地上波からネットメディアまで、ニュースで「アナログレコードが今すごく人気です！」的な取り上げ方をする際には客観性が担保されているであろう日本レコード協会が出している数字を参照されることがほとんどで、その数字を見ると2021年は2010年の23倍となっています。

当然のことながら「まじで！？」と驚かれる音楽業界外の取引先もおられ、「どんだけ景気が良いんですか？」と言う美しき誤解をしてくださる方もいらっしゃるわけですが、ネタバレするとこの数字はリスナーが購入した額の比較ではなくて、レコードの生産ベースの合計なのです。

では、ユーザーの購入額はどれだけ伸びているのかといえば、とてもとてもそのような驚きの数字ではなく、せいぜい2倍に届くかどうかと言うところではないでしょうか。それもいわゆる昔ながらのレコード専門店の売上がそのように伸びたわけではなく、大型CDチェーン店とアマゾンでのメジャーメーカーによるアナログレコードの商品の取り扱いの拡大がその主たる要因で、加えてここ数年はメジャーメーカーによるwebでの直販などでビッグセールは生まれていて、それらはレコード専門店はおろか大型CD店の店頭にすら並びません。

そんな状況なので、あまり事情を知らない方から「レコードって売れてるんですってね！」と言われましても専門店の方々は一様に渋い顔をされるわけですが、ユーザーの方にとってはそういった込み入った事情はどうでもよろしくて、特に熱心なアーティストのファンにとっては嬉しいことの方が多いでしょう。当店のような独立資本かつアナログレコードに特化したような店では、古今東西ニッチな音源をどれだけ深掘りできるか、さらに発展して未アナログ化や廃盤の音源をいかにアナログレコードにしていくか、と言うところに力点を置くことでアーティストやユーザーの方々に少しでも喜んでいただくことにフォーカスしていった2022年でした。

 

 

 text by KCMT(JET SET CEO)

  

Masaaki Matsuura（Hip Hop / R&B Buyer）

戦争による材料費や航空燃料の値上がりと、日銀の異次元緩和の代償として急速に進んだ円安が、そのまま輸入盤の販売価格に跳ねかえる形でレコ好きの財布を直撃したこの一年。いい新譜がどんどん出ていても、それら全てを買えるわけもなく、財布と相談しつつ実際に買うものを厳選せざるを得ない、そんな一年だったのではないでしょうか。そうしたレコード買いの懐事情も関係しているのか、比較的安く買うことのできる7"シングルの方が特によく動いていた印象です。ということで、今回は7"シングルの今年一年の売れ筋を10タイトル選んでみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tomohito Yuge（Japanese Hip Hop Buyer）

今年は昨年に比べてカムバック作を含めベテラン勢のリリースも多く、Peterparker69やWatson等、また新たな才能の躍進と合わせてこのジャンルの勢いを改めて感じました。世代問わず表現の仕方も自由で、ハウスやテクノなどのダンスミュージックやEarl Sweatshirt以降の現行US勢と並走するジャズ、メンフィス・ラップやフォンク、またはアンビエントやニューエイジ、ワールドミュージックなどを取り入れる一方、力強く説得力のあるストリクトリーな王道のスタイルも一際光り、全体としてグラデショーンを帯びながら更新されていく様に勇気付けられる一年でした。その中で印象に残ったアルバム作品をフィジカル・リリースされたもので10枚選びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Takashi Kuwabara (House Buyer)

2022年は様々な影響でレコードの値段が変動してきましたが、それに見合うだけの濃いリリース、特にベテラン勢の活躍が目立つ印象でした。Mr. Fingersの新作はじめ、Idjut Boys主宰レーベルの再開、国内では「Rainbow Disco Club」が仕掛ける見逃せないコラボリリースや、Monkey Timersのアルバム、Theo ParrishのDJ-Kicks、3年半ぶりとなるCalm。また、これまでも絶大な人気を誇ったRiccioのプロジェクトJazz N Palmsや、Crackazat、Janeretの初フィジカル・アルバム、感動にも似た衝撃をうけたLocal DJのデビュー作等、豊作の年だったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Keisuke Inada (House / Leftfield Buyer)

【House】新型コロナによる行動規制も緩やかに緩和され、ダンス・ミュージック・シーンも再び元の活気を取り戻すようになった2022年。昨年のアンビエント・リバイバルから続くベッドルームでの内省的モードはそのままダンス・フロアのエネルギーへと結びつき、Nina Kravizによる豪華リミックスを始め、Daphniによる5年ぶりのアルバム、UK新世代Ronanの登場、Axel Boman、Centralといった、上質なディープ・トラックスが数多く生み出されました。中でもやヨーロッパ新潮流であるネオ・トランスの影響は強く、UK"X-KALAY"の躍進や新鋭レイヴトリオInner Zone新作など、ドリーミーな90'年代への回帰も感じる、そんな一年となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Leftfield】パンデミック以降、パーソナルな内的モードが広く浸透したレフトフィールド・シーンでは、ベテランから新世代を問わずして多くのアンビエント傑作が生まれた印象でした。ヴェネチアの大御所Gigi Masinによる傑作アルバムやBurialによる20'年代初の長尺作品に加え、韓国の新世代アンビエント・デュオSalamandaによる3rdアルバム、ドイツの鬼才Special Guest DJ率いる"3XL"からは新感覚なアンビエント・ポップの数々が放たれました。老舗"Tresor"やマンチェスターの"The White House"などのクラブ・シーンからも名盤と呼べる作品がリリースされ、豊作の年だったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Chiharu Awazu (Techno / Bass-Beats Buyer)

【Techno】2022年でもデトロイト・テクノ総本山Underground Resistanceの人気は根強く、Mano De Fuegoの新作12インチやSuburban Knight等のリイシュー、Gerald Mitchellの復活作が強く印象に残っています。Susumu Yokota(Stevia)やTakayuki Shiraishiなどの国内ベテラン勢の初アナログ化作品も人気を博しました。またKalahari Oyster CultやLimousine Dreamといったエレクトロ～ブレイクビーツを取り入れたテック・ハウスや、Sk_eleven、Reclaim Your Cityなどのヒプノティック・ハード・ミニマルな音色のリリースも多く、シーンの盛り上がりが見えた1年でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Bass / Beats】コロナや戦争、円安など厳しい情勢が続く激動の1年でしたが、各国のプロデューサーがそれらを自身の音楽表現に昇華し、素晴らしい作品で溢れた1年だったと感じます。Stones TaroやDayzeroといった国内アーティストの海外進出や、Nyege Nyege Tapes、Hakuna Kulalaなどのアフリカ、ウガンダのダンス・ミュージック・シーンの台頭が印象的。また2tuf 4uからの未発表音源リリースやVinyl Fanatiks、KemetからのリイシューなどUKガラージ～ジャングルのリバイバルもより一層進み、それに負けじと新世代の新興レーベルの発足も多数ありました。またFloating PointsやKHといったベテラン勢の新作LPやフロアユースな12インチのリリースも数多く取り扱いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tetsu Kozai（Indie Rock / Alternative / Indie Dance / Nu-Jazz / Leftfield Staff）

【Rock / Indie】今年リリースされたデヴュー作/ファースト・アルバムからの10アイテム。Kenny Beatsによって才能を発掘されたdvr、今年、最も話題となったガールズ・デュオWet Legなどがデヴュー作をリリース。そして、UK新世代S.S.W.筆頭Alfie Templemanが待望のファースト・フル・アルバムを発表。シンガーソングライターでは、Mitch Davis、Skullcrusherの作品も素晴らしかったです。さらに、Jockstrap、caroline、LAUNDERなどの注目バンドも次々とデヴュー・アルバムをリリース。今後の活動に注目するとともに、来年に登場する新しい才能にも期待が膨らみます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Alternative】Aldous Harding、Kevin Morby、Angel Olsen、Alex G、Sharon Van Ettenなど、円熟味を増した人気シンガーソングライターらが続々と新作アルバムを発表。また、Cate Le BonやJenny Hval等のアヴァン・ポップ・シーンにも好作品が目立ちました。さらに、フィラデルフィアの4人組バンド、Sadurnによるデヴュー・アルバムやUSインディ至宝バンドBig Thiefのニュー・アルバムなどのヒット作もあり、今年も充実のリリースが続いたオルタナティヴ・ジャンルでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Indie Dance】今年、インディ・ダンス・ジャンルで最も売れたBreakbot待望の新曲を始め、フューチャーファンク・シーンの人気プロデューサーYung Baeの新作、根強い人気のRoche Musiqueからリリースした新生R&BデュオLaBlue & Astronne、そして、昨年最も注目を集めたVegyn主宰のPLZ Make It Ruinsや名門Domino傘下の新レーベルSmugglers Wayの作品が好セールスを記録。また、重鎮Soulwaxがリミックスや主宰レーベルDeeweeでのプロデュース等で絶好調。さらに、Calvin Harrisなどのメジャー・アーティストの作品も豊作だった印象です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Makoto Ono（Nu-Jazz / Indie Dance / Indie Rock / Alternative Buyer）

圧倒的なセールスを記録したAmber Markの初アルバム、レゲエの枠に留まらない幅広い支持を獲得したKoffee、ポストD’Angeloを更新するSilas Shortなど、ネオ・ソウル～R&Bの良作が目白押しの一年でした。また、Sam GendelやZenmennなど、ジャズの領域からニューエイジ、アンビエントなどレフトフィールドなエレクトロニック・ミュージックに呼応する作品も人気を博しました。Nala SinephroのWarpからのアルバム、GondwanaからのForgivenessのデビュー作は、そういったサウンドとUKジャズのミュージシャンシップの結節点と言える重要な作品でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KCMT (Jazz / Soul Buyer)

【Jazz : Reissue】物騒な世相の時には、ストレート・アヘッドな響きに癒しを求める傾向が見受けられるのは古今東西変わりがないようで、サウンド的には70年代の王道フュージョンでありながらも未発表音源などの掘り出し物などに見るべきものが数多くあり、中でもUSのTidal Waves MusicやフランスのWe Want Sounds、UKのJazz Room、イタリアのHoly Basilからは「わかってる」リリースが連発されました。また、UKのBe Withによるライブラリーものや、イタリアのFour Flies、スイスのWRWTFWWのサントラ再発など、シンプルな構成ながら高品質なインストものの充実ぶりも特筆されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

【Soul : Reissue】我が日本が世界に誇るハードディガー・レーベル、P-vineからの一連のTSGレーベルの復刻、ご存知リイシューの鬼、USのNumero、UKのAthens Of The Northなどから同時多発的に再発された、インディ系甘茶ソウル~DIYローカルソウルのともすればその不安定さが醸し出す手作り感が身に染みた1年でした。オリジナルは一切目にしたことがないアイテムも多く、そのほとんどが初めて耳にする音源でありレアを通り越して未発表音源のマスターテープ起こしも少なからずリリースされ、その熱意には本当に頭が下がります。一方でサウンド的にはその逆とも言えるベクトルながら、UK~ユーロのクロスオーヴァー・ソウル、ヨット・ソウルの中でも当時インディレーベルから出ていたようなものは、やはりどこか手作りの温もり感があり、一種クセになる魅力があります。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kentaro Iwata（Soul / Jazz / Reggae / 60's ~ 90's Rock Staff）

【Soul : Contemporary】安定したリリースを続けるUSレーベルBig Crown、Daptone、Colemineとその傘下のKarma Chiefからリリースされた作品の中から、印象的だったアルバムを10枚選びました。今年も充実した一年でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Rock 60's~90's】今年リリースされたアルバムの中から「ライヴ・アルバム」と「未発表音源集」をテーマに10枚選びました。新たに発掘されたKaren Daltonの初期の音源、日本のみでリリースされたValerie Carterの未発表音源、Sandy Dennyのホーム・レコーディング音源など、素晴らしい作品が目白押しでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Masatoshi Inoue（Soul / Jazz / Reggae Staff）

【Reggae】2022年度は、昨年度に引き続きラバーズロック、ダブが勢い衰えることなくレゲエ音楽界を引っ張る存在となりました。ダブという存在はきわめて重要な手法のひとつで、重低音を響かせつつ、ディレイ、リバーブなどのエフェクトを利用し、音の粒を加工することによって生じる、ある意味ミクロなマジックです。またラバーズロックは、ソウル/ダンスのメロディやビート、ノリと融合させるヴィジョン/方向性を持ち合わせているため、サウンド全体にある種のマクロレベルの超常現象を引き起こします。もはやこれらの現象は、レゲエの枠を飛び出す勢いで、1つのジャンルとして既に確固たる地位を築いていると言えるかもしれません。下記に挙げたリストはそんなことを思わせてくれる極上の作品たちです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Akio Kosakai（Japanese Pop Buyer）

近年、音楽配信サービスの主流は、ダウンロード型からストリーミング型へと移ってきました。当店で取り扱いしているレコードやCDについてもその多くは定額制のストリーミング配信、いわゆるサブスク音楽配信サービスで聴くことが可能です。しかし、中にはサブスクでは聴くことができない作品も存在するため、今年は初めての試みとして、サブスク配信の無い作品から2022年を振り返りました。注目の新人シンガー・ソングライターや'90年代名作のリイシュー、ハードコア・パンク、エレクトロニック、レゲエまで、当店のオススメ盤がそろっています。ぜひチェックしてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Mai Sugisawa（Production Manager）

JET SET Products部門では、2022年も多くの作品を制作・流通させていただきました。7インチに関しては今年もカバーものが人気を集め、特に力を入れた洋楽の国内盤妄想ジャケット・シリーズは今後のリリースにも注目いただけたら嬉しいです。11月のRSD Black FridayにはGagleほかFile Recordsの日本語ラップ・クラシックや、Nav Katzeの編集盤など、リイシュー作品も充実しました。そして、やはり今年はアナログ盤の流通をさせていただいた坂本慎太郎『物語のように』が強く印象に残っています。