Column » ECD: 失われたWANT LIST » vol.13 [2008-02-05]

燻 裕理『MIGOKU』

燻 裕理(Youri Kun)こと、ひろしNaの存在を知ったのは2001年の秋、渋谷クアトロで開催された「宇田川町ロック・フェスティバル」でのことだった。そのイベントは現在の「円盤ジャンボリー」同様、日本のアンダーグラウンドを支えるアーティストが新旧取り混ぜて大挙出演していた。実は、僕はその前年に出演の依頼を受けていたのだが、当時の自分にはまだそのような場所でライブを披露するような自信がなく、出演依頼を断っていた。ただマイクを持ってウロウロするだけのラッパーが出れるところではないと思っていたのだ。2001年になって出演をOKしたのは、現在も続くツボイ君とのライブのフォーマットが軌道に乗りつつあったからだ。
この時の「宇田川町ロック・フェスティバル」は一観客として実に刺激的な内容だった。
初めて生でその姿を観たマジカル・パワー・マコ(!!)。今でも大好きなインキャパシタンツのライブもこの時が初体験だった。そしてひろしNa。
会場では、メインのステージと客席脇に設置された仮設ステージを交互に使ってライブが進行していたが、ひろしNaはそのどちらでもなく、仮設ステージとは反対側の下手の客席脇でエレキ・ギターを一本抱えて突っ立ったまま歌っていた。長髪にサングラス、突き出た腹、ひろしの名前通り、カエルのぴょん吉が貼り付いたTシャツを着ていて、その風貌はまるでタイニィ・ティムのようだった。脱力した歌声は弾き語りというスタイルではあっても断じてフォークではなく、まぎれもなくロックを感じさせ、ジョニー・サンダースの弾き語りを思い出させた。そんなことを思うくらいだから、ひろしは誰が見ても若者ではなかった。しかし、一体何歳なのか?自分より十歳以上年上なのは間違いない。しかし、それくらいの世代のロック・アーティストだったら、それなりの経歴と名声があるはずだろうに、僕は目の前にいるひろしNaについて何も知らなかった。あわてて当日のパンフレットでひろしNaの紹介記事を探してみると、プロフィールとして裸のラリーズ、頭脳警察と、とんでもないバンドの名前が並んでいた。この、ひろしNaがそれらのバンドのメンバーだったということなのか?僕は半信半疑だった。
それからしばらくして、明大前のモダーンミュージックでひろしNaのバンド、ニプリッツのCDを買った。オマケについていた「ひろし一代記」という記事のコピーを読んでみると、ひろしNaは本当に裸のラリーズや頭脳警察のメンバーだった。
ニプリッツの音楽は素晴らしく、そのことを何かの雑誌に書いたのをニプリッツの周囲の人が見つけてくれて、僕はニプリッツの三枚目のアルバム・リリースに際して短いコメントを依頼された。

「大人になってからオネショをしたことのあるひとのための音楽」

そんな内容だったと思う。ひろしNaのソロ・プロジェクトである燻 裕理名義での二作目本作(HOREN / MIMI-022)の一曲目はこんな風に始まる。

「会いに来てよ 会いに来たら
しっこするぞ」

「700回目のプロポーズ」より

日本語でロックする困難、ロックな日本語とはどんなものか?僕は、はっぴいえんどの日本語をロックだとは思わない。日本語か英語かという問題ではなく、はっぴいえんどはフォークだ。言語感覚がロックしていない。村八分だけが「ねたのよい」という意味不明な言葉や「はなからちょうちん」といった語感を選ぶことで、当時から日本語をロックさせることに成功していた。そして、その後を受け継ぐものはそれほど多くは現れなかった。日本のヒップ・ホップにおいて、 ブッダ・ブランドが重要なのも同じ理由による。ヒップホップな日本語はブッダによって初めて実現したと僕は思っている。それはつまり、ILLという感覚 だ。村八分の言葉もILLだった。そしてもちろんひろしNaの言葉もILLだ。病んでいる。ロックし続け、頭を揺さぶり過ぎたせいで頭のネジがゆるんでいるのだ。

「レコードを売って薬局行こう」

8曲目「ウェイ」より

「わかってる場合じゃないよ」

15曲目「頭脳グラデュエーション」より

 
 

AUTHOR PROFILE:
ECD

ジャパニーズ・ヒップホップ黎明期から活動を続けるオールド・スクーラー。2007年11月には自身の半生を振り返った著書『いるべき場所』を出版。そして、2008年2月21日、通算11作目となるアルバム『FUN CLUB』(FJCD003)をリリース。その中から「L.A.M.F.」と「FINAL JUNKYのテーマ」の2曲が、自身のレーベルFINAL JUNKYとJET SETとのダブルネームにて絶賛発売中。
 

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