山崎まどか : アイ・キャン・シー・ザ・ミュージック - Vol.4 [2012-10-06]

ようやく涼しくなって、CD棚も模様替えのシーズンです。能天気なサマー・アンセムとはまた違う魅力を持つ音楽が聞きたくなってきますよね。そんな気分の時に、タイミングよくリリースされたのがデヴィッド・バーンとセント・ヴィンセントことアニー・クラークのコラボレーション・アルバム、『Love This Giant』。これが思った以上に素晴らしい出来映えでした。企画もの特有のチープさや、「ベテランが老骨にムチを打って若手と組んで無理をしている」感がないのは、二人それぞれの作風とはまた違うブラス主体のサウンドにしたおかげでしょうか。

 

アルバムの冒頭を飾る「Who」のMVもまた秀逸です。田舎道で車を走らせていたバーンが、道の真ん中で横たわっているセント・ヴィンセントを見つけ、バーンらしいおかしなダンスを彼女に教えたり、逆にヴィンセントの真似をして道に横たわってみたりという内容は、二人のミュージシャンの邂逅、そして互いを探し求める男女を思わせる「Who」の歌詞世界を表現しているといえます。飄々とした魅力で奇妙なシチュエーションを包んでいる作風は、ミランダ・ジュライの映画を思わせるところも。

それはヴィンセントとミランダの髪型がお揃いだから、という理由だけではないはず。

 

 

監督はデンマークの映像作家、マーティン・デ・スラウ。2005年に手がけたCarpark Northの「Human」のMVで世界的に知られた人で、これもまた素晴らしい作品です。

 

 

セント・ヴィンセントつながりで、ブルックリン派の新作MVをもうちょっと紹介しましょう。Grizzly Bearのニュー・アルバム、『Shield』からのMVの第一弾は「Yet Again」。採用した監督にMVを自由に撮らせることで知られるGrizzly Bearが今回選んだのは、カナダの女性監督エミリー・カイ・ボック。彼女はサウンドと歌詞世界から、思春期の少女の悪夢的なおとぎ話を作り上げました。フィギュア・スケートの演技に失敗してリンクの底にある湖に落ち、そこからスケート靴のまま閉園間近の移動遊園地や、ホーボーたちが暮らす森をさまよう少女の姿は、社交生活の中で役割を演じるのを失敗してしまった思春期の若者たちを投影したものだそう。ムーディで、切なくて、そこはかとなく不安にさせられる映像は、エイミー・ベンダーやケリー・リンクといった現代のアメリカの女性作家たちの小説に通ずる世界観があります。

 

 

Dirty Projectorsのリーダー、デヴィッド・ロングストレスが自ら監督を務めたのが、新しいEP(と最新アルバム『Swing Lo Magellan』)に収録された「About to Die」のMV。

 

 

「人生は確かに終わりつつある/君は震える/日々をまったく無為に過ごしていたって気づくのさ/そしてそれは全部自分のせいなのさ」
という歌詞に合わせて、手術着のままベッドに横たわるロングストレスが、中世の病院、宇宙船内部のようなトラックの中、遠くに山々が見えるサナトリウムらしき場所のベランダをさまようこのMVは、実は彼のショート・フィルム「Hi Custodian」からシーンを抜粋したもの。このショート・フィルムが公開されたニューヨークのイースト・ヴィレッジにあるSunshine Cinemaでは、私も今年の五月、映画を二本見ています。エッジの効いたインディ映画がラインナップに並ぶ「いかにも」な映画館で、ニューヨークにいたら私も「Hi Custodian」を見に行ったに違いありません…客席のヒップスターなメガネ・髭・タトゥー率を確認するために…!

 

 


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