海外の音楽シーンに敏感なインディレーベルや一部メジャーアーティストが新作をアナログレコードのフォーマットでリリースし、大型チェーン店や地方の個人レコード店にまで行き渡るようになった国内アナログ市場。2008年にアメリカで始まり、その3年後には当店をはじめとした国内のインディレコード店が追随、アナログレコード完全復活の礎となったレコードストアデイの役割もある程度全うされたと言えます。

昨今ではアナログレコードをリリースするだけでは特に際立つこともなく、イベントやライヴ活動、プロダクツやビジュアルアートワークなど全方位的なアウトプットのクオリティコントロールの意識の高まりとともに、レコードリリースもあくまでその一部に落ち着いてきました。

2018年のトレンドは、国内外いずれにおいても、ごく小規模な個人レベルでのリリースが増加していることと、その中には質の高いものが少なからずあるということ。またその地域もより広範になり、東欧や中東、南米、ロシア、アフリカ、東南アジアといった地域においてもアナログレコードをリリースするようなレーベルが目につくようになりました。それらのレーベルにはやはりそれぞれのローカルな色彩があり、新鮮な驚きを与えてくれます。

2018年のリリースの中からの当店バイヤーたちによるセレクトで、そうした動きを感じ取ってもらえることができれば幸いです。

 text by KCMT(JET SET CEO)

 

 

 

  

Masaaki Matsuura（Hip Hop / R&B Buyer）

この一年にLPで発売されたアルバムの中から10タイトルを選びました。今年も90'sの発掘リリースや、定番曲の初7インチ化などが沢山入荷しましたが、中でも特にBlack Moonの定番曲やGodfather Donのレア曲の7インチ化などが注目された印象です。一方メインストリーム系については、いわゆるマンブル・ラップやエモ・トラップの台頭と、そのアイコンだったXXXTentacionの射殺といった衝撃的なニュース、Cardi BとOffsetの離婚騒動など数々のゴシップや、Eminemが仕掛けた同時多発的なビーフなど、話題には事欠かない一年でした。しかし、音源自体よりその背景が重要だったり、結局LPでは出なかったり、LPが出てもその頃には鮮度が失われてしまっていたりと、レコードを買う側にしてみれば接し方が難しい状況にあるとも言えます。しかしそれでも、各メジャーともに数年前よりLPをタイムリーに切るようになってきたな、と感じた一年でもありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuge Tomohito（Japanese Hip Hop Buyer）

トレンドやモードの変化のサイクルが著しい近年の流れの中で、それぞれ確固たる意志と強度を強く感じた10枚。大阪のBackroomから濃密な初のソロ作をリリースした誤、瑞々しいまた新たなグルーブを手に入れたようなEvisbeats、前作のカウンターのごとくストレートに撃ち抜いて魅せた仙人掌、整然と進化した見事な続編を完成させたゆるふわギャング、ヒップホップ・サイコのネクストを行くPsycho Patch、ひと回りもふた回りも世界観の広がったStuts、犇めき合う東海を中心に全国の猛者達を見事にパックしたRcslum、改めてその磁場の強さに引き込まれたEra、まさに進化の集大成がまざまざと聞けたSoakubeats、前作から3年、新境地を切り開いたKid Fresino。アルバム以外では、名古屋市南区から現れた新星、NeiとRyo Kobayakawaの『Words For Stars』なども印象深い作品でした。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

Hideaki Tamura（House Buyer）
世界各地で伝統音楽やルーツ・ミュージックに対する再評価が加速的に進むにつれ、復刻もさることながら原曲に対する敬意を表した楽曲、リミックスやカヴァー作品などのヴァイナル・リリースが着実に増えたと感じる1年でした。個人的な趣味とも相まって本当にそそられるリリースが多かったと思います。その流れを牽引するような代表的な作品をはじめ、アフロ〜ブラジルものなどを中心に盛り上がりをみせたワールド・グルーヴからのインスピレーションを独自解釈させたオリジナリティ溢れる楽曲へとアップデートさせた作品、歴史的古典を再演した傑作カヴァーなどに加え、低速グルーヴの魅力を凝縮させた作品などを選びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

Takashi Kuwabara (House Buyer)

根強い人気のバレアリック〜辺境/トライバルの影響力は未だとどまるところを知らず。Growing BinからのWolf Muller & Niklas Wandtによるアルバム、Secret Circuitの新たなプロジェクトE Ruscha Vの登場はそれを象徴していたと思います。一方で、90's再評価の流れはトランスにまで波及。ニューエイジ、ベース系でも見逃せない作品がリリースされました。Maurice Fulton a.k.a. Syclopsの久々のアルバムは、聴く度に発見がある中毒性あるスルメ作品。そしてなによりも、Mr. Fingersの25年振りとなるアルバム。クラシック・ハウス再評価の流れを塗り替えるかのような新しい音楽性に心が震えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

Keiko Hoshikawa (Techno / Leftfield Buyer)

【Techno】様々なジャンルでルーツ回帰が起こる中、テクノもエレクトロやニューウェーヴ、多幸感を求めたトランス、レイヴスタイルをリスペクトしアップデートしたサウンドにユニークなものがありました。また、ヴェテラン勢の中にもJeff Millsがインプロ・プレイヤーとして体制を組んだ本格的なエレクトロニック・ジャズバンド・スタイルでの活動を本格化するなど更なる高みを目指す動きがあったのも嬉しいニュースでした。個人的にはクリアなサウンドより、アナログ機材や生楽器群がフィーチャーされた作品に魅力を感じた年でした。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

【Leftfield】アンビエント、エクスペリメンタル、ドローン、エレクトロニック、ベース、そしてミニマルと一言では括ることの出来ないハイブリッドでユニークなものが多い年一年でした。特に、On The Cornerや12th Isle (2017年度発のRamziとCru Serversによる作品も素晴らしかったです)辺りの辺境系ハイブリッド・サウンドがずば抜けたセンスを放ち、印象に残っています。来年も引き続きこれらのレーベルの動向が気になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

Rei Taguchi (Techno / Bass-Beats Buyer)

【Techno】メディアやフェスティバルのおかげで様々な場所やスタイルの音楽にアクセスし易くなりました。コペンハーゲンのトランシーな高速テクノ(Courtesy、Mama Snake)、ニューヨークのパンキッシュなテクノ(Umfang、Volvox)、フランクフルトのミニマルなエレクトロ(Bodin & Jacob、Phil Evans)、デュッセルドルフのオルタナティブなサイケデリック・グルーヴ(Lena Willikens、Tolouse Low Trax)などなど、どれも刺激的で魅力的なサウンド、新しい発見の連続の1年でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

【Bass-Beats】今年はWhitiesが優勝です。ReckonwrongやGiant Swan、Nathan Micayらの作品がリリースされ、そのクオリティと斬新さがエレクトロニック・ミュージック・シーン全体を騒がせていました。国内に焦点を当てると、Hessle AudioやTimedanceなどのレーベルの人気が定着し、所謂テックベースとは別の流れでハウス〜テクノのDJがベース・ミュージックをプレイ、それが自然な状態になってきていると感じました。また、EquiknoxxやEditions Gravatsのような新たなスタイルのダンスホール〜レゲエも盛り上がり、セールスにも影響が表れていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

Tetsu Kozai（Indie Rock / Alternative / Indie Dance / Nu-Jazz Staff）

【Indie Dance】レーベルのアーティストらが多数参加したXL総帥、Richard Russellによるコラボ・プロジェクトEverything is Recordedを筆頭にインディ・ダンス・ジャンルにおけるXL勢のリリースが活発でした。そして、このジャンルで久しぶりのアンセムとなったDisclosureの勢いも印象的。また、オーストラリアから登場したAvalanches感覚の女性アーティストAlice Ivyのデビュー・アルバム、日本人が参加したLomboyやDaniel T.の作品もヒットしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

【Alternative】Yo La TengoやSea And Cakeといったお馴染みのオルタナ・バンドの新作はもちろんですが、今年は多くの(特に女性の)シンガー・ソングライターの作品が目立ちました。またアンビエンスな作品にも素晴らしいものが多く、アンビエントも取り込んだ洗練されたノイズやミニマルなスロウコアのアルバムにも惹きつけられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Gikyo Nakamura（Production Manager / Indie Dance / Indie Rock Staff）

素直な気持ちで選んでみたらBlood OrangeもConnan Mockasinも入ってない! という我ながら驚きの気分。Clairo(限定盤で手に入らなかった方も多いと思います・・・スミマセン)やBoy Pablo、Rex Orange Countyなどニュージェネレーションの台頭≒ベッドルームポップ・ムーヴメントの盛り上がりで、D.I.Y.＆ブライトなポップ・ミュージックの良作に心躍る毎日でした。このベッドルームポップって昔なら宅録インディってことだよね、『米国音楽』的な。と思っていたら、正にかつてその枠であったOptiganally Yoursのカムバックに泣き笑い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kentaro Iwata（60's ~ 90's Rock Staff）

2018年は、1968年に発表されたロック名盤の50周年記念盤が多数リリースされました。Beatlesのホワイト・アルバムのような超定番からFrank Zappaまで、サブスクリプション・サービスが普及し、手元にモノがなくても音楽を楽しむことができる時代にリリースされた、物欲を満たす素晴らしいデラックス・エディションの数々。とりわけBandの『Music From Big Pink』は、オリジナル・ミックスと新たなミックスを聴き比べて、当時の制作状況を想像したりするなど、オリジナルの良さを再認識するきっかけとなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

Makoto Ono（Nu-Jazz / Indie Dance / Indie Rock Buyer）

今年最大のトピックは、ロンドンを中心とした英国ジャズ新世代の目まぐるしい活躍。多数の話題作が発表されましたが、中でもBrownswoodからのコンピレーション『We Out Here』はその象徴と言うべき作品でした。Yazmin Lacey、Amber MarkなどUKネオ・ソウルの新たな才能の台頭も著しく、その流れにありつつインディ・シーンともリンクして異彩を放つPuma Blueは、2019年も絶対に見逃せない存在。また、改めて存在感を見せつけたRhyeの2作目、BrainfeederからのGeorgia Anne Muldrowの鮮やかな復活作、Mockyの野心的なジャズ作品など、米国西海岸からも多彩で充実した作品が続きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

KCMT (Jazz / Soul Buyer)

【Jazz Reissue】昨年のバレアリック流れの瞑想系ニューエイジやアンビエントから、今年のトレンドはボトムが太いエレクトリックジャズ~クロスオーヴァーへの遷移が見られました。同時代を横軸で見ていくと、USではマイルス一派からの派生アーティスト群。ブラジルではアジムス一派。ヨーロッパではプログレッシヴロックからジャズロックへの参入が短い期間で同時多発的に起こり、ファンクやロックへのジャズからの回答という色彩も帯びつつ、その肉体性への回帰からダンスフロアでもプレイされていた作品群は未だその輝きは色褪せることがありません。レーベルではUKの"Pure Pleasure"、"Farout"、USの"Now Again"、"Tidal Wave"などから長らく廃盤状態であった名盤の数々が再発されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Soul Reissue】ここ数年来の特筆すべきトピックはモダン・ソウル~モダン・ブギーの再評価と矢継ぎ早に発掘リイシューされる作品群の充実度でしょう。リアルタイムでは似て異なるものも含め濫造された嫌いもあり商業主義的と軽んじられていたものが、時代が何回転もしてその本質的な価値に気がつく流れは、90年代に起きた60年代オルガン・ジャズや70年代UKフュージョンなどの再評価にも似て、ニッチなものを偏愛するディガーたちに熱く支持されています。中でもUKの"Be With"、"Cordial"、"Emotinal Rescue"、"Melodies"などの選球眼とセンスの良さには脱帽でした。同時に、これらのサウンドをお手本とした当時の日本のシティポップスの再評価が起きていることも自然な流れと言えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 Shunsuke Narimo（Reggae / Soul Buyer）

【Soul Contemporary】Brainfeederレーベルの中でもファンクネスな作品となった、LAキーボード奏者Brandon Colemanの『Resistance』、Zappの新作『VII : Roger & Friends』の2作品が印象的でした。再発も手がけるUKの新レーベルSix Nineのタイトルをはじめ、ソウルフルなヴォーカル入りのモダン・ファンク/ブギーも例年通り人気でした。ここ数年安定してリリースを続けているUSのColemine、Funk NightやフィンランドのTimmionからのヴィンテージ・ソウル〜現行レアグルーヴ作品にも注目でした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

【Reggae】今年良作の目立ったダブ作品では、Mad Professorの新作や、Jah Gumbyの独創的な宅録ダブなどが印象的でした。またBunny Wailer『Dubd'sco Vol. 1』をはじめ、名盤再発も例年に引き続き充実。ダブ以外では、Dennis BrownとKing Jammyによる楽曲を、現行のアーティスト/シンガーたちが再解釈したVPからのコンピレーション『King Jammy Presents : Dennis Brown Tracks of Life』も素晴らしい内容でした。また、フランスのリイシュー・レーベルJamwaxも好調で、カリプソ、ラヴァーズ/レゲエ・ディスコ系のレアタイトルの再発が人気でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

Akio Kosakai（Japanese Buyer）

JET SET Products部門では、2018年も多くの作品を制作・流通させていただきました。青野美沙稀や和田アキ子などの新譜音源からDJユースな楽曲をアナログ化する7インチ・シングル・カット企画、鉄腕ミラクルベイビーズやジョージ山下とドライ・ボーンズなどのレア盤リイシュー企画、フードゥー・フシミなどのジャパニーズ・クラシック音源の初7インチ化企画、SatoaやLuby Sparksなどの現行バンド作品のアナログ化企画など、その取り扱いタイトル数は過去最高を記録しました。2019年リリース予定作品も既に多数準備中です。来年もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Shuto Kabeya（Japanese Staff）

快作、傑作、様々ありますが、時代性を感じたものと一切感じなかったもの、その両極端に強く心惹かれました。うまい具合にやるのではなくやらなければいけないと受け取れたものを選んでいます。整理されてるものよりゴツゴツとした質感が自分の2018年にフィットしていた気がします。そして、昨年に引き続いてソロで活動されている方たちが目立って登場してきたのも印象に残っています。メジャー・レーベルからのアナログ・リリースが改めて定着して増えているのもよかったです。