Overseas Report » vol.015

ロバート・クラムを探して

2005-05-31

Taro Kawano(JET SET ONDE)
NEXT CENTURYは、白人レコード・ディーラー、トムが経営するニュージャージーの予約制レコード店。突然行って営業していない訳ではないが、レアなレコードを手に入れたければ、店鋪とは別の倉庫へ入らせてくれるようにアポイントを取らなくてはならない。主体はヒップホップやディスコなんかの12インチ・シングル。ただシングルを集めるからには商品にはならない無名のアーティストの無名のシングルも混じって集まってくる。ここがおもしろい。そんなのを一固まりにした区画もあって、一箱増えれば、気になる物を全て試聴する。すると必ずや出てくるとんでもない新発見レコード。今回も謎のNYアフロ・レゲエ・バンドが、ヒップホップ・ビートに乗ってトロピカルなファンクを展開するシングルを発見。セルロイド・レーベル系のミクスチャー、ワールド・ミュージックの部類でこんな時は店主のトムに見られないようにほくそ笑む。トムは先見の明に長けたやり手のディーラーだ。次にブームが来ると思ったレコードを誰よりも早く取り扱う。中でもNYのプエルトリカン・ミュージシャンが母国回帰の路線に傾き、母国で音楽を発信しはじめた80年代のサルサ・シーンは彼ががっちり押さえている最近の一押しだ。この時代は、サルサ・ジャズを含め多くの名作が未だ埋もれたままでいて、プエルトリカン・ミュージシャンの演奏や研ぎすまされた感性に認識を改めなくてはならない再発見ともなった。と言っても、先見の話であるから、未だユーザーの食い付きは悪いのだが。

ただし、トムの店のレコードの話はここまで。実は彼。名手のレコード・ディーラーでありながら、同時に北米でも屈指のコミック・ディーラーである事はレコード掘りにはあまり知られていない。渋い所をちゃんとストックしていて、痒い所に手が届く品揃えで名の通ったディーラーなのだ。もちろん、僕が個人的に大好きな辛辣アンダーグラウンド・コミック・アニメイター、ROBERT CRUMBの作品も店の奥にちゃっかり持っている。何せセックス、ドラッグ、放送的禁止用語連発のCRUMB漫画だから、表に出せるような代物ではない。レコードとは別倉庫で、コミックの古本をストックしている倉庫に入れてもらう。奥の奥の片隅。スティール棚一個分が全部クラム関連ってコーナーがあって、いきなり彼が何種類か書いている伝説のミュージシャン肖像画カード・コレクション・シリーズで「HEROES OF THE BLUES」オリジナルが無造作に置かれている。36人のプレ・ウォー・ブルース・パイオニア肖像画とブルース研究家STEPHEN CALTによる詳細なアーティスト・バイオグラフィーがそれぞれのカード裏面に書かれているトランプ・サイズのボックスだ。チャイナ・プリントの復刻版も出ているが、オリジナルはクラムの緻密なタッチが鮮明でそれとは比べものにならない。さらに、クラム初期の傑作コミック「ZAP」も初版ではもちろんないが入手できた。クラムについてはDAVID LYNCH絡みのドキュメンタリー映画「CRUMB」にも詳しいので興味をもたれた方はそちらもぜひ。
そんなCLUMBに夢中の僕を尻目に同じ倉庫でごそごそトムが探し物をしている。「トム、何か探し物してるの?」と尋ねると「トーキング・ヘッズのおもしろいのをこの前見つけたんだ」と言う。仕事を忘れてプライベート・コレクションによだれをたらしている僕に彼が止めの一発を撃とうとしている。僕はそのNYパンクの名バンド、トーキング・ヘッズが大好きなのだ。いや語弊がある。その中心人物DAVID BYRNEが大好きなのだ。そんな僕にトムが探し出してくれたのが長年探していたトーキング・ヘッズの2ND.アルバム「MORE SONGS ABOUT BUILDINGS AND FOOD」。いや、普通の「MORE SONGS ABOUT BUILDINGS AND FOOD」ではない。同アルバムをリリースしたサイアー・レーベルがプロモーションの為に制作したレコード付きパズル・ジャケット・モデル。もうそれを手にした時は、よだれどころか、マーライオンのように口から何かが出ていたはずだ。「こ、これ譲ってくれるの?」と既に舌ももつれ気味で、そんな僕を見てトムが大笑いする。「DAVID BYRNE探している奴なんて滅多にいないよ。安くしておくよ」
あぁ、トム。レコード買うならNEXT CENTURY。ニュージャージーに行くならNEXT CENTURY。持つべき友ならNEXT CENTURY。時代がひと回りしても、必ず先回りしているレコード屋。ヒップホップやディスコなんかの12インチ・シングルなんかはかっちり高めの値段だけれど、とっぽいところは大安売り。決して商売だけにならないトムに大感謝。