Column » ECD: 失われたWANT LIST » vol.15 [2008-08-05]

KIM JUNG MI『NOW』

最近、「石田さんは何故和モノにこだわるのですか?」という質問を受け、答えに詰まるということがあった。以前なら「サンプリングのネタが海外のトラック・メイカーとかぶりたくないから」と答えていた。しかし、もうそんな答えもしっくり来ないような気がして、言葉が出てこなかったのだ。
そもそも和モノとは何なのか、改めて考えてみた。僕は純邦楽と呼ばれるような音楽に興味はない。この連載でも紹介した和製ラテン・ミュージックのように、あくまでもベースが洋楽にあるものにしか興味はない。日本製の洋楽、それが僕にとっての和モノである。つまり、洋楽のひとつのヴァリエーションに過ぎないのだ。
プログレやサイケのマニアには英米など主要国産のそれらに飽き足らず、世界各地、共産圏の音源にまで手を伸ばす人がいる。彼らはそれらの国々に特有の音楽に興味があるわけではない。世界中のプログレやサイケを聴こうとするのは、そこにヴァリエーションを求めるからだ。僕の和モノも同じだ。
そして、和モノは歌詞が理解できるので本物の洋楽よりも深く楽しめる。その音楽を生み出した文化的背景も当然よく知っている。つまり、本物の洋楽よりもわかりやすい洋楽。それが和モノなのだ。
しかし、音楽というのは不思議なもので、言葉も文化的背景もわからなくても、良いものは良いと伝わってしまうことがある。そんな、わからなくても伝わる音楽の強さに触れたくて、僕は和モノだけでは飽き足らず、また洋楽を聴く。そんな行ったり来たりの繰り返しである。

少し前から、中古レコード店やCD店でときたま見かける、香港製のポップスや韓国産のロックなどが気にかかるようになってきた。そこに僕が期待するのは和モノのわかりやすさと洋楽のわからなくても伝わる強さの両方だ。隣の国とは言っても言葉はまるでわからない。文化も良く知らない。しかし、同じ肌の色をした人が作るのだから自分と共通する感性があるのではないか、と勝手な期待もある。
今回取り上げたキム・ジョン・ミの『ナウ』(Ponycanyon Korea / SJHMVD 0003)は、CD店の店頭で「コリアン・アシッド・フォークの最高傑作」と紹介されていたのが目に入って、試聴もしないで衝動買いした一枚だ。
アシッド・フォークというのがまたやっかいなジャンルで、その呼び方で括られる音楽それぞれが醸し出す雰囲気自体に僕はすごく惹かれるのだけど、「これは!」という一枚に僕はまだ出会っていなかった。「アシッド・フォークで好きなアルバムを一枚あげて下さい」と言われても即答できなかった。しかし、もう大丈夫。今なら迷わず『ナウ』と答える。

韓国語というのは不思議な言語である。英語なら耳で聞いてもある程度理解できるし、読むこともできる。韓国語について、僕は耳で聞いてもわからないし、字で読むことも全くできない。それなのに、電車の車内などで日本語をしゃべっていると思っていた隣の乗客同士の会話が、よく聞いてみると韓国語だとわかって驚くことがある。英語はもちろん中国語でも、そんなことは起こらない。耳に入った時点で外国語だとわかる。韓国語はイントネイションやアクセントなど、耳に入る部分が日本語に近いのかもしれない。
キム・ジョン・ミの歌声を聴いても、そう思う。意味がわからないのが不思議なくらいに耳にすんなり入ってくる。同時にそのメロディが、とてつもない郷愁を誘うのだ。この郷愁が何に由来するのか、まだうまく説明できなくてもどかしい。

この原稿を書くに当たって、ネットでキム・ジョン・ミのことを調べてみたら、いきなりこんな一文にぶつかった。
「60年代後半から70年代前半にかけての韓国のロック文化は世界水準だった。」
『ナウ』を聴く前だったら、こんなことを言われても僕は半信半疑だったと思う。しかし、『ナウ』を聴いてしまった今は違う。僕はこの一文を読んで「ヤバい!まだ他にも『ナウ』みたいなレコードがあるのか。」とこの先の自分のレコード探索の行く方を思いやっている。

参考URL : http://sea.ap.teacup.com/sekifu/43.html

 
 

AUTHOR PROFILE:
ECD

ジャパニーズ・ヒップホップ黎明期から活動を続けるオールド・スクーラー。2007年11月には自身の半生を振り返った著書『いるべき場所』を出版。そして、2008年2月21日、通算11作目となるアルバム『FUN CLUB』(FJCD003)をリリース。その中から「L.A.M.F.」と「FINAL JUNKYのテーマ」の2曲が、自身のレーベルFINAL JUNKYとJET SETとのダブルネームにて絶賛発売中。
 

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