外道『外道LIVE』
クランプスの精神病院でのライヴを記録したDVDを観た。バンドの演奏中に興奮した患者たちがステージに乱入し、リード・ヴォーカリストのマイクをもぎ取り絶叫するという内容だ。その様子を見てひとつ分かったことがある。ロックのパフォーマンスというのは、結局のところ頭のおかしい人のする行動の真似である。頭のおかしい人にあこがれ近づくために、正常な人たちが音楽を足掛かりにしている。本当に頭のおかしい人たちの中で演奏するクランプスのメンバーの表情からは、自分達を取り囲む頭のおかしい人たちに同化しようとしながら、しかし、しきれない、そんなもどかしさを読み取ることができる。
そこまで極端ではなくても、ライヴの現場では演奏者を観ているより、観客の様子を観ている方が面白いということはしばしば起こる。そんな様子を記録したライヴ音源や映像は貴重だ。
オックスのライヴ盤で聴くことのできる、演奏をかき消さんばかりの十代の女の子達の間断ない叫び声。77年のロンドン、クラブ・ロキシーでのライヴ盤ではバンドの演奏の曲間で何が起きたのか、突然、何の脈絡も無く響く不穏な金切り声を聞くことができる。ジョニー・キャッシュの監獄ライヴ盤はカントリーに全く興味が無かった僕をカントリーに開眼させてくれた名盤だ。
ライヴに集まるのは、ときに演奏者にとって敵としか思えない連中である場合もある。テキサスでのライヴで、セックス・ピストルズの演奏中に客席から投げつけられるビール瓶、その他、何だか分からない様々なモノ。ついに、観客に向かってベースのボディを振り下ろすシド・ヴィシャス。
日本国内のライヴ盤に記録された観客の手拍子の仕方を時代を追って聴いてゆくと、日本人が洋楽に親しんでゆく変遷を実感することもできる。
70年代までの日本の観客は、二拍四拍の位置で手拍子を打つことができない。バンドがどれだけファンキーな演奏を繰り広げていても、日本の観客は頭打ちの手拍子で田舎の宴会にしてしまう。日本のロックのライヴ盤で、ドラム・ブレイクを見つけてサンプリングしようとしても、そこに被っている観客の手拍子が頭打ちのせいであきらめた、ということが何度もある。日本人がいつごろから二拍四拍の手拍子が打てるようになったのか、それをなんとか確かめたいと思うのだが、まだ、はっきりとした境目は見つかっていない。80年代以降、ライヴに手拍子で参加すると言うこと自体が減ってしまったのか、ライヴ盤に手拍子が残されていない。
ただ、最近の観客が二拍四拍で手拍子を打てるようになっているのは間違いない。アカペラでラップした時に、観客が二拍四拍の手拍子でテンポをキープしてくれるという経験は自分自身にもある。
日本の観客が演奏される音楽にふさわしい奔放さを発揮できるようになったのは、わりと最近のことかもしれない。90年代に入って日本でも広まったダイヴやモッシュが果した役割は大きい。
ところが、つい最近、70年代の日本のロック・バンドのライヴ録音で、僕はちょっと例を見ないとんでもない観客を発見した。そのライヴ盤が今回取り上げる『外道LIVE』(HAGAKURE RECORD / ISCP-1102/3)である。
曲間でヴォーカル・ギターの加納秀人が観客のひとりの女性に向かって、「あとで裏で待っていろよ」と声をかけるシーンがあって、ああ、そういうの昔よくあったなあ、と懐かしい気分になったりしたのだが、外道はファンのほうが上をいっている。
その後に収められた別の曲間で、ひとりの女性客が突然「ブッ込んでー!」と叫ぶのだ。どうやら、「ブッ込んでー!」というのは外道のファンの間で当時流行っていたらしく、数曲後の曲間でも一人、さらにその数曲後の曲間では、なんと何人もの女性客が口々に「ブッ込んでー!」と叫ぶ模様を聞くことができる。
このライヴ盤は二枚組で、「ブッ込んでー!」が聞けるのは加納秀人本人の秘蔵音源をCD化したディスク1。ディスク2には76年の解散コンサートの模様が収められているのだが、こっちの方でも外道のファンは熱い。最後の曲の演奏を終えてメンバーが姿を消したステージに観客が上がって、マイクをつかみ他の観客に向かってアジテーションを始めるのだ。最初に男性がひとり、それから女性もひとり加わる。突然の解散に納得いかない彼らは、外道のメンバーが再びステージに現れるまで朝まででも座り込もうと呼びかける。残念ながら、その後どういう事態になったのか、録音はそこで終わってしまっているので分からない。
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