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Reggae
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Dr.Looper / 2019-05-01
1
RAMP - THE OLD ONE TWO / PAINT ME ANY COLOR
【Record Store Day限定盤】2007年に発表された未発表音源が初7"化!
1977年にリリースされたもののセールスには恵まれず、十数年後の再評価がきっかけでその後数え切れないほど再発されてきた、Ramp唯一のアルバム『Come into Knowledge』ですが、オリジナル盤LPは昔も今も変わることなく、マニア垂涎の一枚といえるでしょう。今でこそ年に数回程度は中古レコード屋さんの放出リストで目にするようになりましたが、1990年代前半はとにかく(どこのレコード屋に行っても)見ない幻の一枚でした。その再評価のきっかけとなったのは勿論、A Tribe Called Quest(以下A.T.C.Q.)の"Bonita Applebum"(1990年)で使用された、いつまでも聴き続けていたい至福の2小節ループの元ネタ曲、"Daylight"が収録されていたことでしょう。引用曲選びの審美眼には定評があったA.T.C.Q.によるサンプリングを通じて再評価されたアーティストは、Rampの他にもRonnie FosterやBilly Brooks、Weldon Irvineらが挙げられますし、もしかしたらMinnie Ripertonですら、そうした再評価のメソッドの影響下にあったと言ってもいいかもしれません。そんなRampのオリジナル盤LPは自分にとっても長年トップ・ウォントの一つでしたが、先述の通りで全く見つからず(あるいは高くて手が出せず)、当時の再発盤(白盤)で妥協しつつも、綺麗な黄色から赤のグラデーションが特徴的なABC Blue Thumbのレーベル・デザインではなく、白盤のモノクロ・ラベルを眺めつつ聴くたびに、毎回かなりの敗北感を味わい続けたことをここに記しておきます。結局オリジナル盤を入手したのは、確か21世紀になってからのことでしたっけ・・・。ちなみに本盤のレーベル面ですが、オリジナル盤同様の配色グラデーションに「Luv'n Haight」の文字が。この未発表曲2曲がサンフランシスコの老舗レーベルから突如12インチ化されたので慌てて買ったものの、内容はまあRampというよりはPファンク系の未発表曲という感じで、少々ガッカリしたのはついこの間のように感じますが(なんせアルバムが素晴らしすぎたので)、それすらもう12年も前のことだというのを今回知ってビックリしています。今回の世界初7インチ化も、そちらの12インチと同じく名門Luv N' Haightから。楽曲自体よりも記録物としての価値の方が高いかもしれません。地味に嬉しいジャケット付き。
2
JORUN BOMBAY - THE PLANETS EDIT
Jorun Bombayによる"Theme from the Planet 2019"リメイクが再入荷!
今月も『Ultimae Breaks Beats(以下UBB)』関連盤をご紹介。もっとも、結論を先に書いてしまえば、本盤は関連盤というよりもカヴァー盤と書いた方が良いのかもしれません。引用元となったDexter Wanselの"Theme from the Planets"は、James Brownの"Funky President"(トラック・メイカー的には"Funky Drummer"よりも重要なドラム・ブレイクだと思います)や、Rhythm Heritageの"Theme from S.W.A.T."(2枚使いで使い込んで盤がノイジーになればなるほど、なぜかカッコ良く聴こえるという不思議なドラム・ブレイク入り)、Esther Williamsの"Last Night Changed It All"(電話ベル音入りのヴァージョンと無しのヴァージョンの謎に混乱していた若い頃が懐かしく、今思えばアルバムVer.とシングルVer.の違いを意識するきっかけになったのはこの曲かも)、などと一緒に『UBB』10番、通称「緑」に収録されていました。世界中にディスコ・ブームを巻き起こしたGamble & Huffのレーベル、Philadelphia Internationalを支えた名キーボーディストであり、ソングライターでもあったDexter Wanselのソロ・デビュー作(1976年、バンド・メンバーとしては1973年にYellow Sunshineとして一度デビュー済み)に収録されている曲で、鍵盤以外の演奏を担当していたバック・ミュージシャンは、後にバンドとしてデビューすることになるInstant Funkの面々とのこと。『UBB』に収録されたことでこれまで数多くの楽曲においてサンプリングされてきましたが、個人的にはやはりEric B. & Rakim"I Ain't No Joke"(1987年)での印象が圧倒的かもしれません。TR-808で走らせたドラム・パターンに、この曲のオリジナルのドラム・ブレイクと、The J.B.'sの"Pass The Peas"のホーンを乗せただけ。なのに、なぜあんなにカッコ良いのだろう・・・?さらに書けば、その"I Ain't No Joke"を擦りネタに使ったGang Starr"DJ Premier in Deep Concentration"(1989年)でうっすら聴こえるホーンやスネア音すらカッコ良いのはなぜだろう・・・?その辺の深まる謎はさておき、タイトルが"The Planets Edit"なのでエディット盤かと思いきや、本盤はおそらく全てのパートが新録で、少なくともギター、ベース、サックスは手弾きを波形編集したものだと思われます。Jorun Bombay本人がすべての楽器を演奏しているとは思えない(ごくごく稀にそういうDJもいらっしゃいますが)ので、おそらくポッセ系のミュージシャン達なのではないかと思われます(注: Jorun Bombay自身も所属するバンド、The Agricolitesの演奏によるものです)。ですので、「原曲のエディット」というよりは「新解釈によるカヴァー」だと思っていただければ。個人的には、イントロのシンセ・ソロをドラム・ブレイクが乗ってからも引っ張っちゃえば良いのに、なんて思ったり、やっぱりシンセは復刻版のARP Odysseyで作った音なのかな?なんて思ったり。ちなみにBPMはオリジナル版が78、『UBB』収録版が104(勝手にピッチを上げて収録しちゃうという、ESGの"U.F.O."と同じ手口)、本盤は95になっています。本盤がヒップホップDJ的には圧倒的に使いやすいBPMではないかと思います。ぜひ。
3
FREEDOM - GET UP AND DANCE (12INCH VERSION FUNKY SOUL BROTHER EDIT)
【Record Store Day限定盤】Funky Soul BrotherがDJユースにエディット!!
Southpaw ChopさんとKocoちゃんのユニット=Funky Soul Brotherが、またしても「わかってらっしゃる」エディット7インチ盤をリリース。今回のお題はなんと、皆さんご存知"Get Up and Dance"です。日本語ラップがお好きな方にはスチャダラパーの同名曲のネタとして有名かもしれませんが、自分にとってはなんといっても、Grandmaster Flash & The Furious Fiveの"Freedom"(1980年)の元曲、という印象が強いかもしれません。あとSWV。そういえば1991年頃にMummy-Dと「元ネタを知って今までで一番びっくりした曲」について話していると、彼が真っ先に挙げたのがこちらの"Get Up and Dance"でした。苦笑いしながら「ウルチ(=『UBB』のこと)で初めて"Get Up and Dance"を聴いたんだけど、え?インスト?いやもしかしてネタ?Grandmaster Flashは演奏してないの?え?どういうこと?って頭ん中が真っ白になったよ」と言っていたのですが、Dの混乱ぶりにも納得。確かにこれだけ大々的に人様の曲、しかも前年リリースされたばかりのヒット曲を大胆に使いながら、「自分たちの曲だ」と言い張る姿勢は今考えてもいかがなものかと思いますし(訴訟された末に和解もしていますが)、逆にいえば、それだけ当時のヒップホップ楽曲のクリアランス関係は乱暴かつ節操がなく、相当いかがわしかったわけです。しかし、聴く側がそれを「盗人根性の胡散臭い音楽」と感じるか、それとも「革新的な新しい音楽」と感じるか、というのが大きな分かれ道であり、思えばその後のヒップホップとの接し方について大きな岐路に立たされていた、ということなのかもしれません。当然自分たちは後者だったわけですが。そんな本曲ですが、Johnny Hammondの"Shifting Gears"や、Melvin Blissの"Synthetic Substitution"、Banbarraの"Shack Up"といった、ドラム・ブレイク史上屈指の大ネタが満載の『UBB』5番(通称「紫」)に収録。ニューオーリンズから北に200km、ミシシッピ州ジャクソンで1975年に結成された大所帯ファンク・バンドFreedomは、地元のレーベルMalacoに1970年代後半以降4枚のアルバムを残しましたが、1981年にリード・シンガーのJoe Leslieが殺害されたことで、バンドが空中分解してしまったようです。クリーム色のMalacoラベルで知られるオリジナル7インチ盤は昔からレアで、特にスチレン盤が多かったこともあり、今回の再発を待ち望んでいたDJも少なくないのではないでしょうか。そういう意味でも実に「わかってらっしゃる」選曲です。A面はオリジナル7インチVer.を踏襲しつつ、ヴォーカル・パートが入る前にコーラス・パートが増設されていたり、B面もサックス・ソロから始まり、使いやすいようにブレイク・パートがふんだんに盛り込まれた、実に「わかってらっしゃる」ヴァージョンになっています。さらに、この曲のオリジナル12インチをリリースしたT.K.Recordsのレーベルの配色を踏襲して、黄色ラベル仕様にしてあるあたりも、実に「わかってらっしゃる」ポイントとなっています。
4
ブレッド&バター - バーベキュー
【Record Store Day限定盤】70'sジャパニーズ・フォーキー・グルーヴ~ライト・メロウ最高峰!!
映画監督の岩沢庸徳の息子として生まれた、5学年違いで2人とも血液型がAB型という兄弟デュオ、ブレッド&バター。彼らが1974年に発表したサード・アルバムが、この2019年に再アナログ化されることになりました。本盤の特徴について敢えて不躾な書き方をさせて頂くとするならば、「湘南育ちのお坊ちゃんミュージシャン達と東京育ちのお坊ちゃんミュージシャン達による邂逅」ということになるでしょうか。そのようにお坊ちゃん同士が意気投合する、という成りゆき自体は今も昔も往々にしてあり得るでしょうが、ブレッド&バターのケースにおいて特別だったのは、彼らの元に集まったミュージシャン達が、並外れた演奏能力を持つ優れた音楽家ばかりだった、ということです。そしてそうした交友関係の中心にいたキーパーソンとして、本盤でもドラムを叩いている林立夫さんの存在が浮かび上がってきます。兄の岩沢幸矢(さつや)さんが1967年春のアメリカ横断卒業旅行で知り合った人物、その甥が林立夫さんであり、それが縁で岩沢兄弟ともブレッド&バターとは別のグループを組んでいたり、青山学院大学の音楽仲間だった小原礼さんや、さらに後藤次利さんや鈴木茂さんあたりを岩沢兄弟に紹介したのも、他ならぬ林立夫さんだったとのことです。幸矢さんの奥様が、林立夫さんとバンドを組む可能性のあったMANNA(マナ)さんであることも不思議な縁を感じます。さて、発売からほぼ半世紀が経った今もなお全く色褪せることなく、普遍的なユース感に溢れている本盤の魅力と言えば、もちろん前述のとおり個々人の演奏技術の高さもありますが、トピック的な曲として、山下達郎さんが後にカヴァーした「ピンク・シャドウ」の存在を外すわけにはいかないでしょう。かなりレイドバックした原曲(これを歌うの凄く難しいと思います)を、シャキッとしたノリに解釈し直したライブ・ヴァージョンは、山下達郎さん初のライブ・アルバム、『It's a Poppin' Time』(1978年)に収録されているのですが、実はカヴァー曲だとは知らない人もいるかもしれません。オリジナルであるブレッド&バターのヴァージョンは、残念ながら詳細なクレジットが残っていませんが、自叙伝によればドラムが林立夫さん、ベースが細野晴臣さん、ギターが鈴木茂さん、キーボードがジョン山崎さん、パーカッションが斉藤ノブさん、アコギが岩沢二弓(ふゆみ)さん、という編成だったそうです。この錚々たるミュージシャン達ですが、そのユニット名がちょうどキャラメル・ママからティン・パン・アレーへと変わる移行期であり、雪村いづみ、スリー・ディグリーズ、荒井由実らの名曲を立て続けに録音して、ノリにノっていた時期だったことも付け加えておきます。LP、CDとも廃盤の期間が長く、その間に値段が高騰してしまっていましたが、今回は1996年のVivid盤以来2度めのリイシューとなります。ぜひ。
5
SPIDER HARRISON - BEAUTIFUL DAY
伝説的ディープ・ファンク・コンピ『Funky 16 Corners』にも収録の鬼レア45s!!
まだEgonがいた頃のStones Throwは、新録音源のみならず過去の発掘音源の再発リリースも多数手掛けていました。今でもそのことを覚えているいる方がどのくらいいるのか分かりませんが、The Highlighters Bandの再発7インチも興味深い一方で、かつてその曲も収録されてた『The Funky 16 Corners』(2001年)というディープ・ファンク系コンピレーションがありまして、そちらはその後のUS、ヨーロッパ、日本におけるファンク・ブームが辿っていく方向性を予見させる、非常に素晴らしい内容でした。DJ Shadow、Keb Darge、Gilles Peterson、そして黒田大介。これらの世界を股にかけたディガー達は、1980年代後半から始まったレア・グルーヴ・ムーヴメントがとっくに一段落して、一通りの再評価の機運を通過した上で、さらに深いところに眠るオブスキュアな音源を掘り起こすべく、世界同時多発的にファンクの深淵へと潜っていったわけです。歴史的なコンピレーションだった『The Funky 16 Corners』には、以降何度となく再発されることになるThe Wooden Glassの"In the Rain"(オリジナルは1972年)も収録されていましたし、2000年代後半あたりから巻き起こった、学生バンド・ファンクや軍隊バンド・ファンクのブームに先駆けて再評価された、Kashmere Stage Bandの音源を初めて聴いたのも、実際にこのコンピレーションでした。そんな名コンピにも収録されたA面の"Beautiful Day"は、インディアナ・ポリスで最初のソウルDJだったSpider Harrisonが、The Highlighters Bandのリズム隊を従えて録音した曲で、68BPMのドラム・ブレイクから始まる漆黒のファンク。イントロでかなりの迫力のドラムが堪能できますが、B面はまさかのドラム・オンリー・トラックでした。耳を澄ませば他の楽器の音もわずかに回り込んでいますが、まるでドラムの真ん前で聴いている感じで、とにかく凄まじい破壊力があります。出元はSpider Harrison本人が持っていたマルチ・テープ、ということですが、それを掘り当てた、現Athens of the North主宰であるEgonのディギン能力には驚嘆するしかありません。これこそ7インチにする意味がある再発盤といえるでしょう。レーベル・デザインもオリジナル盤のLulu Records(Rhythm Machineもここです)のレーベルを踏襲したデザインになっていて、そのあたりも仕事が丁寧だなあ、と。
6
細野晴臣 - HOCHONO HOUSE
『Hosono House』をまるごと新録した超話題作!!
最後に6本目の番外編。先々月もご紹介したアルバムを再び御紹介することをお許しください。というのも、必ずや「十数年後には2019年を代表する一枚になっている」はずの名盤ですし、実はここでせっかく御紹介しても「在庫切れが多い」とお叱りを受けることが多いのですが、本盤LPに関しては(ファースト・プレスはあっという間に市場から姿を消しましたが)セカンド・プレスの方の在庫がまだあるようですし。ちなみに自分はセカンド・プレスも買いました。セカンド・プレスの方が値段が高騰したYMOの『テクノデリック』の例もありますし。もっとも、あちらはジャケットが違いますけど。それはともかく本盤はとにかく名盤ですし、アルバムのリリース後に細野晴臣さんのインタビュー記事を目にする機会も多く、レコーディングに関して新事実がたくさん出てきたので書き加えておきたいことも増えた次第で、つまりは先々月のアップデート版と思って読んでいただければ幸いです。まず新事実を知って自分が一番驚いたことから。実は最初に聴いた段階では、今回のアルバムの音源は「最近のツアー・メンバーの各パートのミュージシャン達が弾いた音に、細野さん自身が手を加えたもの」だと思いこんでいたのですが、それは大間違いでした。なんと『すべての音源は現在や過去の細野さんの手弾き楽器によるものかソフト音源(この「ソフト音源」という言葉はPCベース内で楽曲を完成させる現在の主流の方法下ではかなり古めかしい言葉な気もしますが、つまりは「ハード音源の補集合」だと考えていただければ良いと思います)であり、ミックスはもちろんマスタリングに至るまでご本人が自ら行った』という驚愕の事実が判明。まるでピカソ並みのバイタリティを持った老人で、「世界が驚いた!スーパーお爺ちゃん」みたいな感じで紹介されてもおかしくないレベルの71歳だ、ということについて、もっと騒いだ方が良いと思ったりもします。こんなペースで書いていたら永遠に終わりそうにないので、特に印象深かった曲だけ以下で。「相合傘 ~Broken Radio Version~」(M1)で多用されたラジオのチューニング音は、自身の音楽体験の原点がラジオにあることを高らかに宣言しているようでもあり、ライヴで実際にラジオのチューニング音を多用しているヤン富田さんとの共時性について考えるのも面白そうだし、興味深いなあと感じました。そもそも2人ともHolger Czukay(ホルガー・シューカイ)からの影響が強い、ということなのかもしれませんが、それだけではないはずで。どういうことかと言うとつまり、ラジオという一般に普及している電波を使って、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように過去と未来とを行ったり来たりすることを表現しているのではないか、と思ったわけです。チューニング音さえ入れれば、過去でも現在でもカリブ海でも日本でも、いつでもどこにでも行ける感覚というか。そして「住所不定無職低収入」(M4)で約半世紀前(正確には1973年)にご自身で演奏したアコギの音を再び使うというのは、かつて大きな話題を呼んだNatalie Coleと実父Nat King Coleのオーバー・ダブによる共演と同じ方法論で、現在と過去、それぞれの時代の自分を一人二役で演じて実現させたようなものなのかと。1975年に目黒区民センターで催されたコンサートでの、ピアノ弾き語り音源をそのまま使った「パーティー」(M6)でも似た感覚を味わうことができるのですが、聴いている側としてはまるで、自分が1975年にタイムスリップしたかのように錯覚します。曲によって過去へ行ったり現在に戻ったり、時には未来に行ってみたり。一方、音像の仕上がりを大きく左右するという意味でハード面に着目してみると、「終りの季節」(M8)が意表を突くインスト曲だった効果もあるのですが、一曲一曲の音像がまるでだまし絵を観ているかのように変わっていくのは、紛れもなく現在のiMac+MOTU製『Digital Performer 9』の技術によるもので、だからこそ「2019年を代表する一枚」にもなり得るわけです(ちなみに使用されているオーディオ・インターフェイスはMOTU製896HDだそうです)。素人でも手が届くような機材を神様がわざわざお使いになる、というのも畏れ多い話ですが、つまりは「弘法筆を択ばず」ならぬ「細野オーディオ・インターフェイスを択ばず」、でしょうか。さらにトータルでの音像設計はもちろん、演奏家としても超一流というのが細野晴臣さんのこれまた凄いところで、「CHOO CHOO ガタゴト・アメリカ編」(M9)では、ベーシストとしての細野晴臣の真骨頂を堪能することが出来ます。カッコ良いところだけを残して無駄を全部削ぎ落としたような、正に仙人級のベース・プレイ。むかし田舎の祖父や祖母の家に行くと、セブンスターやチェリーの空き箱の包装紙を使って作られた、傘や人形が飾ってあったことを思い出します。中でも印象深かったのはお城で、祖父や祖母が恐ろしく器用に、かつ恐ろしく手間暇をかけて、包装紙を折ったり模様を作ったりして見事なお城を完成させていました。繊細さと忍耐力、そしてセンスによって作り出されたものであり、自分にはとてもじゃないけど作るの無理そうだけど、それでも思わず真似て作ってみたくなるような作品でした。本盤も聴き終わるとそれと似たような思いが生まれます。家の中で眠ったままの機材の電源を、久しぶりに入れてみたくなるような、壁に立てかけたままだったギターやベースを弾いてみたくなるような、自分も久しぶりに音楽で何かを表現してみたくなるような衝動が沸き起こるアルバム。全11曲、36分というボリュームも心地良い。あともう少し、というところで終わってしまうようなアルバムには名盤が多いと思います。ロジャニコ然り。
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