”、”モンキー”などが人気を集めたが、ツイストを凌ぐまでにはいたらなかった。そして、68年の”ブガルー”を最後に、日本のレコード会社は毎年手がけてきたニューリズム売り出し作戦をやめてしまう。(中略)69年のウッドストック以降のニューロックの時代に入ると、若者たちの音楽の志向・関心は英米一辺倒になってしまった。開放を旗印にしたものが、どんな音楽でも受け入れるのではなく、逆に音楽の聞き方をすごく狭いものにしてしまったという皮肉。楽しい音楽なら世界中のどこのものでもという昭和30年代のニューリズムの発想の方が、はるかにおおらかで風通しがよかった。
と、そんな話を突然聞かされても「ホントかよ」と思うひとも多いのではないか。60年生まれの僕に「”マンボ”の大ブーム」の記憶はない。僕が歌謡曲を意識し始めた6、7歳の頃には歌謡曲の主流は演歌とGSに移っていた。それなのに、僕はマンボやルンバなどのリズムに特別な懐しさを感じる。5年ほど前、セニョール・ココナッツのクラフトワーク・カバー集を聞いた時もそうだった。自分がどうしてこうも、マンボやルンバのリズムに魅かれるのか。答えは僕が子供時代に親しんでいたTVマンガの主題歌の中にあった。歌謡曲の世界では下火になってしまったニューリズムがTVマンガの主題歌の中で生き残っていて、僕はそれらを知らず知らずのうちに吸収していたのだった。しかし、そのことに気付くまで随分と時間がかかった。
僕が自分の作る曲に和物をサンプル・ネタとして取り入れたのは結構早い。86年に初めて作ったデモ・テープで村八分のギター・リフを使ったりしている。使えるネタを探して子供時代に聞いていたTVマンガの主題歌を聞き直すことはその頃にもしたはずだった。それなのに、その頃の僕はその中にニューリズムがもたらしたリズム・アレンヂの豊富さ、素晴らしさを発見することはなかった。当時の僕が探し求めていたのは結局、「インピーチ」や「ファンキー・ドラマー」のような使えるドラム・ブレイクやJB’Sのファンキーなホーンに「似た」ネタだけだった。和物にネタを探してはいても作ろうとしていたサウンドのお手本はあくまでもアメリカのヒップ・ホップだったからだ。「ヴァイヴレイション」「ロンリー・ガール」はそんな中で作った曲だ。
この頃の僕にとってヒップホップが、黒沢進氏が言うところのニューロックのように音楽の聞き方を狭くしてしまっていたことは確かだ。僕が和物を掘る中で「ニューリズム」の魅力に気付くのは実にこのコンピレイションが発表されてから10年も後のことだった。それは自分の作るものが「ヒップホップじゃなくてもいいや」と思えてからのことである。
このコンピレイションに収められたリズムは実に多彩である。マンボ、チャチャチャ、カリプソ、ドドンパ、スクスク、パチャンガ、ツイスト、チャールストン、ボサノバ、タムレ、スカ、アメリアッチ、中でもスカがすでに60年代の日本でも作られていたことは意外に思うひとも多いのではないだろうか。あの、ミリー・スモールの「マイ・ボーイ・ロリポップ」の日本語カヴァーが中尾ミエ、伊東ゆかり、梅木マリと三人もの歌手によってリリースされているのだ。僕はこのコンピレーションに収められた中尾ミエのバージョンより先に伊東ゆかりのバージョンを見つけて、よくかけていた。
今、クラブでブラジルのバイレファンキやタイのディスコを聞くことができる。同じようなことをメジャーのレコード会社がやっている時代があった。どちらがいいのかはわからない。ただ、露骨KITの親御さんがたぶん僕よりちょっと上くらいだろうからきっとニューリズムを思いっきり聞いてた世代で、なんてことを考えるのは楽しい。
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