JET SET(以下J):先日リリースされた、プラネタリウムでのライブ音源アルバム『LIVE AT THE PLANETARIUM』について教えてください。
I:CUBE(以下I):毎年定期的にパリのプラネタリウムで行なわれてる、僕らの世代と、昔からいるひとつ上の世代の音響系、現代音楽などのアーティストがコラボレーション(ライブ)をする3日間のフェスティバルに参加したんだ。これはその時のライブ音源を1枚のアルバムにしたものだよ。
J:全体的に細かくレイヤーされたシンセ・サウンドにスペイシーな雰囲気を感じさせつつも、シタール、タブラのような民族楽器の音色を取り入れたバレアリックな要素有り、デトロイティッシュなトラック有り…と実に多彩でありながらも、これまでのあなたの作品にはあまりなかったアンビエントな1枚ですね。ライブはどのように行なわれたのでしょうか?
I: 長年かけて作り溜めてきた音源を、2、3ヶ月ほどかけてライブ用にまとめたり、作り足したりしたんだ。ライブではそれらをラップトップ1台でプレイしたよ。このプラネタリウムでのライブは普段やっている事とはまた別に、幅広く僕の音楽を表現できる良い機会だった。クラブ以外の場所でライブを行なうのも初めてだったしね!ラップトップ1台でライブを行なうのは観てるほうも飽きてしまうし、元々抵抗があったんだけど、それも「プラネタリウム」というお客さんの視線が別のものに向けられている“異空間”だからクリアできた。人前でライブをするのとは違って、僕の音楽そのものだけを感じてもらえるからね。とても楽しみにしてライブに望んだよ!
J:これは当初リリースの予定はなかったんですよね?
I:そうだよ。ライブの時はこれをリリースしようっていう事は全然考えてなくて、たまたま録音していたものを、VERSATILEのオーナーGILB'Rが気に入ってリリースする事になったんだ。
J:では、今回のツアーの事について教えてください。YELLOWでのライブはどうでしたか?
I:実は当日の朝、日本に着いたばかりで、時差ボケと戦いながらだったんだよ…(笑)
基本的にアンビエントなセットだったのにも関わらず、奇声を上げてるお客さんがいたのにはビックリさせられたね(笑)。もちろんプラネタリウムで行なったライブとはまた違った、アンビエントな要素をベースに“YELLOW”という空間に合わせつつダンス・トラックを混ぜたりして、あらかじめ意識はしてたけど。ラップトップ上でDJをするような感覚で自由なライブだったよ。でもあまりこの「ラップトップでのライブ」はやらないようにしようと思ってるんだ。新鮮さを失いたくないからね。
J:確かに、ラップトップ1台でのライブというのは難しいですよね。何をやっているのかが伝わりにくいし、演奏するほうのアクションもあまりなく、お客さんもどう反応して良いのか…という場合がありますね。もちろんそうでないラップトップでのライブもありますが。YELLOWの他に京都では「黒谷永運院」でライブをされたんですよね?プラネタリウムに通ずる異空間だったようですが、いかがでしたか?

©katsuyuki HATANAKA
I:結果的に自分自身で満足のいくものになったよ。1時間ほどのライブだったけど、お客さん達はじっくり聴き入ってくれたようだった。お寺の畳の上で寝転がって聴いている人がいたり、皆思い思いリラックスしたスタイルで、純粋に音とシチュエーションを楽しんでくれていたのが良かったと思う。京都に行ったのはまだ2回目だけど、なんとなく東京の人達に比べると皆生活を楽しむゆとりがあるように見えたかなあ。イメージ的に判断するのは良くないけど、東京は世界の大都市(ニューヨーク、L.A.、ロンドン、パリ…)と同じような感じだね。
J:なるほど、そうかも知れませんね…。では日本で特に注目しているアーティストはいますか?
I:まず、YMOと坂本龍一は昔からずっと大好きだよ。最近だと、CRO-MAGNON(クロマニヨン)というバンドは良いと思うよ。あと、
MULE MUSIQ、
CRUE-Lの作品も良いね。彼らの作品のメロディには日本独自の感覚があると思う。だいたい日本のレーベルのものはヨーロッパでは入手しにくいんだ。MULEに関してはドイツから配給してるけどね。
J:最近はどういった音楽に一番興味がありますか?
I:映画のサントラや現代音楽、'80年代のイタロ・ディスコ、コズミック系かな。
J:コズミックだと正に今は再評価の真っ只中じゃないですか。
I:2~3年前に
DANIELE BALDELLIらによる当時('70年代~'80年代)のミックスを聴いてから興味を持ち出したかな。ディスコだけじゃなくて、子供の頃に“RADIO NOVA”で聴いていたART OF NOISEみたいなニューウェーブや、HARMONIA、CLUSTERなんかのジャーマン・ロック、ニュー・エイジも混ぜてるよね。自分自身でもディスコに限らず'80年代における“ハウスが到来する前”の元になった音楽を更に追求するようになったよ。
J:現在のダンス・ミュージックだと?
I:フランスではハウスの「NOUVELLE VAGUE(新しい波)」と呼ばれている、ノルウェーのLINDSTROMやTODD TERJE、UKのQUIET VILLAGE(REKID)とか、テクノだとRICARDO VILLALOBOSみたいな「つまらなくないミニマル・ハウス」は面白いと思うよ。あとオランダのCLONEやBUNKER周辺のエレクトロ・シーンは昔から面白くて好きだよ。彼らはもっと世界的に知られても良いと思うんだけどな。
J:それは私も同感です。ではフランスのダンス・ミュージック・シーンについては?
I:フランスのクラブ・ミュージックも多様なので、どれが主流って決められないけど、ポストDAFT PUNKと呼ばれているJUSTICEら、ED BANGER系は人気があるね。あとはARKやKRIKORらの、ドイツの影響を受けているような
KARATというレーベルのものも人気があるね。
J:JET SETが定期的に開催しているイベント、“route”にも出演して貰ったことがあるのですが、フランスのエレクトロ・ヒップホップ系のレーベル、
INSTITUBESのアーティストについてはどうですか?彼らはかなりシーンにおける異端児だと思うのですが、どういった受け入れられ方をしているのでしょうか?
I:TACTEELのレーベルだよね?面白いと思うよ。僕は直接関わったことはないけど、彼らや一緒にやっているTTC達は確実にメイン・ストリーム主流だったフランスのヒップホップ・シーンに新風を吹き込んだよね。
J:では、
VERSATILEのGILB'Rとあなたとのデュオ・ユニット、CHATEAU FLIGHTについて教えてください。お二人が活動をはじめる事になったきっかけは?
I:もともとGILB'Rは“RADIO NOVA”で働いてたんだ。10年前、僕は1人でコツコツ宅録をしてたんだけど、ある時デモ・テープをその“RAIDO NOVA”に送ったら、それをGILB'Rが気に入ってくれて、ちょうどその後立ち上げたVERSATILEレーベルの第1弾(12" -“DISCO CUBIZM”)としてそのままリリースする事になったんだ。しかもDAFT PUNKのリミックスを収録してね。それが'96年くらいで、その頃フレンチ・ハウスの主流だったDAFT PUNKらのムーブメントとはまた違う独自のスタイルでVERSATILEは歩んできたんだ。CHATEAU FLIGHTはもともと他のアーティスト達へのリミックス・ワークを主としたプロジェクトだったんだけど、だんだん自分達のスタイルをより打ち出した作品を創りたいと思うようになってきて、VERSATILEはもちろん他のレーベルからもリリースをするようになったんだ。
J:では、今後の活動予定を教えてください!
I:フランスの大手映画配給会社GAUMONTとのコラボレーションで、昔の古い無声映画にサウンドトラックを付けるというのをやったんだ。“VAMPIRE”という吸血鬼シリーズで、それはDVDがGAUMONTから出るんだけど、もしかしたらサウンドトラックのほうはVERSATILEからCDでリリースされるかもしれない。あとは、CHATEAU FLIGHT名義で独INNERVISIONから正式なリリース・デイトは決まっていないけど、12"が出るよ。
それ以外は、とりあえず作りかけのトラックが山ほどあるんだよ!!あまりにも多いので、それを整理しながら仕上げていきたいと思っているよ。あと、「これは本当にリリースする意味があるのか?」、「人々が聴きたいと思う作品なのか?」という事も、もう1度深く考えていきたいんだ。
J:…というと?
I:うーん…、10年前とは制作環境が違うし、そうやって作りかけのトラックを半年置いておくとか、だらだらと何回も作り直すことが出来る。昔は1曲作り始めたらガーッと最後までやるしかなかったんだけど、最近はパソコンで保存していつでも再現が出来る。最近では、正直それはあまりよくないなあと思っているんだ。昔みたいな制作環境に戻したほうが良いのかなあと思う時もあるんだよ。
J:それは私も同感です!毎日毎日、新しいダンスミュージックが各地で生み出されているわけですが、とりわけ4つ打ち作品に関してはほとんどが似た環境、同じPCやツール(ソフト)で作られていて、なおかつ昔に比べると誰でもより簡単に制作することができますよね。高性能なツールがどんどん安価になってきて、誰でもそれなりのものが作れてしまうという…。そういった現状がかえって皆「4つ打ちのフォーマットに飽きつつある。」という傾向を産んでいるんじゃないかと。もちろん素晴らしい作品も多数存在していますが。
I:確かにそうかもしれないね。フィルターやプラグインが同じだったりで曲が似通ってきたりね。
J:長い時間をかけて作り上げていく良さもありますが、インプロ(即興)性、ぶっつけ本番、偶然が生み出すような良さもまた魅力だと思うんですよね。極端な話ですけど(笑)。
I:時には、ラフな不完全さが楽曲に勢いを与える事もあるね。かといって僕は昔使っていたおもちゃのサンプラーや古い機材を引っ張り出してきて、わざわざオールド・スクールなスタイルに戻そうって思っているわけでもないんだけど(笑)。
J:楽器をご自分で演奏されることはあるんですか?
I:僕はもともとパーカッションとドラムをやっていたので、自分のトラックで自ら演奏したものを使う時もあるよ。
J:ではライブで演奏される事は?
I:それはさすがにないけどね(笑)。そもそも人前でライブはあまりやったことがないんだ。もちろんDJは昔からやってたよ。でも今回のようなラップトップでのライブに関しては、今後クラブなどで行なう予定は考えてないんだ。僕がライブに使っているツールは、ラップトップ上とはいえアナログ的に操作できる部分があるんだけど、やっぱり観ているほうはそれ1台だけだとつまらない思うんだ。
J:そうですか…。ではライブを行なうのを前提として、具体的な変化を加える事を考えてみましょうか?
I:昔のTANGERIN DREAMみたいに壁一面のシンセにプラグをはびらせて…(笑)
J:お金がかかりすぎますよ!(笑)