■当初の予定よりちょっと遅れてしまいましたが、まずはアナログ・リリースおめでとうございます!とりあえずpeechboyくんを知らない方もいると思いますので、簡単な自己紹介なんかいかがでしょう?
PEECHBOYこちらをご覧のほとんどの方ははじめまして!!peechboyと申します。DJは1995年にはじめて、その後、友人たちとパーティーを行ったり、サウンドシステムを野外に出したときなどに、細々とやっておりましたが、2004年に『EVERYTHING WAS BEAUTIFUL, NOTHING HURT』という2枚組のミックスCD-Rを発売してから、ありがたいことにいろいろな方からDJのお誘いを受けることが多くなりました。なお、2006年にも『IT ADDRESSES SOMEBODY』という2枚組のミックスCDを発売しております。あと、2005年11月に吉祥寺の"Fourth Floor"というクラブにて行われました、僕の7時間のDJセットの音源を
http://nbqx.org/7hours/にて、また、2007年3月に渋谷の"Module"というクラブにて行われた8時間のDJセットの音源を
http://nbqx.org/8hours/にて公開しておりますので、よかったらチェックしてみて下さい。
自分の主催しているパーティーとしましては、現在(2007年5月30日時点)、渋谷のModuleというクラブにて、偶数月の第一土曜日に"SLEEZY"というパーティーを、DJ Crystalとともに開催しております。
■今回のアナログはSWCさんからお話を頂いて進めさせて頂きましたが、どういった経緯でリリースしようと思ったのですか?
"The News"は、自分でもなんでこんな曲調、展開になったのかよく分からない(思い出せない)のですが、とにかくAbleton社の"Live"という楽曲制作ソフトウェアをいじくって、あの音を足して、この音を引いて…という作業をしていたら、途中でだんだん形になってきて、なおかつその音に感動してうっすら涙が出てきたので、「これはアナログを切ろう」と思うに至りました。
で、工場に発注する→アナログを切る→発売する、というのって、けっこう手間がかかるので、どなたかにそのプロセスをやっていただいた方がいいなと思いまして、さきほどの自己紹介にて述べましたミックスCD『It Addresses Somebody』の発売元であるSWCの佐藤さんに曲を聴かせたら、「想像以上でした」といった反応だったので、「わーい☆じゃあお願いします!!」、といった感じで事が運びました。
■僕は最初に音源を聞いた時、ちょっとビックリしたのと同時に凄くpeechboyくん本人をイメージしやすかったです。 ビックリしたというのは"The News"のイントロを聞いた時に、アシッド系の音源かなって思ったら、いきなりNYCディープ・ハウスのようなソウルフルなヴォーカル・モノになったっていう点です。で、逆にそこが本人をイメージしやすかった点でもあるんですけど。MIX音源でしか聴いた事がなかったですが、僕のイメージはメロディアスなDJ、なんて言うか甘酸っぱい感じなんですよね。なので音源を聞いた時にヴォーカル・モノに変わった事でピンときたというか。そういう部分が好きな部分でもあるんですけど。
今回の楽曲はどういった風に製作されたのでしょうか?
先にも述べましたように、「どういった風に」という、その過程がよく思い出せません…
ただ、最初は、スパイク・リーさんが監督をされた『ゲット・オン・ザ・バス』っていう映画の中で、ワシントン行きのバスに乗り合わせた客たちが、それぞれ自己紹介をするときに同じ節回しの歌を歌うんですが(「シャブヤ、シャ、シャ、シャブヤ、ロー、コー、マイネームイズなんとか」といったように)、それがかっこよく思えたので、そこの部分をサンプリングしてループさせて、リズムやその他の音を加えたりしていたら、どういうわけか、その「シャブヤ」の歌は全く使うことなく、べつのサンプルを使って曲ができあがっていたんです。
なので、無理やり総括しますと、その場その場の思いつきでいろいろ試していたら、こういう形になりました、というのが正直な印象です。
DJをはじめました直接のきっかけは、1995年の大学入学直後に、キャンパス内にて電子音楽の研究会の方々がパーティーを開かれていたのに偶然行きまして、そこではテクノがかかっていて、もともと少しテクノに興味があったので、それ以後毎日のようにずうずうしくその電子音楽の研究室に行って、レコードを聴かせていただいたりしているうちに、自分もやってみようと思うようになりました。
そのようにしてDJをはじめてからしばらくは、ハードミニマルや、シカゴハウス中心の選曲だったのですが、1998年に椎間板ヘルニアを患いまして、手術して以降は、音楽に反応する体質が変わったのか、あまりBPMが早い曲に興味をそそられることが少なくなりました。面白いことに、遅くともねばるような類の音楽、たとえばディスコやハウスなどに自然と反応するようになりました。
そういったことがあった末に、1999年にはじめてTheo ParrishさんのDJを聴きまして、そのとき本当にすごいと思ったのです。ミックステープは200回ぐらい聴きました。それぐらいの回数聴きますと、なんとなく、「彼がなぜここでこのようにイコライザーを操作したのか」とか、「なぜここで、このような骨組みだけの曲につないだのか」、などといったことが、分かるようになってきます。もちろんそれは、僕の単なる誤解にすぎないのですが、「分かった!」という、その幸福な間違いをもとに、まず彼がDJを通してやろうとしていることの真似をすることによって、僕のDJのスタイルは大幅に変わったと思います。
■今回一緒にパーティをして、普通に話している時の感じと、DJをしている時の感じがかなり違う事に若干驚きました(笑)。やっぱりDJしている時は入り込んじゃう感じですか?
かなり「入り込む」タイプだと思います。それは単純に、DJをするのがとてもすきだから、というのがあると思います。また、これまでの経験から、そのように「入り込んだ」状態、つまり、「どのように機材を操作するか」とか「次はどのレコードをかけるか」といったことをいちいち考えないような状態のときに、僕のパフォーマンスは高く発揮されるというのが分かっているので、なおさら「入り込みやすい」状況を、DJの前にあらかじめ作っておいたりします。…といいつつも、現場では「わーい、今日も楽しいなー♪」に終始する感じなんですが。
■僕はまだ体験していませんが、DJ Crystalさんと共にレジデンツを務めている渋谷Moduleでのパーティー"SLEEZY"はどんなパーティーですか?JET SET下北スタッフのYogurtくんもDJしてたりしますが。
主観ですが、あまり「みんなで一つのところに向かう」的な感じではないと思います。お客さんも、けっこう楽しみ方はまちまちで、さあ踊るぞー、という様子の方もいらっしゃれば、普通にお酒をのんで軽く揺れて、というゆるい感じの方や、友人たちとどこかからはしごしてきたりする方、また、"boy meets girl"的なことを期待して来られる方もいらっしゃるだろうと思います。
あと、ありがたいことに、CrystalやYogurtさんや僕などのDJを聴きにいらしてくださる方もいらっしゃると思います。僕自身の考えとしては、潜在的にある層−それは主に、普段の生活スタイルやよく聴く音楽、年齢などを指しますが−を排除するような形のパーティーには極力ならないようになればいいなあとは思っておりますが、そのような個人的な考えや説明などでは、どういうものなのかを伝達することにはなりませんので、まだいらしたことのない方には、できれば一度ご来場頂いてもらいたいなと思います。
■peechboyくんにとってDJとは?
「パーティー」という「場」を作り出す要素のひとつだと思います。DJはパーティーのコントロール・タワーではありませんが、ときとして人に、強い感情を喚起させたり、それぞれの方の生活に素晴らしいものをもたらすことがあります。どういうわけかそうしたことができうる行為と出会って、いまもこうしてできることは、本当にありがたいことだと思います。
また、それぞれのDJの現場、パーティーで経験したことが、日常にも反映・つながることがあります。たとえば、普通に曲が鳴っているところで、いきなり低音域などがイコライザーなどで切られたとき、お客さんが熱狂されることがありますが、これって、しばしば「じらし」などと形容されていますけれども、じゃあなんで、そういうことが「じらし」となりうるのでしょうか?という根本的なことを考えたときに、ふと思い出したのですが、昔、フランスにジャック・ラカンさんという精神科医がいらして、「短時間セッション」という、精神分析治療の途中でいきなり(一番早いときは、患者さんが来室して、握手をした直後に)その回の診療を打ち切る、という方法をよくとったそうです。臨床的に、これが有効な方法であったかは諸説ありますが、とにかく、「短時間セッション」と、「低音域などが、すっ、と消えたら、人がうわー現象」には関連性があることに気づいたのです。
それらはどちらも、本来あると予想された全体−つまり、精神分析であったら、「これぐらいの時間をかけて、こうした治療がなされるだろう」という患者さん自身の予想。パーティーであったら、お客さんが想像している、ひとつらなりの楽曲がまるごと、全音域しっかりと鳴っている状態−から何かが欠けた状態、中断された状態で提示されるというのは、全体が提示される場合よりも、より意味合いに厚みや奥行きが増すということ、そして、その欠けた部分に、人はみずからの解釈や欲望をめいめい流し込むものである、という点において共通しています。つまり「じらし」というのは、こうなるだろう、こうくるだろう、と予想される何かを欠けさせることで、対象となる人の脳をちょっとばかり余計に働かせる方法なのではないかと考えるに至りました。
このように、DJをとおしていろいろと気付いたりすることもたまにあります。
■いろいろと地方に行くこともあると思いますが、東京と地方のシーンで大きく違うと思う点はありますか?また逆に共通する点は?
まず違う点ですが、どうなんでしょう。最近はけっこう複数の地域で人の行き来があったりするせいか、そこまで大きく差があるように思ったことはあまりないです。ただ、どこそこの土地だと、パーティーでつくられる「場」の雰囲気はこういうものになりやすい、といった傾向はあるのかもしれませんが、まだまだ僕にはよくつかみきれていません。
共通する点は、どこにでも強烈な個性を持った方というのはいらっしゃる、というところで、そういった方と仲良くなると、パーティーにおいてもいろいろとやりやすくなったりします。DJにかぎらず、居心地がとてもよくなったり、というところで。
■今気になっているDJ、ミュージシャンは?
今年の5/26にアルバム
『SOMETHING ELECTRONIC』を発売された
Cherryboy Functionさんは、今、といいますか数年前からずっと関心をもってその活動に注目しております。
あと、いっしょに"SLEEZY"をやっておりますCrystalさんですが、彼のDJには何度となく驚かされています。僕は本当に彼のことがだいすきなのですが、お互い会うとほとんどしゃべりません。出会って10年以上経ちますが、これまでにしゃべった総和は180分テープに収まるかもしれません。
CrystalさんとK404さんのユニット
"TraksBoys"は、7月に12インチとCDアルバムをSWCより発売予定なので、こちらもチェックしてみてください。
年齢的に僕より下の世代でいきますと、ALFさん、chackさん、MILKMANNさん、Fantaさんなどが、今後どういったDJ、活動をされていくのか、とても興味深く思っています。
■音楽以外に興味がある事はなんですか?
ものすごく「ふつー」で申し訳ないのですが、読書です。いま、ぱっと思いついた作家さんは、先日亡くなられたカート・ヴォネガットさんです。邦訳されている作品はほぼ全部読みました。
先日京都でDJをした翌日、「三月書房」にて三浦雅士さんの『身体の零度』という本を買いまして、それがかなりステキな内容だったので、赤線を引きながら読み返してみようと思います。たぶんほとんどのページも真っ赤になると思いますが。
あと、甘いもの、とりわけケーキ類がとても好きです。いまでは甘いものの甘さは、ほとんどが砂糖によりますが、日本に砂糖が入ってきたのは754年に、中国の鑑真さんというお坊さんが、調味料ではなく「薬」として持ち込んだのが最古だと伝えられております。
僕たちはすでに砂糖に親しみすぎていてあまり気づきませんが、砂糖はけっこう「あがり」ます。現に、僕は一度、自由が丘のケーキやさんでケーキをたべたあと、しばらくぽわーんとしていたことがあります。まあ、とてもおいしかったから気分が高揚しただけなのかもしれませんが。
■去年はMIXCD、今年はアナログをリリースして、次の展望みたいなものはありますか?
これまでも、明確なヴィジョンや野心、具体的な展望といったものはとりたててないまま、いままでやってきました。それは僕が無欲だとかそういったことなのではなく、僕の場合「これをやらなきゃ」という思いがありすぎると、それにとらわれてしまって、僕のパフォーマンスが低下するので、単にそれを避けるための「生活の知恵」みたいなものです。(ヴィジョンだとか野心があった方がパフォーマンスが上がるのでしたら、僕は喜んでそういうのを持つだろうと思います)なので、多分従来と同じような感じで、あるとき何かを思いついたら、それをきっちりやって、何か形になりましたらみなさんの手に取れるような方法で出す、といった流れになるだろうと思います。それが音楽関係のものとは限らないかもしれませんが。
■最後にpeechboyくんの音楽が好きなファンに一言お願いします。
まず、心から、ありがとうございます!!僕のDJ、CD、レコードなどを、少なくともみなさんの人生のうち1秒でも聴いていただけただけでありがたいです。それだけでもう十分なんで、それらにどのような感想を持たれたとしても、僕からは何もいうことはありません。