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Dr.Looper / 2019-03-04
1
BERNADETTE BASCOM - I DON'T WANNA LOSE YOUR LOVE
市場には滅多に出回る事のない珠玉のアーバン・ソウルが遂に正規リイシュー!
2014年にシアトルのレーベルLight In The Atticからリリースされた、傑作コンピレーション『Wheedle's Groove Volume II』の収録曲の中でも、飛び切りの一曲がリイシューされました。Bernadette Bascomは1962年、公民権活動家の牧師だった父のもとに生まれ、故郷ボルチモアでディスク・ジョッキーとしてキャリアをスタート。その後シンガーとしての活動を始めました。Stevie WonderのレーベルBlack Bullと最初に契約したアーティスト、として比較的有名なんだそうです。その後、活動拠点をボルチモアからシアトルへ移し、主にアメリカ北西部を音楽巡業で回っていた彼女は、Elton JohnやTower of PowerのLenny Williamsらとステージを共にしたことも。レコーディング・アーティストというよりはツアー・アーティストだったようで、残された作品数は少ないのですが、どれも最近になって急激に再評価が進んでいる曲ばかり。また彼女は、2013年に同じくLight In The Atticからの未発表曲アルバムが大きな話題となった、Robbie Hill's Family Affairのメンバーでもあります。またその2013年には、彼女の若手ミュージシャンへの指導や支援を追ったドキュメンタリー番組、『Bernadette's Touch』がエミー賞を受賞したことも、彼女が関係する作品の再発ラッシュに拍車を掛けているのではないかと予想しています。そんな彼女のファースト・シングル曲、"Seattle Sunshine"と"I Don't Wanna Lose Your Love"(1981年)が、A面B面を入れ替えた形でリイシュー。両面とも最高。こういうレコードはあるうちに買っておいた方が良いです。ぜひ。
2
ROKK - PATIENCE
幻のメガレア・モダン・ソウルがAcid Jazz傘下新レーベルより7"再発!!
Rokkの"Patience"(1976年)という曲を初めて聴いたのは、2002年にLuv N' Haightから出た『California Soul』というコンピレーションでした。カッティング・ギターと清涼感溢れるフルートが、曲の幕開けを告げる最高の一曲。どことなくGil Scott-Heronの"The Bottle"(1974年)にも似ている気がするこの曲は、Keb Dargeがフェイバリットに挙げたり、The Baker Brothersが2011年にカヴァーしたことなどで、じわじわと人気が上がった印象があります。Rokkは、1968年にロサンゼルスで出会ったJames DockeryとArthur Mondayの2人が母体となる7人組のファンク・バンドで、Tollie Records(アメリカでCapitol Records以前にThe Beatlesのシングルを出していたレーベルとして有名)にたった1枚のシングルを残したきりで、そのまま解散してしまったのでした。その後幻のシングルとして一部の好事家の間では話題になっていましたが、驚異的な音源発掘能力を有するシカゴのレーベルNumero Groupが、2013年になんとそのRokkの未発表音源を集めたアルバム、『I Want To Live High』をリリースしていることにも注目を。興味のある方は是非そちらの方も聴いていただければと思います。オリジナル7インチは元々プレス枚数が少なかったようで、かなりの高額盤になっています。以前も7インチで再発されたことがありましたが、あっという間に姿を消してしまったので、そのときに買い逃した方はぜひこの機会に。今回は英Acid Jazz内の新レーベル、Miles Awayからの記念すべき1枚目のリリースでもあります。オリジナルは"Don't Be No Fool"とのカップリングですが、こちらは"From Within"とのカップリングになっています。
3
SCHOOLLY D - P.S.K. "WHAT DOES IT MEAN"
ヒップホップ史に残る奇跡的名曲が初の7"化!!
ヒップホップ史上に残る奇曲が突如として7インチ化。オリジナルは1985年リリースで、あのIce-Tをして「最初のギャングスター・ラップ曲だった」と言わしめたこの曲は、フィラデルフィア出身のSchoolly D(Ice-Tよりも4歳年下)によって作られました。まるで洞窟の奥底から地響きのように聞こえてくるような、異常ともいえるほど過度にリバーヴが掛かった、ローランド社製リズム・マシンTR-909のビートは、当時から今に至るまで「・・・どうやって思いついたんだろう?」と首を傾げてしまうような、独特なドラム・パターンも特徴的です。体全体を揺らされるような存在感、そして恐怖感。この個性的なドラムの二次使用の例は実に100曲以上を数えますが、特に印象に残っているのはNice And Smoothの"Return of the Hip Hop Freaks"(1994年)でしょうか。当時は「KMDの"Peachfuzz"(1991年)と同じネタだな」と思ったのですが(John Cullumの"On A Clear Day"のO.C.Smithによるカヴァーで、ちなみにThe Peddlersによるカヴァーも人気ネタとして有名です)、WhoSampledによれば同ネタ使いどころか、"Peachfuzz"の方をそのままサンプリングで借用したようで・・・。軽く目眩がしますが、そのアトモスフェリックな上ネタはともかく、やはり"P.S.K."のビートの圧倒的な存在感が光っています。これはもう、ヒップホップ世代が生んだドラム・ブレイクのパブリック・ドメインと言えるでしょう。生音のドラムではなく、ドラム・マシンに打ち込まれたブレイクがこれだけ重宝されるのは、非常に珍しいことだと思います。他を挙げるならRUN-DMCの"Sucker MC's"(1983年)あたりでしょうか。あちらはオーバーハイム社製DMXの音ですけど。さらに本盤B面に収録されているのは、初の蔵出しとなるインスト・ヴァージョン。え!こんなヴァージョンあったんですか?!いやはや、凄い7インチが出てしまいました。欲を言えば、もう少しレーベル面の黄色が濃ければ、オリジナル12インチ盤に近かったのにな、などと思ったり。
4
STRO ELLIOT - S.T.
Kool & The Gangサンプルの冒頭から強力ビート目白押し!
昔の機材の話を続けます。廉価版サンプラーの中で初めてタイム・ストレッチの機能が付いたのはAKAI社製S-1000だったはずで、それ以前の、今なおヒップホップ界で名機と言われているS-900やS-950にも、そしてE-Mu社のSP1200にも、タイム・ストレッチという便利な機能はなかったわけです。ちなみにタイムストレッチというのは、あるピッチを保ったままサンプルの長さを変えること。そして当時のシークエンサーのBPMは、そのほとんどどが小数点以下のない「1」刻みでした。その結果、例えば一小節のネタをループさせるために、そのネタに近いBPMを耳で探り出して、そこからサンプルのピッチを変え長さを調節することでルーピング・ポイントと無理やりマッチさせていたわけです。その結果、12音階にない音(出せない音)になり、さらにギターやホーンの上ネタもループで重ねると当然それらもピッチがずれていますので、キーも合っていなければ音階も合っていないという、音楽の常識からは完全に外れた奇天烈なトラックが生まれてくる訳です。恐ろしいことに、そうした奇天烈なトラックにオフビートなラップを乗せたものが、90年代半ばまでは音楽としてのヒップホップの主流でした。それらを気持ち良いと取るか、気持ち悪いと取るかは聴き手次第ですが、当時自分の周りのミュージシャン(特にバンド経験者)の中に、「聴いていると気持ち悪くなる」という理由で、ヒップホップのビートを敬遠していた人が少なからずいたのも事実です。その一方で、当時すでにトラックメーカーの中には、不協和音の気持ち悪さを打開するためピッチの方は変えずに、1小節を4つ(ないしは8つ)に切り刻み、一つ一つのサンプルを打ち込むタイミングを変えて長さを調節する技法でビートを組む人もいました(例えばGM-Kazさんはその手法でした)。ただこの手法のメリット、デメリットとして、気持ち悪さは解消されるものの、原曲の持つ独特なノリが死んでしまう、というジレンマがありました。現在ではタイム・ストレッチ機能はもちろん、BPMも小数点以下まで細かく設定が可能になっていることもあり、敢えて確信犯的に作られたものを除けば、聴いていて気持ち悪くなるような曲はほとんど無くなりました。でも、あの「気持ち悪さ」こそが、もしかしたらヒップホップの魅力の本質的な部分なのかもしれない。本盤を聴いていたら急にそんなことを思い出しました。この実にスムースで最高なヒップホップ・トラックが誕生するまでには、数十年に渡る紆余曲折の歴史があったことをどうぞお忘れなく。
5
細野晴臣 - HOCHONO HOUSE
『Hosono House』をまるごと新録した超話題作!!
細野晴臣さんの2年ぶりとなるソロ・アルバムが登場します。『細野晴臣 架空ジャケット画集』でもお馴染みの、岡田崇さんが手掛けたジャケットでの細野さんは、くわえタバコからの煙が白髪を覆い、まるでマッド・サイエンティストのような佇まいにも。思い返すと、細野さんご本人の顔が中心に据えられたアルバムは過去にも何枚か存在していて、まずファースト・アルバムの『HOSONO HOUSE』(1973年)からしてそうだったし、YMOの商業的な成功によるご褒美として誕生した、¥ENレーベルからの第一弾アルバム『フィルハーモニー』(1982年)も、YMO散開後初となるソロ・アルバム『S・F・X』(1984年)など、節目節目でリリースされるアルバムには、細野さんの顔が全面に押し出されたアートワークが採用されてきたような気がします。そして、それらのアルバムの共通点として、個人作業の割合が極めて多く、内容的にもかなり私的なメッセージが込められたアルバムだったようにも思えます。まだ打ち込み機材が少なかった頃の『HOSONO HOUSE』にはバンドのメンバーも生楽器で携わっていますが、まず「自宅で録音」という極めてパーソナルな手法が採られています。とはいえ、機材面での日進月歩を経て、Emulatorを使って自動筆記のように作られた『フィルハーモニー』や、六本木WAVEの上にあったセディック・スタジオで、DX-7やLINN DrumやEmulatorやTRシリーズに囲まれて作られた『S・F・X』についても、細野氏一人で作り上げた部分が多いはず。そして本アルバムも、彼自身が操るPCベースに依るところが大きい、と漏れ聞こえてきています。前述のアルバムを、ヘッドホンでしゃぶり尽くすように聴いていた若い頃を思い出し、ぜひ今回のアルバムもヘッドホンで聴き込んでみたいと思います。曲順は『HOSONO HOUSE』と完全に逆順で、最後に「ろっかばいまいべいびい」が収録されるとのこと。細野さんのほぼ半世紀に渡る長い音楽史を、シンメトリー化する狙いなのでしょうか。このLPを聴いた後に再び『HOSONO HOUSE』に戻せば、永遠に終わらない「ホソノ・メビウスの輪」が完成するとも言えます。ただそう考えると、まるで「これが最後の作品ですよ」という彼の意思表示のような気もしてしまうので、ただ一つそれだけが気がかりなのです。次作ももちろん楽しみにしています。
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