山崎まどか : アイ・キャン・シー・ザ・ミュージック - Vol.16 [2015-11-18]
こんにちは。すっかり秋も深まってきました。傷心ソングが似合う季節ですね。そんな時期を狙って、アデルがいきなり「Hello」のミュージック・ビデオを発表。監督はグザヴィエ・ドラン、IMAXフィルムで撮られた初のMV、そして最初の二十四時間でVEVOにおいて2770万回再生の新記録。話題に事欠かない新曲デビューとなりました。アデルはどうやらドランの『マイ・マザー』が気に入って、彼をビデオの監督に指名したという話です。初めて会った時にアデルがこの曲を歌ってくれたのを聞いて、ドランの中で「サマー・コテージ、森、失恋、電話」といったキーワードがすぐに思い浮かんだそう。昨今のテレフォン・ソングといえばスマホが基本ですが、あえて固定電話で元カレに留守電を吹き込むアデル、渋い。森の中の落ち葉の表現にドランらしさを感じます。アデルが着ているコートが二枚とも素敵なので、どこのブランドですかとチェックしてみたのですが、彼の監督作の映画と同じく、二枚ともドランが自らデザインしたオリジナルだそうです。
大物映画監督とのコラボ作といえば、ジョアンナ・ニューサムの「Diver」のミュージック・ビデオは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品。PTA監督の『インヒアレント・ヴァイス』に出演した縁で実現した企画ですが、アルバム・ジャケットにも使われたキム・キーヴァーのアートの中に浮かび上がるジョアンナが、まるで宗教画の聖女のように神々しい。同時に禍々しい雰囲気もあり、重厚でゴージャス。最初は映画館で公開されたというのも納得のMVです。
ちなみにジョアンナのPTA作品出演は、PTAの奥さんであるマーヤ・ルドルフ→彼女の「サタデー・ナイト・ライブ」時代の仲間であるアンディ・サムバーグ→サムバーグの奥さんのジョアンナ、という家族ぐるみの付き合いを介して形になったと思われます。
カーリー・レイ・ジェプセンの「Your Type」のミュージック・ビデオの監督は、コッポラ一族の新たな刺客、ジア・コッポラ。これはカーリーのアルバム『E・mo・tion』のプロデュースと楽曲提供に関わったブラッド・オレンジことデヴ・ハインズが取り持った縁でしょう。ブラッド・オレンジはジア・コッポラの初監督映画『パロアルト・ストーリー』のサウンドトラックを提供。MVの方は、普通の女の子がネオン色のクラブでグラム・ロック・クィーンになったファンタジーを夢見る、というオルタナ・ガールのシンデレラ・ストーリー仕立て。今時のインディ・バンドの80年代ダンス・ミュージック趣味を取り入れてお洒落に生まれ変わった彼女にぴったりの展開なのでは。もう面白MVでお馴染みの一発屋とは言わせない、というカーリー・レイ・ジェプセンの心意気を感じます。
80年代趣味といえば、私が心を撃ち抜かれたミュージック・ビデオがあります。元セント・ペプシことスカイラー・スペンサーのアルバム『Prom King』からの一曲、「Affairs」のMV！
これ、何と、YouTubeで見つけた日本の80年代~70年代のコマーシャルをつなげて作ったもの！夜のネット徘徊を思い起こさせてたまらない。
監督のデヴィッド・ディーン・バークハートは、こういうYouTubeで拾った古い映像をマッシュアップすることで有名な人のようです。某有名化粧品会社や某有名清涼飲料水のCM、日本のコマーシャルが華やかさを謳っていた頃のバブリーであるが故に貧しくて、かつ強烈なノスタルジーを感じさせる映像の数々。虚しい栄光、アーバン・ライフ、浅野ゆう子、紺野美沙子、マリアン、そして松本孝美の笑顔。再編集されたもののあまりに空虚な美しさに胸を撃ち抜かれました。曲のせつなさもあって、決して忘れられないミュージック・ビデオ体験になりそうです。
四年続いた私のミュージック・ビデオ・コラムも今回でひとまずおしまい。最後にエンド・タイトルとしてふさわしいビデオを選べて良かったです。
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