遅ればせながら日本でもサブスクリプション・サービスがマーケットのメイン・フォーマットになりつつある2019年。マクロ視点では、アナログレコードのマーケットは微々たるものではありますが、むしろ落ち着くべきところに落ち着いて一時のブーム的な取り上げられ方をされなくなってきたことで、流行り物として乗っかるだけのプレーヤーは徐々に淘汰され、音源の一フォーマットとして冷静に評価されるようになったようです。また、音源流通のフォーマットの両極ということで「データ」+「アナログレコード」というリリースが増えてきたことも、それぞれの立ち位置や棲み分けがはっきりしてきた証左のように思います。

こうした状況の中で、アナログレコードの質・量ともに2019年は非常に豊作でした。先日アップした「アーティスト・DJによる2019ベストディスク」はアナログレコードに絞ったものではなかったのですが、近年最高とも言える反響がありました。

ここでは当店スタッフによる2019年を彩ったアイテムをジャンルごとに10タイトルに絞ってご紹介いたします。この特集で、いかに2019年が豊作であったかを感じていただければ幸いです。

 text by KCMT(JET SET CEO)

 

 

 

  

 

Masaaki Matsuura（Hip Hop / R&B Buyer）

2019年にリリースされたアナログ7インチ・シングルの中から10タイトルを選びました。ここ数年の傾向として、アナログ・リリースの中でも特にセールス的な動きの大きいものの大半が、7インチ・シングルであると断言出来ます。その理由としてはいくつかが挙げられますが、DJのプロモ—ショナル・ツールとしての役目を終えたこともあり、今やすっかりカットされなくなってしまった12インチ・シングルや、円安や材料費、航空運賃の高騰、プレス数量の希少化の兼ね合いで売価が跳ね上がってしまっているLPあたりと比べると、比較的メーカーやレーベル側が作り易く、かつ買う側も手に取り易いという意味で、7インチ・シングルというメディアに安定して人気が集まるようになるというのは、もはや必然的な流れなのかもしれません。そうした状況の中で、今年2019年に特に売れたシングルを選んでみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tomohito Yuge（Japanese Hip Hop Buyer）

アルバムとしては久しぶりだったものも多く、それぞれの成熟の仕方やアプローチの違いを大いに楽しませて頂きました。その中からCD、LPでリリースされたアルバム10枚です。2018年の時点で一部で話題になっていたKaravi Roushiの1st.アルバム、ミックスCDやビート・アルバムを聞きつつ待っていた田我流7年ぶりソロ3作目、Febb As Young MasonとGradis Niceによる共作第2弾、サウンドとブルージーな語り口調の溶け具合に魅了されたJ.Columbus初のオフィシャル作品、2ステップを取り入れたりとカラフルさが際立っていたDaichi Yamamotoのデビュー作、サウスへの敬愛と自らのフラストレーションをさらに昇華させたDemon Seto改めD-Setoの3rd.アルバム、今年の大きなトピックの一つ舐達磨の2nd.アルバム、2枚のEPを経て届けられたJumanji待望のアルバム、バンド形態を取り入れた作品の中でも圧巻だったISSUGIの4作目、DJ Soomaと作り上げた茂千代の3rd.アルバムも印象深く残っています。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

Takashi Kuwabara (House Buyer)

全体的にイタロ再評価が色濃い一年だったと思います。プロトハウスを含む90'sリヴァイバルから、ニューディスコへとリリースのトレンドがシフト。それと呼応するようにイタロディスコ/エレクトロ/ニュービートの再評価が目立った印象でした。"Permanent Vacation Classic"シリーズや、Red Axes"Sun My Sweet Sun"、Dimitri from Paris & DJ Rocca"Works"等のリプレスや、非常に多くのレーベルから引っ切り無しにイタロ/ニュービートのリエディットがリリースされていたことがそれを象徴していたと思います。一方で、Project Pabloや、Luca Lozano&Tornado Wallaceの新ユニットPsy Def Xの挑戦的なリリース、Yu Suや、Axel Bomanによる、ダウンテンポの音楽性をアップデートするようなリリースも非常に良かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

Hibiki Nakamura（House Buyer）

今年は有無を言わせず一気にテンションを上げてくれる多幸感満載の祝祭エディットが良作続き。個人的に、イタロ〜シンセ・ポップものやトライバル/オリエンタルな薫りのするものには目が無いので、中でもインパクト抜群のユニークなエディット作品を中心に挙げさせていただきました。Dan Shake"Berts Groove"、Caribou aka Daphni"Sizzling EP"はリリースを心待ちにしていた作品。年の瀬になって到着したPhillipiによるシングルは問答無用で最高だったので上位ランクインです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

Keiko Hoshikawa (Techno / Leftfield Buyer)

【Techno】躍動感のあるボトムス・ワークが秀逸なミニマル・ハウス・サウンドの人気は安定したものがあり成熟期を迎えました。90's名曲をエッセンスとして投下したコペンハーゲン発トランシー/高速テクノの台頭で新しいムーブメントがシーンを活性化、Schackeは今年のトレンド、「ファスト・テクノ」を象徴する作品であるのは間違いないと思います。個人的には年々ガシガシ踊る作品、というよりリスニングとしても愉しめる作品や多幸感のあるものに耳を傾けていますが、Giegling一派はやはり期待を裏切らないサウンド・デザインが2019年も素晴らしく、モダン・ミニマル作品ではファンクネスでグルーヴがあるものに惹かれました。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

【Leftfield】2019年は女性アーティストの躍進が素晴らしいものがありました。美麗なオルガン・ドローン大作をクリエイトしたKali Maloneや、アジア系女性アーティストAna Roxanne等、新世代の活躍が目覚ましく今後のリリースに期待が高まります。ニュー・エイジ系レア作品の復刻は、よりアンダーグランドなものへと移行し、興味深い初蔵出し音源に出会うことが出来ました。個人的にはポリリズミックな作品に惹かれた一年でした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

Koji Sawamura (Techno / Bass-Beats Buyer)

【Techno】リバイバル、リイシューを含め、新旧ともに時代が混ざり合ったリリースが豊富な一年だったと感じます。昨年Klasse Wrecksよりリリースし2019年も活発な動きを見せたDawl、I-fの相方でありオランダ・テクノ界重鎮Intergalactic Garyのほぼ初となるソロEP、2000年代テクノを賑わせたLoco Diceのカムバックを現行アーティストDJ TennisやBambounouがリミックスしたEP、90年代初期のレイビーなブレイクビート・テクノDragonflyのリイシュー、より洗練されたエクスペリメンタルの先を行くExael、攻めた姿勢を持ちつつクォリティを厳しく一定に保ち続けるPerlonからFumiya TanakaとThomas Melchiorのユニットによる初のリリースなど、良作が目白押しでした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

【Bass-Beats】2019年はトランスやダブ、ダンスホールのリバイバルに始まり、ジャングル〜ハードコアやハッピー・ハードコアまでのリバイバルなど、1980年代から2000年初頭までをいっきになぞる年になったように感じます。またDJ Nigga Foxやウガンダのレーベル"Nyege Nyege Tapes"などのプリミティヴなミュータント系や、ところどころのリリースで見られた漂うディストピア感などがシーンへの大きな変化をもたらすことになるのではないかと感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

Tetsu Kozai（Indie Rock / Alternative / Indie Dance / Nu-Jazz Staff）

【Indie Dance】当ジャンル最大のヒットとなったErika de CasierやFKA twigsなどインディR&B〜オルタナR&Bシーンには根強いトレンドを感じました。チルアウト〜バレアリックな作品が多かったインディ・ディスコ/インディ・シンセ・ポップでは、LexxやManatee Communeなどのアルバムが人気でした。また、インディ・ニュー・ディスコを代表するHoly Ghost!が名門ディスコ・レーベルWest Endとサインしアルバムをリリースしたのにも大きな注目が集まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

【Alternative】昨年に続き今年もS.S.W.〜フォーク〜アンビエントの作品が豊作でした。中でもG.S. Schrayのアルバムは今年最もヒットした作品のひとつとなりました。また、WilcoやKim Gordonらオルタナ界の重鎮、シーンの常連となったAmerican Footballなどもアルバムを発表、今年レーベル設立40周年を迎えた「4AD」からのリリースも活発でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

Gikyo Nakamura（Production Manager / Indie Dance / Indie Rock Staff）

【Rock / Indie】US/UKから、それぞれアルバム作品を5枚ずつセレクション。ClairoやRex Orange Countyを筆頭に、ベッドルームポップと括られていたZ世代のシンガーソングライターたちが、その殻を破りオルタナティブ・ポップ・ミュージックの旗手へと飛躍していく様子が、感慨深くもあり、少しだけ寂しくもあった1年でした。USはCucoやOmar Apollo、Los Retrosなどチカーノ系アーティストが注目を集めたのが世相だなと。UKはブリットポップの伝統を感じさせてくれるRhythm Methodのアルバムが嬉しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【Japanese Pop】JET SET Products部門では、2019年も多くの作品を制作・流通させていただきました。インディ系ではOkada Takuroやミツメの川辺素くんのソロ・アルバム、セカンドロイヤルと共同企画したコンピ『犬吋ワンP』、日本語ラップでは、ゆるふわギャング & Ryan Hemsworthや田我流のアルバムがとくに印象に残っています。Buffalo Daughterのジャパニーズ・オルタナティブ名作『Pshychic』『Euphorica』の初アナログ化や、フラワー・メグのピンナップ付復刻、セキトオ・シゲオのカルト作の7インチ・カットなど、リイシュー系も充実した1年でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kentaro Iwata（60's ~ 90's Rock Staff）

今年リリースされたボリューム満点の50周年/40周年記念盤の中から10タイトルを選びました。Beatlesの『Abbey Road』のような超定番からJudy Collins『Wildflowers』といった意外な1枚まで、多数の名盤が再発されました。その中でも特に「ハーフスピード・マスタリング」を施した音源を使用したPop Groupの『Y』や超豪華仕様の『Woodstock』の50周年記念盤などが印象的でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

Makoto Ono（Nu-Jazz / Indie Dance / Indie Rock Buyer）

今年も充実したリリースが続いた一年でした。Robert Glassperらを迎え米西海岸ジャズ・シーンとポップ・フィールドの素晴らしい出会いとなったBrittany Howardのソロ作。円熟とは異なる方向でキャリアに磨きをかけたDegoやQuanticらベテラン勢による久々のアルバム。ロンドンのジャズとエレクトロニック、グライムの融合を鮮やかにアップデートしたSwindle。昨年の『We Out Here』に続き、今度はオーストラリアの若い世代をパッケージしたBroownswoodからのコンピレーション『Sunny Side Up』など、枚挙に暇がありません。2020年にはどんな作品と出会えるのか、今から心待ちにしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

KCMT (Jazz / Soul Buyer)

【Jazz Reissue】2010年代後半のジャズ系再発はバレアリック的な観点からの再評価を縦軸としつつ、その周辺、バリエイションからの発掘がトレンドとして続いています。80年代前半にはデイヴィッド・バーンやビル・ラズウェル、ピーター・ガブリエルといったニューウェイヴ周辺のアーティストたちが新機軸を求めて第3世界にアイディアの源泉を得ましたが、欧米のアーティストやレーベルにはフックアップされることなく埋もれてしまったエスニックな電子音楽の再発が豊作だったのが、2019年の特徴でした。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Soul Reissue】 80年前後のハワイ産クロスオーヴァー・サウンドの傑作が次々に再発され、当時日本や米国本土でリリースがなかったアイテムのオリジナルは入手困難なだけに貴重な音源が目白押しでした。同時代の米国西海岸サウンドとも共鳴して世界中のポップミュージックに大きな影響を与えただけに、そのクオリティも高く、今聴いても新鮮な感動を得たアイテムも少なくありませんでした。それらを陽とすると、隠とも捉えられるベッドルーム・ファンクとでも言うべきトレンドも同時代にありましたが、その頂点に立つPrinceの初アナログ化や未発表音源のリリースが相次ぐと同時に、当時全く日の目を見ることのなかったアンダーグランドなエレクトリック・サイケ・ソウルの音源も数多く再発され、それらの中にも光るものがありました。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hideaki Tamura（Soul / Jazz / Hip Hop Buyer）

【Soul Contemporary】今年リリースされた現行ソウルものの中から、個人的に気になったものから10タイトル抜粋しました。人気定番ネタ"Summer Madness"やSweet Power, Your Embrace"、"Brazilian Rhyme"等のカヴァー作の人気はやはり圧倒的でした。さらに、Chaka Khanによる衝撃のシーン回帰作や、次世代モダン・ソウル新旗手として目覚ましい活躍を遂げたBobby Orozo、未知数の可能性を感じさせる英国の新世代ソウル・シンガーBryony Jarman-Pintoなどの新旧実力派の活躍、アフロ〜ラテン影響下のCamarao OrkestraやGabriel Posoによる作品なども素晴らしいものでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

Mai Sugisawa（Jazz / Soul / Reggae Staff）

【Reggae】例年にも増してカヴァーものの復刻が豊作で、Miss YouやSoundwayなどのレーベルはその点で好リリースに突出していた印象です。また、Lee Perryの迷作や商業路線に振り切った'70年代Trojan作品など、珍盤のリイシューも充実していました。現行アーティストの作品では、近年他の追随を許さないDJ Sotofett周辺、Running BuckからはFeater、強烈なラガ・ベース〜デジタル・ダンスホールものなど、ダンスミュージック・シーンと密接に繋がりのある諸作がユニークでした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

Akio Kosakai（Japanese Buyer）

今年のアナログ盤作品では、昨年スタートしたRyuhei the Man主宰のAt Home Soundレーベルと、1998年にスタートした大阪の名門レーベル、Emのリリースがタイトル数&内容ともに印象的でした。海外では日本の80'sアンビエント〜ニューエイジの再発が昨年に続き盛んでしたが、国内では80'sシティポップの復刻とあわせて90'sジャパニーズ・ポップの初アナログ化作品が目立ちました。新譜では、アナログ盤と同じくカセットテープのリリースもさらに増えてきました。Ind_fris、小川さくら、ゆNovationはじめ、今年もたくさんの新しい才能に出会うことができ心躍った一年でした。Wool & the Pantsと玉名ラーメンの2組はまだアルバムのリリースがありませんが、今後の活動に注目です。