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Dr.Looper / 2019-02-02
1
LINDA WILLIAMS - ELEVATE OUR MINDS
フリーソウルからも再評価された奇跡のレディ・ソウル~ミッド・ダンサー!!
今月最も驚いたのが、こちらの7インチ盤のリリースです。今もなお作詞家、作曲家、歌手、そしてピアニストとして活動を続けているLinda Williams。ピアニストの父の元に生まれた彼女のキャリアのスタートは1975年、Natalie Coleのバンドにピアニスト兼音楽監督として参加したところからでした。4年間に渡りNatalie Coleと創作活動を共にした後、The Soulful Stringsを率いつつ、Cadetでプロデューサーとして活躍していたRichard Evansの、セルフ・タイトル・アルバム(1979年)への収録曲、"Capricorn Rising"と"Burning Spear"にてシンガー・デビュー。さらにRichard Evansをプロデューサーに招き、Aristaから初のソロ・アルバムとなる『City Living』(1979年)をリリースします。本盤はこのアルバムから初7インチ化となる2曲がカップリングされたもので、A面"Elevate Our Minds"は、機織り機のようなピアノがメロディーを紡いでいくミッドテンポ佳曲。まるで70年代後半のニュー・ヨークの空気まで、そのまま一緒に記録されているかのようなダンス・チューン。最高。結局Linda Williams名義ではアルバムを1枚出したきりでしたが、その後彼女はAziza Millerと改名、Ahmad JamalやRay Bryantといった名ピアニスト達と共演しつつ、その名義で4枚のアルバムを残しています。盟友のNatalie Coleは残念ながら2015年に亡くなってしまいましたが、彼女の1人息子であるRob Yancyが、今ではAziza Millerのバンドのドラマーとして活動していると聞きます。なんて素晴らしい話でしょう。
2
CHUBB ROCK / DEE FELICE TRIO - TREAT ME RIGHT / THERE WAS A TIME
ヒップホップとその元ネタをカップリング・リリースする5 Borough Breaksの第17弾!
"There Was A Time"はヴァージョンが多くて複雑です。オリジナルはJames Brownのシングル・ヴァージョン(1967年)で、共作者は当時彼の右腕だったBud Hobgoodでした(ちなみに彼は1970年に34歳の若さで亡くなってしまいます)。それをカヴァーしたDee Felice Trioのヴァージョンには7インチ盤が2種類ありまして、片方はデザインがKing Recordsと良く似ていてJames Brownの顔写真付きの水色ラベル。もう片方は黒色ラベルに銀文字のもの、でした。いずれもBethlehem Recordsからのリリースですが、先に出たのは水色ラベルの方。ちなみにKing Recordsとラベルのデザインが似ているのは、この時期のBethlehemがKing傘下のレーベルだったからだと思われます。若き日のCreed Taylorも所属した、老舗ジャズ・レーベルBethlehem Recordsを再興するために、Kingは当時勢いのあったJames Brownのアーティスト・パワーを借りようとしたのかもしれません。その水色レーベルに収録されているヴァージョンは、Dee Felice Trioのアルバム『In Heat』(1969年)に収録されており、ある意味「ヘイ・ユウ・ブルース」的な派手なホーンから始まります。一方の黒レーベル盤こそが本盤に収録された(つまり、Chubb RockやUltramagnetic MC'sやShowbiz & A.G.によってサンプリングされた)ドス黒さ満点のウッド・ベース&ドラムで始まるヴァージョンなのですが、まずここで最初の疑問が。後からホーンが足されたヴァージョンの方が、なぜ先にリリースされているのか?さらに、黒レーベル・ヴァージョンがJames Brown名義のアルバム『Gettin' Down to It』(1969年)に収録されたことで、話はさらに複雑に・・・。調べてみると、『Gettin' Down To It』の方が『In Heat』より数か月先に発売されていることが判明。おそらく、James BrownがDee Felice Trioをバックにセルフ・カヴァー(黒レーベル・ヴァージョン)を録音し、自分名義のアルバムに収録・リリース(しかしこの曲に関してJames Brownは何もしていない)、それを気に入ったDee Felice Trioがホーンを足した水色レーベル・ヴァージョンを録音・リリースし、Dee Felice Trio名義のアルバム『In Heat』に収録したところ、黒レーベル・ヴァージョンの評判が良かったのでシングル化することに。自分は何もしていないのでJames Brownはアーティスト表記をDee Felice Trioに変更してリリースした、という流れではないかと思います。ちなみに本曲はコンピレーション盤では、2000年に突如リリースされた『James Brown's Funky People (Part 3)』に収録されていますが、こちらはミックス違いです。ところで、今回これを書くためにネット上にある音源をいくつか聴いたのですが、ジャケットと音源が食い違っているパターンが多く、けっこう混乱してしまいました。皆様にはぜひフィジカル盤を自分の目と耳で確かめて頂きたいものです。ちなみに昔からレア盤として名高いLP『In Heat』ですが、なんとその黒ラベル・ヴァージョンを収録した盤が存在する(!)という噂があるようで。嘘か真か?いったいどんな経緯でそうなったのか?話はさらに複雑なことになりそうです。
3
DAVID MCCALLUM - UPTIGHT / THE EDGE
サンプリング音楽史上最も有名な"The Edge"が国内盤ジャケで7"カット!!
2018年2月に発刊されたプリンス特集の67号以来、残念ながらしばらく刊行が止まっている『Wax Poetics』誌のUS版ですが、その記念すべき第1号(2002年)の特集が「David Axelrod特集」だったことを覚えている人が、これを読んでくださっている方のなかに、果たしてどれだけいらっしゃるでしょうか。ともかく、そうした特集が優先的に組まれるというあたりからも分かるように、「ヒップホップ以降の音楽史」において、もっとも再評価熱の高まったアーティストの一人がDavid Axelrod、ということになると思います。彼の残した音楽は文字通りエッジが効いていて、音的にもBPM的にも「サンプリングしたくなる何か」を孕んでいました。1933年にL.A.のサウス・セントラルに生まれ(黒人居住区にて育てられたので、自身が黒人だと自認していた時期もあったそうです)、ドラマーを目指していた兄の影響で5歳からジャズを聴き始め、20歳そこそこで自らのヘロイン中毒を克服(!)、23歳(1956年)でGerald Wiggins Trioをプロデュース。1964年からはCapitolの専属プロデューサー兼A&Rとして、Cannonball AdderleyやLou Rawlsの作品を手がけます。ほどなくCannonball Adderleyの『Mercy, Mercy, Mercy』(1966年)が大ヒット、業界でも名声を浴びるようになった彼が、その翌年にプロデュースしたのが、David McCallumのアルバム『Music: A Bit More Of Me』(1967年)でした。元々はミュージシャンを志望していたDavid McCallumですが、当時は既に俳優としての方が有名で、彼が実際にアルバムの中で演奏しているものはほとんど無い、というのが実情のようです。つまり、David McCallumの名を借りて、自分が演りたい音楽をアルバムとして記録していったのは、実はDavid Axelrodの方だったのかもしれない、と言えるでしょう。そのアルバムからの7インチ・カットとなる本盤ですが、今回注目すべきはやはり、Dr.Dreの"The Next Episode"(1999年)やQuasimotoの"Talkin' Shit"(2014年)のネタとして名高い、B面に収録の"The Edge"に尽きるでしょう。実はこの曲、David Axelrodが発展途上国の貧困層の酷い暮らしぶりを見た時の衝撃がモチーフになっているそうで、そうした背景を知った上で聴くと、曲頭のギターとホーンのせめぎ合いに、人々の怒りや絶望を感じとることが出来ます。そして、そうした曲のコンセプト自体が、実は極めてヒップホップ的だったことに驚かされます。A面B面とも曲が終わらないギミック付き。
4
PROFESSOR SHORTHAIR / ALLERGIES - NOLA BREAKS V.8 (MINT GREEN VINYL)
毎回好評のDJユーズなニューオーリンズ・ファンク・エディット第8弾!
1990年代前半、まだ情報量が乏しかった時代、自分にとってレア・グルーヴといえば『James Brown's Funky People』のコンピレーション(当時は『Part 2』までしか出ていませんでした)と、Charlyから出ていたThe Metersの2枚組『Funky Miracle』でした。大げさでなく、当時この4枚は毎日聴いていた気がします。でも前者は既にJuice Crew(Marley Marlプロデュース作品)に、後者は(Public Enemyを筆頭に)The Bomb Squadのプロデュース作品で使われまくっていたため、後追いでサンプリングするのを躊躇していたというのも確かです。そんなある日、代々木チョコレートシティでのライヴのリハーサルのとき、先輩グループのB Freshが新トラックを披露した際に、思い切りThe Metersのドラム・ループを使っているのを聴いて、「あ、使っていいんだ」と目から鱗が落ちたことを鮮明に覚えています。ベースのネタはBobbi Humphreyの"Jasper Country Man"(つまりIce-Tの"New Jack Hustler"と同じネタ)で"Warning"という曲だったと思います。さらに書いておくと、トラックを作ったCake-Kさんは高音質化を狙い、ビデオデッキを持ち込んでHi-Fiトラックで再生していました。まだDAT(Digital Audio Tape)が高価で手が出せなかった頃の話です。ちなみに当時自分たちは、TASCAM製のカセットMTRのPORTA05を使っていましたっけ・・・。その後、ヴァイナル化前のバックトラックの再生装置はDAT、MD、CDJ、Seratoなどへと変遷していきます。長くなりましたが、自分にとってThe Metersはつまり、「ヒップホップの父」のような存在。本盤はThe Metersの珠玉のトラックを、同じくニューオリンズを拠点とする、その名もProfessor Shorthairが鮮やかにエディット。こちらを聴くと、The Metersが「ヒップホップの父」と呼ばれるに相応しいバンドであることが、存分にお分かり頂けるかと思います。そういえばDJ Formatも、"The Meeting"というThe Metersのエディット7インチを最近出したようで。そちらは残念ながら未入手ですが(日本に殆ど入ってこなかったと思います)、どうやら世界的なリヴァイバルとして、再び今The Metersが流行っているのかもしれません。嬉しい限りです。
5
MAC DEMARCO / HARUOMI HOSONO - HONEY MOON (SPECIAL COLORED VINYL)
なんとMac Demarcoが細野晴臣の70年代名曲を日本語でカヴァー!!
70歳を超えた今もなお、精力的に音楽表現を続ける細野晴臣さん。彼が27歳の時に残した"Honey Moon"が、現在28歳のMac Demarcoにカヴァーされたことで、嬉しい初7インチ化となりました。本盤B面に収録されたオリジナル・ヴァージョンは、細野さんのいわゆる「トロピカル3部作」のトップを飾るアルバム、『トロピカル・ダンディー』(1975年)に収録されていて、細野さんご本人も「A面を作った段階で完成しちゃった」「気持ち的にB面は捨てちゃった」と語るように、A面に強力な楽曲が偏って収録されている中で、この曲はB面の側に収録されていました。「B面はおざなりにしちゃったんです。フォークっぽくしてみたりインスト入れてみたり」というのも細野さんの言葉ですが、だからこそ、ハズレとされた一連のB面曲の中で、"Honey Moon"の楽曲の良さだけが際立ったのかもしれません。リズムボックス(おそらくエーストーン製)にエレキ・ベース、揚琴、アコースティック・ギター(『Happy End』のレコーディングのために訪れたL.A.で、1972年に購入したギブソン製のJ-50)、といった機材を全て一人で演奏、録音した姿勢は、Sly StoneやJames Taylor(彼もJ-50を愛用していました)の影響が見え隠れします。この宅録感やプライベート感が、40年の時空を越えてMac Demarcoの心の琴線にでも触れたのでしょうか、A面のカヴァー・ヴァージョンはかなり原曲に忠実で、原曲特有のえも言われぬ浮遊感を見事に再現しています。そして、とてもカナダ出身とは思えない流暢な日本語での歌い回しには驚くしかありません(ちなみに原曲より半音低いキーでカヴァーしています)。願わくばこの勢いで、是非"Hurricane Dorothy"の方もカヴァーして頂いて、そちらも初7インチ化の運びになると嬉しいのですが、欲張りすぎでしょうか。
Dr.Looper Chart
2020-03-15
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2019-10-07
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