山崎まどか : アイ・キャン・シー・ザ・ミュージック - Vol.5 [2013-01-08]

 あけましておめでとうございます。皆さんも年始年末、各音楽メディアが選出したベスト・ミュージック・ビデオをさらって楽しんだりしていたでしょうか。この連載で取り上げたものもチラホラ見かけましたが、私の2012年度のベスト・ミュージック・ビデオ監督賞はトム・シャープリングに献上したいと思います。


 
 ニュージャージーのラジオ局WFMUのコメディ音楽番組のホストとして、またテレビドラマ「名探偵モンク」のエグゼクティブ・プロデューサー兼ライターとして既にコメディ界では名声を築いているシャープリングですが、ここ最近はインディ・バンドの面白いMVを撮る監督として評価がうなぎ上りです。ポール・ラッドとビル・ヘダーが出る架空コメディ映画の予告編がついたThe New Pornographersの"Moves"あたりから評判になってきて、その後も次々と傑作を送り出しています。

 

 

 私が彼の名前を意識するようになったのは、それこそ2012年の1月に発表されたReal Estateの"Easy"のMVを見てから。Real Estateのニュー・アルバムをプロモートする冴えない三人組がラジオDJを誘拐して殺そうとする、というストーリーが最後の三十秒で爆笑ものの展開をみせるショート・フィルム仕立てのこのMVを見て、トム・シャープリングの名前を早速ググったのでした。

 

 

 その時はニュージャージーつながりでバンドのMVを監督したのかなあと思っていたのですが、その後も話題のビデオの影にこの男あり。エイミー・マンの"Labrador"では、何と彼女が在籍した’Till Tuesdayの1985年の曲、"Voice Carry"のMVを全部再現するという荒技に出ました。若き日の自分がプロモで演じた時代遅れのメロドラマを再びトレースすることになったエイミー姐さんが始終憮然としているのが笑えます。ちなみにこのMVはイントロに監督とエイミー・マンの(架空)インタビューが入るのですが、トム・シャープリングは実物ではありません。彼を演じているのは、ドラマ『MADMEN』のドン・ドレイパーとしてお馴染みの俳優、ジョン・ハムです。この「俳優が演じるトム・シャープリングによるコメンタリー」は、彼の撮るビデオの特色となりつつあります。

 

 

 一昨年の作品、ガレージ・バンドThe Ettesの"Excuse"のビデオでは、映画『ヤング・アダルト』で知られるパットン・オズワルトがトム・シャープリングを演じました。これもまたいいビデオ。壮大なCG映像が仕上がった様を絵コンテでは見せながら、実際に流れる映像はブルースクリーンの前でThe Ettesのメンバーが演技をしている様を撮ったメイキングだけという仕掛けが逆に洒落ています。低予算でも、アイデアさえあればいいビデオが撮れるというお手本です。

 

 

 今年のトム・シャープリング監督の話題作といえば、もう一本、ベン・ギバードの"Teardrop Windows"があります。「で、どの歌詞にズーイー・デシャネルの恨み節が書かれているの?」ということで話題になったソロアルバム『Former Lives』の曲です。「あまりに普通」な彼を売り出すために、レコード会社がワルのイメージを彼に強要するという設定で、何とかベンがワルになろうと色々なミッションにチャレンジする様が描かれています。しかし「逮捕される」「ワルなタトゥーを入れる」「リアリティ・ショウで悪印象を持たれる」等、全ての課題に失敗。「君はいい人、ベン・ギバード」というオチが待っています。

 

 

 トム・シャープリングが映画界に本格的に参入するのは時間の問題ですが、その際は今の人脈を生かして、めちゃめちゃセンスのいいオリジナル・サウンド・トラックを作って欲しいものです。


 今年も素敵な音楽と映像に出合えますように!


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