ロンドンの人気クラブTHE ENDで、毎週月曜日に行われている話題のパーティー「TRASH」。月曜という平日にも関わらず、ロンドンの耳の早いリスナーの間で絶大な人気を誇る、そのパーティーのDJかつプロモーターとして活動するEROL ALKANは、MYLO"DROP THE PRESSURE"のリミックスで名を上げ、その後、DAFT PUNK"BRAINWASHER"、JUSTICEの"WATERS OF NAZARETH"、FRANZ FERDINAND"DO YOU WANT TO"などヒット曲のリミックスを連発、さらにMYSTERY JETS、LONG BLONDESといった話題のインディ・バンドのプロデュースを務め、いまや英国を初め世界各国で盛り上がりを見せるインディ・ダンス・シーンの、アイコンとして注目を集めています。
いくつもの変名義でのリリースを行いアーティスト活動を行ってはいるものの、EROL ALKAN名義でのリリースはなく専らDJやプロデューサー、リミキサーとして活動している彼が、一躍新世代ダンス・ミュージックのアイコンにまで認知されるようになったのは、それらのリミックス・ワークやプロデューサー・ワークだけに留まらず、彼のA&R的な慧眼によるところも大きく、EROLの音楽に対する知識と時代の流れを読み取ることの出来る洞察力、そしてロンドンという街で培われてきた鋭い音楽的感性は、アーティストや音楽関係者からも絶大な人気と信頼を得ています。
そして昨年の10月6日には、新木場のAGEHAで行われた「GAN-BAN NIGHT SPECIAL」に、JUSTICE、PEDRO WINTERと共に参戦。PEDRO WINTER、JUSTICEのDJの後、FRANZ FERDINAND"DO YOU WANT TO"のEROL ALKANリミックスで始まった彼のステージは、BEASTIE BOYSやGOSSIP、HOT CHIP、RAPTURE、DEEP PURPLEなどロック、テクノ、エレクトロ、ディスコ・パンク、ヒップホップを古今東西ごちゃ混ぜにしたオール・ジャンル・ミックスで、今ではそんなに珍しいスタイルではないものの、そこはさすがEROLといったロンドン・マナーの洗練された感覚による選曲と、拳を突き上げて観客を煽る派手なパフォーマンス、そしてミキサーなどの機材を縦横無尽に操る確かなテクニックで、観客は一気にヒート・アップ。素晴らしいプレイを披露しました。
そんな彼にイベント当日のWARNER MUSICにて、インタヴューすることが出来ました。黒目がちの優しそうな目に違わぬ、穏やかな物腰で迎えてくれたEROL。黒革のライダーズ・ジャケットに身を包んだ彼は、本当にジェントルでインテリジェンス溢れる、素晴らしい人物でした。活動が多岐にわたるため、聞きたいことや話したいことは多々あるものの、時間に制限もあり、今回は主にDJの始めたきっかけやイベント、最近の活動を中心にお話しをお伺いしました。
INTERVIEW + TEXT: KOZUE FUKUSHIMA(JET SET TOKYO)
INTERPRETER: RYOKO ITO
JET SET(以下J):初来日となりますが、まずは自己紹介をお願いします。
EROL ALKAN(以下E):う〜ん、なんて言ったらいいかな?僕はEROLです。生まれも育ちもロンドンで、DJは14年続けているよ。あとリミックス・ワークは始めて3年くらいになるかな。バンドのプロデュースもやってるけど、これはまだ半年くらい。どれも計画をたてて始めた訳じゃなくて、僕のスピリットにしたがってやってたらこうなってたんだ。僕は常にクリエイティヴなインプットと音楽的な繋がりを求めてるからね。
J:DJとして14年のキャリアはすごいですね。DJを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
E:友達がターン・テーブルを2台持っていたから、それを使って何が出来るか実験してみたくなったんだ。最初はあらゆるジャンルの音楽をミックスして、カセットに録音したりしてた。当時のロンドンのクラブは同じような選曲ばかりでひどくつまらなかったから、その時代の斬新なブリティッシュ・ミュージックをもっと支持するDJがいてもいいんじゃないかって思ってね。例えば、毎晩RED HOT CHILLI PEPPERSなんかをかけるかわりにね。だからとあるクラブのオーナーに、「せっかくいいクラブなのに、この選曲なら他と同じだよ」って言ったら、「じゃあお前が代わりにやってみろ」っていう話になって始めたんだ。
J:当時のブリティッシュ・ミュージックとはどういうものがあったのですか?
E:90年代初頭の話だよ。例えばBLURの『MODERN LIFE IS RUBBISH』(※1)とか、初期VERVE(※2)SUEDE(※3)だよ。あとはMERCURY REV(※4)の奇妙なサイケデリック・サウンドが最高に面白いと思ったね。そこにKINKSやBEATLESみたいなクラシックを混ぜるのが僕のやり方なんだ。
J:DJは17歳のときからということですが、レコードを買い始めたのはいつくらいからですか?
E:レコードはずっと買ってたけど、現場ではCDとカセット・デッキとVHSをフルに使ってプレイしてたんだ。クラブのプロジェクターを使って、映像の断片を音と一緒に間に挟んでみたりね。CDが終わったらテープをかけて、とかね。当時はCDJとか無かったから色々と工夫してやってたんだよ。
J:では、現在あなたが毎週月曜日に行っている「TRASH」についてお聞かせください。
E:「TRASH」は僕にとって必然でもあり偶然でもあったと言えるかな。自分が求めた妥協のない空間が、みんなも楽しむことの出来る場所になっていった。ずっと同じ場所で好きなものを好きなようにプレイできる、確固たる場所がほしかったんだ。でも僕自身、こんなにポピュラーになると思ってなかったし、大きくしようとも思ってなかったんだけど、始めてもう10年経つんだよ。始めた当初は小さなバーでやっていたんだけど、80人集まると「スゴイ!」って大喜びしてたんだよ。それが今ではTHE END(※5)で1000人くらいお客さんが集まるんだ。月曜日に1000人集まるなんてクレイジーだよね。
J:最近リミックスが増えていますよね。初めてのリミックスは?
E:その質問は難しいな。リミックスの定義もいろいろあるからね。とりあえず2001年くらいまで、マッシュ・アップやリエディットものをブートでリリースしたりしてたんだけど、2003年にTRAVOR JACKSONから初めて依頼を受けたんだ。PLAYGROUPのリミックスのね。でもTRAVORからのウケがあまり良くなくて却下されて(笑)、リリースされなかったんだ。そのリミックスはノイジーでへヴィーで、JUSTICEにも通じるスタイルだったんだけどね。あとはLADYTRON、COSMOS、LO FIDELITY ALLSTARSもやったんだけど結局気に入らなくて、リリースはなかったね。正式にリリースされた初めての作品はMYLOの"DROP THE PRESSURE"だよ。
J:最近ではPETER BJORN & JOHNのリミックスがありましたよね。あれは個人的にすごく好きです。
E:あれはBEYOND THE WIZARDS SLEEVE名義でのリミックスになるんだ。THE GRIDのRICHARD NORRIS(※6)と僕とが手掛けたものだよ。
J:シタールっぽいサウンドやエフェクト処理がすごくかっこよかったです。
E:あれはシタールじゃなくてギターなんだよ。ちょっとヤングな感じを出したくて(笑)BPMを早くしたりしてみたんだ。あのリミックスの作業過程は、RICHARDと僕とで音を交互にやりとりしながら進めたんだ。具体的にお互いがどんな役割をするかは曲にもよるんだけど、やっていくうちに原曲の原型をとどめてないこともあるんだよ。
J:RICHARDと一緒に行ったリミックスは"YOUNG FOLK"だけですか?
E:そうだよ。
J:SCISSOR SISTERSのリミックスもされましたね。
E:"I DON'T FEEL LIKE DANCIN"のオリジナルは、バウンシーでハッピーな感じの曲なんだ。でも僕はダークなサウンドが好みだから、リリックをあまり使わなかったんだ。シンセの音が特徴的なリミックスだよ。このリミックスを言葉で言い表すなら、"BENDING(うねり)"だね。
J:あなたはリミックスのほかにバンドのプロデュースもしてらっしゃいますよね。
E:あぁ、やってるよ。LONG BLONDESとMYSTERY JETSのね。あとはKLAXONSやWHITEYとも仕事をしたよ。僕は音に入れ込むタイプのミュージシャンが好きなんだ。プロデュースに関しては僕自身がそのバンドの全てを作りこんでやらせていくんじゃなくて、そのバンドが既に持ってる土台をベースにして、そこに僕自身の考えをインプットして練りこんでいくんだ。
J:では、先ほど話に出たBEYOND THE WIZARDS SLEEVEについて教えてください。これは60年代のロックを現代的に再構築するという形になっていますよね。
E: そうそう。古い60年代のサイケデリックな音源を使ってリエディットするのが、このユニットのやり方さ。その時にあくまで素材として音を取り込んで使うんだ。聴いただけでは、どこから拾った音かもわからないような音源を、現代のシーンやフロアになじむような新しいサウンドに作り変えるんだ。
J:あなたのそういった感覚はRUB 'N' TUG辺りに通じるものがあるような気がするのですが。彼らの方がもっとハウス寄りではありますが。
E:RUB 'N' TUGは好きだよ。彼らのサウンドはストレートで温かみがあってなかなか聴けない、いいサウンドだと思うよ。
J:では、BEYOND THE WIZARDS SLEEVE以外の名義はどのくらいあるのですか?
E:あまりおおっぴらにしないようにしてるんだよね。でも既に僕がやってるって知られてる名義としては、MUSTAFA 3000(※7)KURTIS RUSH(※8)があるかな。
J:EROL ALKAN名義でのリリースはないのですか?
E:未定としか言えないなぁ。今は色々なことを同時進行で行っている状況だからすごく忙しいんだ。
J:では、今あなたがおすすめのアーティストを教えてください。
E:難しいなぁ…。たくさん聴いてるから、その中から一つ選ぶっていうのは無理だよ。僕は気に入った曲は何ヶ月もの間ずっと聴き続けたりすることもあるんだ。最近だと、そうなぁ、SYD BARRETT(※9)とかよく聴いてるよ。
J:ではそろそろ時間のようですので、最後に日本のファンに一言お願いします。
E:僕は飛行機が苦手だから、やっと来ることが出来てすごく嬉しいよ!日本はあらゆる物事の調和が重んじられている国だと思った。日本に来て、ロンドンがどれだけクレイジーかってことを再認識したよ。日本っていう国は僕にインスピレーションまでも与えてくれる素晴らしい国だと思ったね。ありがとう!
※1 BLURの『MODERN LIFE IS RUBBISH』
'93年リリースのセカンド・アルバム。ブリット・ポップの幕開け的な作品。
※2 VERVE
RICHARD ASHCROFT率いる4ピース・バンド。'90年に結成され、2枚のアルバムをリリース後、解散。'96年にメンバー交代を経て復活を果たし、大ブレイクするが、'99年にまた解散した。
※3 SUEDE
現在TEARSで活動するBRETT ANDERSENが率いる4ピース・バンド。'92年デヴュー。デヴュー当時は、「DAVID BOWIEとTHE SMITHの融合」とか「紅茶とスコーン以来イギリスから出現した最大の呼び物」などと評され話題となった。'03年解散。
※4 MERCURY REV
JONATHAN DONAHUEを中心に結成されたネオ・サイケ・バンド。数々のメンバー交代や解散&再結成を挟みつつ、6枚のアルバムと1枚のベスト盤をリリース。現在はJONATHAN DONAHUE、JEFF MERCEL、GRASSHOPPERの3ピース・バンドとなっている。JONATHANはFLAMING LIPSのメジャー1作目『HIT TO DEATH IN THE FUTURE HEAD』にも参加。また、元ベーシストのDAVE FRIDMANNはMOGWAIやFLAMING LIPSも手掛ける名プロデューサーでもある。
※5 THE END
ロンドンの人気クラブ。週末にはLAURENT GARNIERやLAYO & NUSHWACKA!、DJ MARKY、TIMO MAASなど名だたるDJがプレイする。
※6 THE GRIDのRICHARD NORRIS
元SOFT CELLのDAVID BALLと2人でTHE GRIDというテクノ・ユニットで活動。最近では主にリミキサーやプロデューサー、エンジニアなどを行っている。
※7 MUSTAFA 3000
HEADMAN"MOISTURE"(GOMMA)、ALI LOVE"K-HOLE"(未リリース)などのリミックスを行った、EROLの別名義ユニット。
※8 KURTIS RUSH
EROLのマッシュ・アップ作品をリリースする際の名義。GEORGE MICHAEL"FAITH"とMISSY ELLIOTのマッシュ・アップなどの作品がある。
※9 SYD BARRETT
PINK FLOYDの創設メンバー。過剰なドラッグ摂取により67年にPINK FLOYDを脱退。'70年にソロ名義で2枚のアルバム『THE MADCAP LAUGHS』、『BARRETT』をリリースするが、セールスが伸びず、そのまま引退。'06年7月7日死去。

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