ジョー・ミーク meets カリプソ(これホント)

僕が言うのもおこがましいのだが、ミュージシャンであれなんであれ、ある意味、音楽制作者の最高の誉れは「自分のサウンド」を作り上げることではないかと思う。空気の振動で感知されるところのものだからね。人を気持ちよくさせ、地獄にも突き落とす、そんなもの。「自分のサウンド」というのは「その人の独自の世界観」といってもいいかな。他の誰でもない自分だけのもの。しかしそれを目指せば、その道はとても険しいことくらい誰だってわかる。まず想像する、これはあいつのサウンドだ!ってはっきり言えるのは一体どれくらいか。すごく少ないことに気付く。じっくり講釈すると数は出てくるだろう、これはこういうことでオリジナルな音だとか。しかし一発でわかる衝撃っていうのはごく限られている。

ポップスで誰でもすぐに思い浮かべる「独自の世界観」を持っていた人(*あえて過去形)、それはやっぱりフィル・スペクター、そしてなんといってもジョー・ミークかな。近年はMBVのケヴィン・シールズも僕は挙げられると思う。この三者の共通項ははっきり言って<狂人>だ。レス・ポールもいるし、エリントンもいる。他にもいるよね。結局共通してるのは……○▲■って噂で……中傷になるからやめよ。

60年代来、危険な言動が目立ったスペクターは遂に殺人を犯してしまった。数年前『クリエイション・レコーズ物語』を読んで納得したのが、MBV時代のケヴィン・シールズは強迫観念症で完全に精神を病んでいたこと。初めて知ったが、驚きはない。あ、そ、やっぱね、てな感じ。その反面、クリエイション周辺の真のオリジネイターはケヴィンで、周りの奴らは彼の音楽にならっていたことも了解できた。プライマルすらそうだったんだよ。今のケヴィンは知らないけど、近作を聴くかぎり、精神は常人になったのかもね。そして今回触れるジョー・ミーク、女装マニアのホモセクシュアルで精神分裂症と今やはっきり述べられ、周知の通り、スタジオ兼住居でメイドを銃殺し自らも自殺した。音楽的にも性的にも愛したバディー・ホリーの命日にだ(何故か大江健三郎の『セヴンティーン第二部』のラストが頭をかすめる)。

この40、50年来の音楽、今のところの自分の結論は、狂人か変態でないと衝撃的サウンドは生み出せ得えないのか!?だ。時代が上るにつれ、コピーがコピーされ、味が混ざって素(もと)の味が薄くなっていく。その素を作るのが天才(狂人)。

ちょっと重くなってしまった。これからカリプソについて書くってのに……オッケー、ちゃちゃっとやるよ。その天才中の天才、ジョー・ミークは50年代半ばから60年代のごく初期まで、つまり自分の独立レーベルと独立プロダクションを立ち上げるまで、雇われエンジニアとして(たいていは)たいして興味も無い音楽の録音技師を勤めていた。ちなみにフリーランスのエンジニアも、一個人の独立レーベルを立ち上げたのも、ミークが最初の人だったとされている。この雇われエンジニア時代にロックンロール以外の色んな音楽を<やらされ>ていて、この中にカリビアン音楽が含まれていた。イギリスは西インド諸島からたくさんの人が移民し、50年代からカリビアン・サークルが生まれていたところ。ラテン系レコードの需要も右肩上がり、カリビアン/カリプソの第二の本場?はイギリスになったという。

この時代の録音は英の正直者ジョンのレコード店(Honest jon)でこの数年シリーズとなっている。これで英カリプソを知った人も多いんじゃないかな。ただしアチラはパーロフォン/EMI系列の音源。ミークのは基本的に当時のライバル会社のパイ(PYE)系列なので、知る限りではまだ再発になっていない。こっちも優れた作品があるのに残念だ。

この時代は録音技師(エンジニアと書くよりこっちが当時の雰囲気を捉えている)にはまだアーティスト性は必要とされておらず、科学技師のような白衣にネクタイの出で立ちでコンソールの前に座っていた。まさに技師が機械を調整してます、という具合。機材メーカーも皆無だったから、彼らは機材の修理もし開発もした。しかしミークはそれだけではなかった。違っていた。どう違っていたかは『Songs in the Key of Z』(マップ刊)を読めば恐ろしいほどわかる。違い過ぎてそのうち会社で仕事できなくなった。アウトサイダーだからね。

当時は今のようにエンジニアと呼ばず、レコードには技師が「バランス(調整)」とだけクレジットされていて、ミークのそのバランス仕事には、パイの「キング・オブ・カリプソ」EPシリーズのうちの2枚、トリニダード・スチール・バンドのEP盤、フランク・ホルダーの10インチ・アルバム、ドン・カルロス・オーケストラのチャチャのアルバム、ノエル・アンソニーのカリビアン・アルバム、デッカのフランク・ホルダーのソロEP盤がある。何か忘れている気がするな。他にもうちょっとありそう。あ、カリビアンではないが、ラテンでチコ・アーネッツのアルバムでも仕事してるね。

驚くべきはミークのスチールバンドもの。A面ではストレートに普通に録っているが、B面では明らかに暴走している。演奏や楽想なんてなんでもいい、録音とミックスの仕方だけでオリジナルなものにするというのがミークの真骨頂で、これが既に確定していることを知る。こんな音像のスチールバンド聴いたこと無い。

もうひとつ極めつけは、フランク・ホルダーのデッカのEP盤で、これは英ジャズにエキゾチカを持ち込んで今も英ジャズでは高い評価を受ける人、ケニー・グラハムの楽団がバッキングしている。このケニー・グラハムは盲目の奇才、ムーンドッグの楽曲に高度な編曲を施したアルバム『ムーンドッグ組曲』を発表していることも特記したい。どちらも衝撃の作品だ。苦労しても探して聴く価値はあると思う。

こうしたバランス仕事で思いもよらぬ様々な音楽に触れたミークが、それをもとに楽想を膨らませてブルーメンのアルバムを作った、と僕は想像している。あれには(当時の流行のリズムとしての)ロックの要素は皆無だ。明らかにワールドミュージックがコアにある。エキゾチカ感覚といっていい。あと、ずっと言いたかったのが、アウトローズのシングルには『I Hear New World』の関連楽曲の別テイクと、それから派生したとてつもなくヤバい作品のがあるのだ。あー、すっきりした。

 
 

AUTHOR PROFILE:
江村 幸紀(えむらこうき)

エム・レコードの代表で制作担当。ごぞんじ<水中シリーズ>に続く平成19年9月のエム新譜ニュー・エントリーは、シェリフ・リンド以来となる超久々のレゲエ・タイトル、ブレンダ・レイ『ワラッタ』。ド変態DIYレゲエ大傑作となっております。