Interview » vol.111

RIOW ARAI

先ずは結論から。

「日本が世界に誇るエディット/ブレイクビーツ・マスター」ことRIOW ARAIの通算8枚目となるニュー・アルバム『ELECTRIC EMERALD』は超が付く問題作に仕上がりました。問題作なんてものはプロモーション用のキャッチコピーとして世に溢れていますが、今作は誰がどう聴いても「超」問題作。少なくとも一度以上、この数年間にリリースされたARAIさんの楽曲を聴いたことのある人であれば誰しもが、「!?」もしくは「あ、CD間違えた!!」となるはずの1枚なのです。

なぜなら、今作にはエディットやブレイクビーツが一切登場しないのですから。ずばり、伝家の宝刀を完全封印した理由はどこにあるのか。そして、RIOW ARAIはこれからどこに向かおうとしているのか。

その核心を突くべく、RIOW ARAIさんご本人に根掘り葉掘り聞いちゃいました。

INTERVIEW + TEXT: JUNICHI HORI(JET SET TOKYO)
  • (JET SET)
    以前、ツジコさんとのデュオ、RATNとしての1ST.アルバム『J』がリリースされたタイミングでお二人揃ってインタビューさせて頂きましたが、単独のインタビューは意外にも今回が初めて、ということになるんですね。よろしくお願いします!
  • (RIOW ARAI)
    そうですね。よろしくお願いします。

■ 制作サイクルについて

  • まず始めに、ニュー・アルバム『ELECTRIC EMERALD』のリリース、おめでとうございます。同じくLIBYUSからリリースされた前作『SURVIVAL SEVEN』から丁度1年振りのリリースとなるわけですね。
  • そう。毎年11月に。『BEAT BRACELET』からずっとそうですよ。そもそもそういうサイクルで廻るように作っていくから。
  • 毎年11月のリリースに合わせて制作を進めていくということですか?
  • いつの間にかそういうパターンになってしまいました。とりあえず12月リリースはセールス的にNGという業界の定説があって、それを避けると11月(リリースということになる)。年が明けたら新作の構想を練り始めて、春くらいから実際に曲を作り始めるわけ。逆に(リリースが)年跨いじゃうとすっきりしないから。リリースを終えてすっきりした気持ちで年を越したいじゃないですか(笑)
  • それで、春くらいからニュー・アルバム用の曲を作り始めて。
  • そう。先ずは、アルバム中での位置付けとか曲順なんかは考えずにとりあえず作り出す感じで。
  • 先ずアルバムありき、なんですね?
  • そうですね。ヨーロッパみたいに、ポンポンと12"をリリースできる環境にあったら違うだろうけれど、日本じゃそうもいかないわけで。もしそういう状況だったら、12"フォーマットに合わせた作り方をして、最後は纏めてCDに入れてアルバム完成、みたいなのも理想的だけど。しかしそうではないので、CDアルバムというのがフォーマットとしてまず頭にあると。
  • なるほど。最初からCDアルバムというフォーマットに則って作っていく、と。
  • 年明けに大まかな構想を練って、それが見えてきたら春頃から実際に曲を作っていって。それで夏から秋口にかけては、出揃った曲をもとに、間に入れる曲とか全体のバランスとして足りない曲を意識して作っていくわけ。アルバムとして仕上げていく過程ですね。インフォメーションを流して受注を取ったりする期間を考慮すると、リリースの2ヶ月前がデッド・ラインというスパンも毎回一緒なわけだから、逆算して必然的にそういう流れになる。
  • アルバムとしての整合性を考えて作り始める曲もあるということですね。
  • これは、これまでのアルバムを見返してもらったら分かることだけれど、イントロやアウトロ(にふさわしい曲)も毎回必ず収録しているしね。
  • 次々と好きなように曲を作っていって、それを色々と並べ換えて完成、というような作り方はしないと。
  • 最初のとっかかりはそうだけど、結果的にはシングルの寄せ集め的な作り方ではないよね。まずそもそもシングルが出ないし(笑)。
  • ボツ曲というのは存在しないんですか?
  • そうですね。ボツにするような曲はもう途中で作るのを止めちゃうから。仕上げたけれどボツ、というのはほぼ無いです。

■『ELECTRIC EMERALD』におけるサウンド面の変化について

  • 本題に入りますが、まだ『ELECTRIC EMERALD』をお聴きでない状況でこのインタビューを読まれている方にとっては、信じがたいほどの劇的なサウンドの変化があるわけで。
  • うん。…でも、どうだろう。そんなに大きな変化とすら思われないんじゃないか、という気もしてアレなんだけど。
  • そんなことは無いんじゃあないですか、流石に。明らかに別人レベルでサウンドが違っていますよね。
  • うんうん。でも正直言って、大半の人はそこまででも無いんじゃないのかな、とも思う。こちらが思っているよりも遥かにあっさりした感じで受け止められる気もするんだよね。
  • ブレイクビーツ・クリエイターとして認識していたクリエイターの新作がブレイクビーツでは無くなっても?
  • ブレイクビーツだと意識して、もしくはブレイクビーツと認識して聴いている人が逆に限られていると言うか。
  • なるほど、ジャパニーズ・クラブ・ミュージックの括りで一緒くたに?
  • そう。で、となると別にそれほどの変化でも無い、という。
  • 今作における、決定的かつ最大の変化としては、RIOW ARAIのブレイクビーツ・サウンドを形成する上で欠かせないものとなっていたサンプラー、SP1200が一切使われなかったということ、更にはサンプリングそのものが全く行われずに制作された、ということが当然挙げられると思います。
  • はい。
  • ずばりその原因と言うか、きっかけは何になるんでしょう?
  • 去年が丁度デビュー10周年(*)だったわけなんですけれど。今年はまた新たな10年の始めになるわけで、そこでまた同じようなことしてもアレだろうということですね。でも本当のところ、当初これは別名義でやろうとしたのが発端なんですよ。redsound.という名義でUKのparctraxというレーベルから12"が出たりしたし、その延長で。
    * ジャパニーズ・テクノを代表する名門レーベルFROGMANから、表記の異なるRYO ARAI名義でのテクノ・アルバム『AGAIN』でデビューを飾ったのが’96年。
  • 昨年リリースの前作『SURVIVAL SEVEN』は、あれはあれで革新的な1枚だったわけですが。そもそもトラックのBPMからしてグッと引き上げられていましたし。もはやあそこまで行くとアブストラクト云々の文脈で捉える人も居ない、という。
  • うーん、でもそういう風に受け止めてくれた人はそんなに居なかったですよ。手応えとしては。RIOW ARAIが、またいつものスタイルで新作をリリースした、という感じでさらっと受け止められた印象。
  • 作り手としての思いと、受け手からのリアクションにズレを感じた、と。
  • もともと「シーン」に属しているようでいてずっと浮いている存在だから、独特な人がまた独特の路線で新作を作った、という感じに思われて終わり、という(笑)。
  • それはちょっと納得いかないぞ、というのもあって。
  • と言うよりも、じゃあヴァージョン・アップではなくって、より大胆な変化をしたらどうだろう、と。なので最終的には別名義ではなくて、これをRIOW ARAI名義で出すのが面白いかなと思って。それと、この数年の「楽しい」音楽が求められているというシーンの状況を踏まえて、じゃあ「楽しい」音楽を作りますよ、という気持ちもあったし。
  • 「楽しい」音楽(笑)。もちろんここは鉤括弧付きの「楽し」さ。
  • 自分の作風の毒を抜いたらどうかなと。ただ、'96年の『AGAIN』でデビューする前の、リリースしていない期間にも勿論曲を作っていたわけで、その頃にはシンセも普通に使っていたから、そこに戻るのは自分にとって不自然なことではないわけです。
  • 音楽を「楽しい」と感じるためにはメロディーやハーモニーがどうしても欠かせない、というのであれば、いつでも出来ちゃいますけれど、という?所謂音楽の三大要素というと、メロディー、ハーモニー、リズムになるわけですが、ARAIさんのこれまでのキャリアとはつまり、如何に“リズム”だけでグッド・ミュージック足らしめるか、という実験の軌跡であったわけだと思うんです。
  • 意識して引き算してきたわけだから、元に戻すのは簡単なんだよね。でも、原点回帰的な後ろ向きの方向転換ということでもなくて、あくまで前向きなステップとして。自分なりの実験というかチャレンジな姿勢で。
  • 一度立ち止まって俯瞰してみた上で、ドラスティックなまでに制作プロセスそのものの見直しを図った、ということなんですね。
  • そう。デビューから10年が経過して、いよいよ11年目を迎えた、というタイミングにも合っていたし。
  • デビュー11年目、新たな10年の幕開けとなる節目の正月に決意し作り始めた、と。
  • 数字にこだわってるわけじゃないけど、区切りとしては良かったかなと。
  • では、具体的に今作で使用した機材や楽器を教えて頂いても良いですか?
  • そういうサンレコみたいな質問もするんだ(笑)。もともと僕は1ST.からPerformer(現在はDigital Performer)というデジタル・オーディオ・ワークステーション(サンレコで言うところのDAW)を使っていて。
  • 1ST.と言うと、FROGMANからの『AGAIN』の頃から、ですか?
  • そう。もうMacで打ち込んでいた。で、PerformerのシーケンサーでエンソニックのサンプラーなんかをMIDIで鳴らしたりしてたんだけれど、今回はそれを全てソフト・シンセに移行したというわけ。一切ハードは使っていませんよ、と。
  • ソフト・シンセは何を使ったんですか?
  • KORGのデジタル・エディションとかアナログ・エディション(Legacy Collection DIGITAL EDITION/Legacy Collection ANALOG EDITION 2007)というソフト・シンセなどを新たに購入して使いました。BATTERYというソフト・サンプラーも使ったんだけれど、今回はサンプラーとしてではなくて、プリセットで豊富に入っているドラム・キットをモジュールとして使った感じですね。

■ 新生RIOW ARAIサウンドに影響を与えた音楽

  • 『ELECTRIC EMERALD』を制作される過程で参照されたCDのリスト(下記)を挙げていただきましたが、
  • ■ 参照CDリスト
    * こちらに挙げられたアルバム収録のトラックスも登場する非売品ミックスCDR『NewTube@071101』が『ELECTRIC EMERALD』の初回購入特典として付きます!!
  • このところ、新宿2丁目のゲイ・バーで定期的にDJをされているんですよね?イベント名が“NewTube”ということで。
  • そう。ゲイ・バーと言っても全然そういう感じ?でもないんだけれど。便宜上イベント名を付けているけれど、通常のバー営業のBGMとしてDJしている感じですね。
  • ミックスCDやT-SHIRTもリリースされたことですっかり定着したARAIさん主催のイベント“ModeDown”(@中野HEAVY SICK ZERO)でのDJセットは、広義のディスコを中心としたものでしたが、大分印象が異なるラインナップですよね。現行のエレクトロ・ミュージックばかり。
  • フレンチ・エレクトロ勢がブレイクしたのは印象的だったですね。エディットの仕方なんかにしても、あー、こういうの(自分も)やってきた、と感じたと言うか。シンセの音に興味がない時期が続いたけど、この辺のサウンドはすぐに馴染めた。
  • にも関わらず、そんな追い風の中、ARAIさんはスタイルをがらりと変えてしまいました(笑)。流行のムーヴメントに同調する、というやり方も当然あったかと思うんですが。
  • 刺激は受けましたけど、彼らと同じことをやってみせても仕方ないだろう、というのもあるし。今こういうの好きだからソレをって直球なのはちょっと。
  • 個人的な印象としては、『ELECTRIC EMERALD』収録曲は上記レファレンスCDリストの中で言うと、SPIRIT CATCHERやKOMPAKT音源などに近い質感を持っているかな、という風に感じました。プロッギーなテックハウスといった感じでしょうか。デトロイト・テクノやケルン系の音響テクノに対する思い入れはありますか?
  • 今回『ELECTRIC EMERALD』を作るにあたってそれを意識することは無かったけれど、久しぶりにシンセを出してきて弾くとなると、かつて自分が弾いて作っていた当時の音色であるとかフレージングであるとかがどうしても出てくるよね。手癖と言うか。リヴァイヴァルしているようなテクノの質感は、もともとリアルタイムにオリジナル音源で聴き馴染んでいたわけだし、同時にもう作ってもいたわけだから、似てきちゃうところはあると思う。ブリープ・ベースではなくてアシッド・ベースが入ってくるところとか。

    今回、自分の確立してきた手法を思い切って封印して、新しい自分のサウンドを見つけるべく模索し始めたわけで、今作の受け止められ方を踏まえつつ、自分流のより「楽しい」音楽を探求していきたいという風に思っています。
RIOW ARAI - Interview 111
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