Dr.Looper / 2020-03-15

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RECALLING YOU

ANDRE SOLOMKO - RECALLING YOU

フィンランドのコンポーザー、Andre Solomkoによる最新12"が登場!

12" |  ¥1,950 |  FAVORITE (FRA)  |  2021-09-06 [再]  | 
旧ソ連出身で、現在はフィンランドを拠点としているAndre Solomkoの、およそ2年ぶりとなる音源が届きました。今回も素晴らしい出来栄えで、前シングルのB面曲"Moonbeach Disco"(2018年)と同じく、フィンランド出身の女性シンガーのCharlotta Kerbsがヴォーカルを担当しています。1st.アルバム『Où Es-tu Maintenant ?』(2012年)の冒頭を飾った"I Recall"にもよく似た、切なく美しいエレピのイントロで始まり、あちらがイントロからフュージョン~AOR色の濃い曲調へと繋がっていったのに対して、こちらは110bpmの極上のダンス・チューンへと展開。A面よりもグッと重心を下げた、B面のダブ・ヴァージョンの方のリミックスを担当したCharles Mauriceは、仏Rotaxレーベルからコンスタントに12インチをリリースしているPascal Riouxの変名なのですが、リミキサーとしてそちらの名義でクレジットされている楽曲はまだ2作目のようです。本曲を聴いていると、まるで昔のジャズ・プレイヤーがフュージョンを経由してAORへと向かい、さらにはディスコにまで手を出していくような、そう、例えばNorman ConnorsやWayne Henderson、Herbie Hancockあたりにも通じるセンスを感じます。もっともそれは1970年代の後半頃のアメリカの話なのですが、その影響はもちろん日本へも波及しましたし(例えば松岡直也さんとか坂本龍一さんとか高中正義さんとか)、Andre Solomkoがこの2020年に、敢えて40年遅れで似た歩みを見せる本当の狙いは、(当時祖国が社会主義国家だったこともあり)若い頃にアメリカ音楽からの影響を享受できなかったことへのカウンター、或いは揺り戻しなのかもしれません。ちなみにこちらの盤、両面とも収録時間が一曲で8分超えという、これぞ12インチで持っておきたいレコードでもあります。
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CRAMP YOUR STYLE FEAT. ROBERT MOORE (ORIGINAL) / CRAMP YOUR STYLE FEAT. ROBERT MOORE(CONOMARK & HONG KONG EDIT (BREW))

ALL THE PEOPLE - CRAMP YOUR STYLE FEAT. ROBERT MOORE (ORIGINAL) / CRAMP YOUR STYLE FEAT. ROBERT MOORE(CONOMARK & HONG KONG EDIT (BREW))

All The Peopleによる'72年リリースの歴史的傑作が7"にて復刻!

7" |  ¥1,980 |  BLUE CANDLE / OCTAVE (JPN)  |  2020-04-17  | 
ヒップホップDJの古典が200曲近く収録されていた、『Ultimate Breaks Beats』(以下『UBB』)シリーズ。その中でも屈指の重要曲が、この度めでたく再発7インチ化されることになりました。All The Peopleは、Betty Wrightのバック・バンドなどでホーン奏者~アレンジャーとしてクレジットされているRay Loveを中心に結成、フロリダで活動していたグループのようで、地元のレーベルT.K.傘下のBlue Candleからシングルを3枚リリースした後、同じくフロリダのレーベルM-I-Cに3枚のシングルを残したきり、グループとしての消息が途絶えてます。つまり各シングルの両面を合わせても、わずか12曲しか世に出さなかったバンドということになります。でもそのうちの一曲がこちらの"Cramp Your Style"だったということで、それはそれで凄い話ですね。赤い背景にボックス・ヘアのDJを配したアートワークでお馴染みの『UBB』21番に、Joe Texの"Papa Was Too"や、Johnny Pateの"Shaft in Africa"、Barry Whiteの"I'm Gonna Love You a Little Bit More"といった重要曲と共に収録されています。で、今回色々と調べてみて驚いたのですが、実は本曲を収録した初めてのコンピレーションは『UBB』21番(1989年)ではなく、1978年にブラジルで編纂された『Equipe Black Power』という企画盤だったようです。後者は後者で、"Cramp Your Style"の他にもExit 9の"Miss Funky Fox"や、Urban Crisisの"Sugar Man"などが収録されており、リリース元のTop Tapeは比較的ディスコ系に強いレーベルだったようですが、にしてはなかなかの好選曲でした。恐るべしブラジル。そんな"Cramp Your Style"ですが、オールドスクールの時代から頻繁に引用されており、特にB.D.P."I'm Still #1"(1988年)や、LL Cool J"Mr. Good Bar"(1990年)あたりが有名な例として挙げられます。ドラム・ブレイクとベース入りパートがあるので使いやすい(引用後に展開を作りやすい)のも多用された理由の一つでしょう。でも自分としては、サンプリング・ネタというよりもむしろ、DJの際の2枚使いのネタ、というイメージの方が強いかもです。たぶんですが、1990年の春に観たB-Freshのライヴのステージの"Warning"という曲で、ビートさん(DJ Beat)がガシガシと2枚使いしていたのがあまりに衝撃的で、そのときの印象が自分の中で今だに強すぎるからではないかと。ところで、当時『UBB』の2枚使いを多用していたラップ・グループのバックDJ達の「お約束」として、この曲から"Papa Was Too"に繋いだりとか、"Impeach the President"から"God Made Me Funky"へと移したりといった、「アナログ時代ならではの必然の流れ」みたいなパターンがありました。『UBB』に限らず、同じレコードを2枚使って展開を作ることが出来るなら、それが1番楽ですから。そして実はその考え方が、そのままトラック作りの方にもある程度の影響を与えていて、一枚の同じ『UBB』のレコードの中から違うネタ同士を組み合わせて一曲作るなんてのも、かつてはよく見掛けたプロセスでした。しかしその頃からはや30年、今やサブスクリプション全盛の時代です。その辺のかつての「お約束」が、今更インターネット上で語られることもなく、せいぜいそのまま忘れ去られてしまうのが関の山なので、余談ではありますが敢えてここに記しておきたいと思います。
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SOULGLIDING

V.A. (RAINER TRUEBY) - SOULGLIDING

Rainer Trubyが手がけるBPM110以下縛りのジャズファンク/ソウルジャズ・コンピ!!

2LP |  ¥3,900 |  BBE (UK)  |  2020-12-10 [再]  | 
コンピレーション・アルバムを2種類に分けます。一つはメーカーやレーベルが旧譜タイトルで売り上げを再度立てるために、当時とは別の評価軸で監修されたもの。シングル集とか、ビートルズが引用した曲ばかりを集めたものとか様々な切り口がありますが、「フリーソウル」という言葉の語源となった『Essential Argo / Cadet Grooves』シリーズは、その名の通りArgoやCadetといったレーベルに遺された「ジャンル分けしづらいジャズ」を再評価したものでした。いま世の中にあるほとんどのコンピの類がこちらに該当すると思われますが、オフィシャル・リリースである限り権利関係はもちろんクリアされています。2つ目は監修者が好き勝手に選曲した、クリアランス無視のコンピレーション。複数バンドが出演したライブ音源とか、ネタものばかりを集めたコンピとか、他にも『Super Breaks & Beats』や『Super Disco Brake's』、そしてここでも度々触れている、ドラム・ブレイク入りの楽曲ばかりを集めた『UBB』シリーズのようなものなど、内容的には非常に面白いのですが、当然レコード会社の垣根を越えて選曲する必要があるため、クリアランス無視でイリーガルにリリースされるケースが多かったわけです。音楽業界が不況を迎えている現在では、競合のレコード会社同士が互いに協力する形で選曲された内容のコンピレーションも見かけるようになりましたが。ちなみに『UBB』シリーズの収録曲に関しては、故LennyさんやBreakbeat Louさん曰く「全曲クリアランス済み」とのことですが、その中には元々33回転なのに意図的に45回転にして収録されたDexter Wanselの"Theme from the Planets"や、その逆のパターンで33回転にピッチダウンされたESGの"UFO"をはじめ、勝手にイントロを足したり伸ばされたりとDJユースにエディットされた楽曲も多数含まれていますので、個人的に『UBB』シリーズに対して愛があるとはいえ、そこの部分については首をかしげざるを得ません。そもそもイリーガルである可能性も高いわけですし、ここで手放しで褒め称えるわけにもいかないのですが、少なくともヒップホップの文脈においては、そうしたイリーガルなタイプのコンピレーションの功績が圧倒的に大きかった、というのも事実です。当時は「楽器を買うお金が無いから」演奏の代わりにバック・トラックのレコードを2枚使いする時代でしたが、今や「アナログの質感が欲しいから」とサンプリングの為に使う時代。ただ、わざわざ盤からサンプリングするよりも、DAWのプリセット音源を使う方がよっぽどお手軽なわけですから、現行のサンプリング・プロダクションはヒップホップの進化というよりも、もはやヒップホップにおける変態的嗜好の一パターンとして認識しておくべきでしょう。さて本盤ですが、英BBEのハード・ディガーRainer Trubyが監修した、最高にリラクシンなコンピレーションです。本盤のような自由な選曲によるコンピがリリースされ続けることを祈っています。これが最後のアナログ化の機会となる楽曲も多いでしょうから、心して買いました。
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FARANDOLE (DNA EDIT) / LIONS IN THE FOREST (FEAT. B REAL)

BOB JAMES / DJ MUGGS & PLANET ASIA - FARANDOLE (DNA EDIT) / LIONS IN THE FOREST (FEAT. B REAL)

ヒップホップ名曲と元ネタ曲をカップリング収録する人気7"シリーズ『Originals』の第38弾。

7" |  ¥1,700 |  ORIGINALS (UK)  |  2020-03-09 [再]  | 
「最もサンプリングされた白人ミュージシャン」ことBob JamesがCTI期にリリースした、Paul Simon「マルディグラにつれてって」のカヴァーで幕を開ける2nd.アルバムの収録曲"Farandole"が、今回初めて7インチ化されました。実は"Farandole"、オリジナルはGeorges Bizet(ジョルジュ・ビゼー)作曲の『アルルの女』劇伴曲なので、こちらもまたカヴァー曲ということになります。Bob Jamesといえばなんと言ってもEast Endのライヴでの2枚使いがあまりに強烈に記憶に残っているので、今やほとんど語られることのない彼らのことについて、ここに書いておこうと思います。1992年から2、3年間の時期、RhymesterとEast Endの2組は出演するほとんどのイベントで顔を合わせていました。お互いのライウをイヤというほど観ながら、日々切磋琢磨していた時代。互いにデビューもまだ決まっていないというのに、毎月コツコツと新曲を作り続けていたのは、単にレパートリー曲を増やしたいからという理由だけではなくて、お互いにマンネリではなく常にフレッシュである部分を観せ合いたいという、ライバル心にも近い思いからだったと思います。時にはその思いが溢れ過ぎて、しまいにはEast End組がリハと本番とでネタを急遽差し替えることで、我々Rhymester組を出し抜いてはしゃぎ回る始末で、この頃の我々はお客さん相手というよりも、むしろ互いのグループを唖然とさせるためだけに工夫を凝らしていたようにさえ思えます。元Def Beat Crew(漫画家/イラストレーターのUJTくんも在籍していたユニット)のROCK-Teeと、既にレコード・デビューをしていた元Home BoyzのYoggyの2DJと、Gaku(現Gaku-MC)の1MCからなる3人組East End。バックDJの2人の役割分担としては、基本的には片方がバックトラックとしての2枚使いをして、そこにもう片方がスクラッチを入れたり、サビの部分で別ネタのフレーズをレコードで被せたりする形でした。当時アメリカにはMain Sourceがいましたし、ここ日本でもKrush Posseがいたりもしましたが、とはいえ1MC+2DJというスタイルは、昔も今も比較的珍しいメンバー構成だと思います。さて、当時のバックDJ達はまだ若く常に所持金が少なかったわけですけど、そうした状況においてカッコ良いネタをいかに安く探せるか?というのが日々の最重要課題でした。そんな中で重宝された、Bob JamesやGrover Washington Jr.などのCTI~KUDU(日本ではキング盤)関連や、Joe Sampleのソロ作なども含むThe Crusaders(Blue ThumbやMCAなどビクター盤)あたりは、レコード全盛時代に日本でも大ヒットしたことに加えて、とりわけこのジャンルにはアナログ盤から速やかにCDへと移行するリスナーが多かったようで、90年代に入ると大量の中古盤が二束三文同然の値段で売られていたので、ハンターやユニオンの床のエサ箱から同じレコードを2枚ずつ抜いては、それらのフュージョンをせっせと買い集めたものです。当時はだいたいどれも100円。高くても300円ほど。ご存知のようにBob Jamesの『One』から『Four』までの4作は特にネタの宝庫で、その頃のバックDJなら誰でも予備を含めて各々4枚ずつぐらいは持っていたんじゃないかと思います。キング盤の帯が自宅の部屋の隅に落ちているようなDJも、当時は少なくなかったはず。そして、本曲が収録されたLP、通称「ボブツー」の盤面(曲の帽頭ではなく途中部分)の溝の上に、蛍光色の丸いマーキング・シールを思いっきり貼りつけて、その場でとっさに頭出しをしていたROCK-Teeの2枚使いは、正に衝撃的な格好良さでした。これぞヒップホップ。もちろんYoggyのレコードを触る指を舐めながらのスクラッチも、決して忘れることが出来ないわけですが、その時の曲はたしか「宿題(Home Work)」という曲名だったはずで、その辺の光景がセットとなって、自分の記憶の片隅に残っています。ところで、Rhymester、East End、Mellow Yellowの3チームを中心に結成された、Funky Grammar Unitという一派が今でもありますが、実は自分は一時期、それら3チーム全てのトラック作りのお手伝いをしていました。ある時、この3チームが出演するライヴ・イベントで、自分は転換を除く最初から最後の時間まで、ずっとステージ上でサンプラーからの曲出しを担当していたことがあります。たぶんお客さん的には出演メンバーではなく、ハコのスタッフのように見えてたんでしょうけども・・・。日本のCed Geeになれなかった自分にとっても、やはりFunky Grammar Unitというのは特別な存在なのです。そして願わくば、死ぬまでにもう一度だけ、昔のようにフュージョン・セットを駆使したEast Endのステージを観てみたいと思うのです。
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BRAZILIAN RHYME

YUMA HARA - BRAZILIAN RHYME

T-Groove & Hanah Springを迎えてお届けするEarth Wind & Fire名曲のディスコ・ブギー・カヴァーです!!

7" |  ¥1,980 |  KISSING FISH (JPN)  |  2020-03-16 [再]  | 
この連載の初回で、"Brazilian Rhyme (Unreleased Extend Version)"(2017)を紹介したことを覚えてくださってる方がどれくらいいるのか分かりませんが、これも何かの縁なので、最終回となる今回でもこの曲について書いておきたいと思います。私がDJ Iceと入れ替わりにRhymesterに加入したのは、1990年の5月のことでした。当時のメンバーはバックに自分とDJ Chocolateの2人と、フロントにMaster-Tee、MC Shiro、Mummy-D(年齢順)の3MCの基本5人体制で(ステージはDara Dara Dancers、Jimmy、コダマちゃん、ゴージャス・ビッチ・シスターズらが増員されカオス化します。ちなみにDJ Chocolateと入れ代わりにDJ Jinが加入したのは1993年5月だったかと)、楽曲に関しては「MC一人で一曲ぶんのリリックを全て書き上げて、後で3人で各ラップ・パートを割り振る」方式でした。MC Shiroが書いた"Beautiful"、「黄色いサル・黄色いソウル」、「つまんなくなっちゃった」や、Mummy-Dが書いた「スタイル」、「I Can't Stop」、「ラリ・ラリ」、Master-Teeのペンによる"Wisdom"、"Mr.Joker"など数多くの曲がありましたが、数曲を除いてそれらの大半については残念ながら、もはやデモ音源すら現存していません。自分が生まれて初めて"Brazilian Rhyme"をサンプリングしたのは、その中の"Wisdom"という曲の制作中のことでした。Master-Teeが持ち込んだE,W & FのLPから、コーラス部分の2小節だけをサンプリングして組み直し、なんとかループを作りました。当時はサンプラーのメモリ容量が乏しかったので、4小節でループさせるなんて贅沢はとてもじゃないけど考えられませんでしたし、もちろんモノラル・サンプリングの45回転録りという、徹底的なメモリ節約の元で何とか組んだのでした。その時はまだ機材に不慣れだったので、たかだか2小節のループを作るだけでもずいぶん苦労したのを覚えています(思えばサンプラーを買ってまだ2か月程度の頃でした)。曲がどうにか出来上がり、それを初披露するライヴの時、苦労して作った"Wisdom"が大音量で流れたことにすっかり舞い上がってしまった自分は、クラブチッタ川崎の舞台上で飛び上がって喜んだのですが、間が悪いことにちょうどそのタイミングでステージ後方から客席に向けて照明が当たる、いわゆる逆光の目つぶし状態になってしまってて、後でビデオで観てみると、一瞬だけ宙に浮いた自分の巨体のシルエットが実にコミカルなことになっており、かなり後々の方までメンバーからイジられ続けてたことも思い出します。当時"Brazilian Rhyme"は知る人ぞ知る隠れ名曲でしたが(そもそもアルバムのインタルードなので)、その後再評価と一般化が進み、仲間内の話でいうと2008年に椎名純平くんとROCK-Teeによるカヴァーが、渋谷のクラブNUTSがリリースしたコンピレーションに収録されたりもしました。そちらは曲中にBPMが変わっていくナイス・カヴァーで、今なおアナログ化希望の一曲でもあります。そして2020年。本盤はギタリストのYUMA HARAさんと、当マンスリー・チャートにも参加されているT-Grooveさんのタッグによるアレンジに、Hanah Springさんの歌声、という三者三様の組み合わせ。悪いはずがありません。前述の"Unreleased Extend Version"を下敷きにしており、こちらも負けじ劣らずの素晴らしいカヴァーでした。

Dr.Looper

Profile

1979年よりレコードを買い始め、その魅力に取り憑かれたまま今に至る。1990年から1998年までRHYMESTERに参加。現在はROCK-Tee(ex.East End)とL-R STEREOとして活動中。

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