Cock C'Nell『re-incarnation』
中古盤を買い求める楽しみのひとつに、レコードそのものとは別に、解説文 - ライナーノーツを読むということがある。CDでも復刻モノなら、当時の解説がそのまま再録されていたり、復刻にあたって新しく書かれた解説が付いていることが多い。それが新譜になると、最近では解説が添えられているCDはめったにない。昔は新譜にも解説が付いていた。それを今、読むのが面白いのだ。
映画のパンフレットに、当の映画の出来をうんぬんするような解説が載っているのを僕は見たことがない。しかし、レコードの解説にはどういうわけか、当のレコードの内容について厳しい注文を付けているような解説が珍しくない。レコードを聞いて、自分が面白いと思ってもつまらないと思っても、自分以外の人間はどう感じたのかを知りたくなるのは自然な欲求だ。古いレコードを聞いていてそんな欲求にかられても、当時のレコード評などを探すのは大変だ。レコードの解説が付いていればそんな欲求にも答えてくれる。レコード発表当時に書かれた解説には、そのレコードを生み出した当時の世相等についても生々しく語られていることが多い。当時の空気がそのまま真空パックされているのだ。
ここに'81年にピナコテカというレーベルからリリースされたコクシネルというバンドのデビュー・アルバムに添えられた解説文がある。
コクシネルはギター、ベース、ドラムス、バイオリン、ボーカルの5人編成(うちボーカルは女性)のバンドである。一聴して、次のような感想を持った。「一寸カーヴド・エアに似ている…キーボードはいないが」「いわゆるプログレっぽい」「一寸アナクロ?」「聞きやすい」等々。
この解説文の筆者は、カーヴド・エアというバンド名が、この解説文を読む者には説明不要だと思っている。それだけでも時代を感じる。この後、解説はバンドの音楽性から離れ、インディペンデント・レーベルの存在意義についてへと脱線する。
インディペンダント・レーベルは徒に完成された作品の提供者であることを目指すよりも、むしろ作品のよしあし、出来不出来などにこだわらず、先ず同時代の証言者であって欲しいということだ。(中略)わずか1、2年で「ラフ・トレイドはもうダメだ。これからは4ADやオブジェクトだ」などと言い出すマニアの心変わりの早さも問題だが、反面わずかのうちに初期の良い意味でのラフさから中途半端なポップス路線に転じてしまったかのようにも思われるラフ・トレイドのような行き方にも疑問を持たざるを得ない。
当時を知る僕もさすがに忘れてしまった、ラフ・トレイドというレーベルへの期待と失望がここには記録されている。今読むとこの解説自体が「同時代の証言者」になっている。
さて、今回紹介するCDは同じコクシネルでも、'04年の演奏を収めたライブ盤(いぬん堂 / WC-047)である。デビュー・アルバムは'80年の演奏を収めたライブ盤だった。その間、実に24年。僕は80年代初頭のコクシネルのライブは何度か見ている。デビュー・アルバムの解説でも指摘されているように「押し付けがましさが無く、心地良く聞ける」反面「印象が希薄」なバンドだったのは僕にとっても同様だった。ところがこの'04年の演奏の素晴らしさはどうだろう。演奏されている曲は当時からのレパートリーだし、バンドの主要メンバーにも変化はない。ロックのような音楽の場合、例えばデビュー前の発掘音源に、それ以降にはない荒々しさを感じて興奮することは多い。しかし、20年以上も経た後の演奏に、こんな感動をおぼえた体験は僕にはこれが初めてだった。コクシネルの音楽について特筆すべきはその楽曲の良さである。それはデビュー当時に完成されていた。曲が良すぎて、まだ20代だったメンバーには演奏しきれなかったのが、20年を経てやっと曲にメンバーが追いついたということなのかもしれない。
YOUTUBEで'83年のコクシネルのライブ映像と現在のライブ映像を見比べることができる。恐らく僕と同年代であろうボーカルの野方攝の現在の姿は、女性の40代の風貌として、この国のどんな時代の女性も獲得できなかった種類の美しさをたたえている。コクシネルの曲はそんな彼女にこそ似つかわしい。反面、'83年の彼女はまだ幼さを残していて頼りない。しかし、その当時の彼女がどれほどの背伸びをしていたかの証でもある。20年後にやっと似合うようになるような曲を書くことができた彼らの才能にもまた僕は驚愕する。
私がずっと不思議に思っていたことは
自分のやりたいことをやらない人のこと
86年にリリースされたスタヂオ録音盤『BOYS TREE』(いぬん堂 / WC-019)に収録されていたこの曲も'04年のライブ盤で演奏されている。「ずっと」という一言に、20年の歳月が計り知れないほどの深さを与えたことを'04年の演奏が証明している。
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