Dr.Looper / 2019-06-03

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JAGGER THE DAGGER / CHERRYSTONES

EUGENE MCDANIELS - JAGGER THE DAGGER / CHERRYSTONES

サンプリング聖典としても名高い2曲をカップリングした7"が国内妄想ジャケ仕様にて登場!!

7" |  ¥2,145 |  ATLANTIC (JPN)  |  2019-06-09 [再]  | 
初期Young Holt Unlimitedのメンバーで、Ramsey Lewisに代わって加入した鍵盤奏者のHysear Don Walkerが、1972年にリズム&ブルースの名門Brunswickに残した、『Complete Expressions Vol.2』というアルバムをご存知でしょうか?Salvador Dali(サルヴァドール・ダリ)風のおどろおどろしい絵がジャケットで、もはやジャンルすら不明に見えますが、中身は洗練されたジャズファンクの超名盤。なぜBrunswickから?とも思わせる実験的な作品でしたが、本盤の楽曲が収録された『Headless Heroes of the Apocalypse』(1971年)もまた、なぜAtlanticから?と思わせる、難解かつクールなジャズ・アルバムでした。LPをお持ちの方はよくお分かりでしょうが、このアルバムのアートワークは、向かい合った侍同士に本人の叫び顔が合成されているという、世にも奇妙なデザイン。まさに「ジャケは酷いが中身は最高」のアルバムの典型かもしれません。この点も前述の『Complete Expressions Vol.2』に良く似ている気がします。さらに裏ジャケットにも侍の顔がレイアウトされているせいか、自分はこのアルバムを聴くといつも、黒澤明の時代劇映画を思い出してしまうのでした。ウッドベースの音もガサガサしており何処となく変で、さらに言うとコーラスもひたすら不気味。アルバムを通じて怒りや絶望を感じさせる、全体的に暗いアルバムだと思います。調べてみると、Eugene McDanielsは1960年代には既に歌手として成功していて、1961年にビルボードHOT100で3位を獲得した、"A Hundred Pounds of Clay"のヒットを飛ばしたのち映画俳優に転向。しかし、1968年にキング牧師の暗殺をきっかけに北欧へと移住したそうです。自らの身の危険を感じたのか、それとも単に世間と距離を置きたかっただけなのか。ともかく本盤はその時代に書かれた曲で、だからこそ絶望や怒りを感じさせる内容なのかもしれません。極めて内省的な、そしてキング牧師の存在に象徴された公民権運動と、非常に密接な関係があるアルバムだといえます。Altanticに2枚のアルバムを残したEugene McDanielsは結局、1974年には泣く子も黙る至高の名曲"Feel Like Making Love"を大ヒットさせたのでした。しかもジャズ・ミュージシャンであるにもかかわらず、作詞と作曲の両方をこなすという離れ業で。なんてことはさておき、今回の世界初の7インチ化は紛れもない快挙。世界中のディガーが待っていた、素晴らしい再発だと思います。
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WE'VE ONLY JUST BEGUN / GREEN DOLPHIN STREET

O'DONEL LEVY / LUCKY THOMPSON QUARTET - WE'VE ONLY JUST BEGUN / GREEN DOLPHIN STREET

Pete Rockサンプリング・ネタでも知られるCarpentersカヴァー!!

7" |  ¥1,650 |  POSITIVE PAY FOR / ULTRA-VYBE (JPN)  |  2020-03-25 [再]  | 
Lucky Thompsonという名前を見ると、どうしても思い出してしまう曲がありまして。1993年、我々Rhymesterも参加していた代々木チョコレートシティでの月いちイベント、『Young MC's in Town』がようやく軌道に乗り始めた頃でした(イベントの開始は1991年秋)。イベントの主催はFileレコードで、イベント名の名付け親は当時から現在に至るまで社長を務めるバリー佐藤こと佐藤善雄さんで、開始当初の出演グループはZINGI、East End、Rhymesterの3グループ。ほどなくしてZINGIが抜け、その後はMellow Yellowを誘い、さらにZINGIの後輩グループ3 Ballが加わりました。Rhymesterは1993年の4月25日に『俺に言わせりゃ』をリリースして、同年の夏からは池袋BEDで『FGナイト』もスタート。さらに外タレの前座や横浜方面との交流が多くなった一方で、「やはりホームグラウンドも大事にしよう」ということで、新録のクリスマス曲が入ったカセットテープを、『Young MC's in Town』の会場限定で販売する企画が持ち上がりました。話はとんとん拍子に進み、Rhymester、East End、Mellow Yellow、3Ballの4グループが、ZINGIのメンバーGM-Kazさん所有のP-Studioに集結し、各グループ1曲ずつ、計4曲の新曲を一気に録音することに。3Ballの「サンタマ・ラップ」は、地元の(通称)三多摩とサンタクロースとをかけたパーティー・ラップ。Mellow Yellowの「C」は、クリスマス・イヴの恋人同士の駆け引きを題材にした恋愛もの。East Endの「その舟に乗って」は、亡くなってしまった祖父を聖なる一夜に思い出そうという家族愛ラップ。そしてRhymesterは、ボンクラ感全開の「クリスマスなんて知らねえ」的な飲んだくれポッセ・ラップ。という具合に、各グループのキャラクターが出揃ったカセット・アルバムが出来上がったのでした。当時Fileレコードが白カセ(レーベル部分が白い、販促宣伝用の簡素なカセット)を発注していた工場にダビングを依頼して、インデックスのアートワークは当イベントのフライヤーやFG TシャツをデザインしていたK.I.N(Mellow Yellow)が担当。たしか200本ほど作って1本1500円で販売したはずですが、おかげさまであっという間に完売したのをよく覚えています。と、話が長くなってしまいましたが、このときRhymesterの「この日なんの日」(一定年齢以上の方は日立グループのCF曲をもじっていることがお分かりかも)という曲で引用したのが、サックス奏者Lucky Thompsonの"Tea Time"(1973年)という曲でした。ボサノヴァ・マナーの原曲をかなり速くするかわりに、ビートを半分で取ることでヒップホップのトラックにするアイデアは、The Pharcydeが"Otha Fish"でHerbie Manの"Today"を引用したことを意識したもので、ドラム・ブレイクには"Papa Was Too"を使いました。本盤B面の"Green Dolphin Street"は、その"Tea Time"と同じくGroove Merchantから出たJimmy McGriffのリーダー・アルバム、『Friday The 13th. Cook County Jail.』(1973年)からの世界初7"シングル化で、ここではLucky Thompsonの名義となっています。そしてこの曲は、A Tribe Called Quest"Jazz"(1991年)で引用されたことでも有名な、ふわっとしたモヤがかかったような美しい曲。一発録りでマイクが少なかったせいもあるのでしょうか。しかしそれが功を奏して、Phil Spectorばりのウォール・オブ・サウンド(音の壁)とまではいかなくとも、「音の垣根」ぐらいの厚みにはなっていて、Lucky Thompsonの吹くソプラノ・サックスと、エレピの中高音域が、フワフワと羽衣のように舞い踊る美しい佳曲です。ちなみに中盤でエレピ・ソロを弾いているのは、後にRhymesterが引用することになる"Jacob's Ladder"のCedar Waltonだったりします。
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A STEP AHEAD

9TH CREATION - A STEP AHEAD

レア・グルーヴ・ファン必携、衝撃の未発表アルバムが登場です!!

LP |  ¥2,750 |  PAST DUE ‎ (USA)  |  2019-06-26 [再]  | 
未発表音源集といえば、思わぬ新曲(新たに陽の目を見たお蔵入り音源)の登場に嬉しい半面、実際に聴いてみると微妙な感じの作品が大半、というのが実際のところだったりしますが、本アルバムは意外にも(失礼)素晴らしい内容でした。この9th Creation、ヒップホップ・フリークスにとっては1st.アルバム(ブーツのイラストのヴァージョンが1stプレス、黒バックに赤い唇の方が2ndプレスとのこと)に収録の"Bubble Gum"が、Artifactsの"Wrong Side of Da Tracks"(1994年)にモロ使いされたり、同曲がBreakstraにカヴァーされたり、ドラム・ブレイクで始まりフルートが絶妙に絡む"Rule of Mind"が、Main Sourceの"Just a Friendly Game of Baseball"(1991年)や、3rd Bassの"Derelicts of Dialect"(1991年)、Black Moonの"Slave"(1993年)など数々の佳曲において使われたりと、とにかく1st.こそが最高傑作だと長年思い続けていました。が、ご存知7インチ・オンリーの超名曲"Mellow Music"(1982年)の再発見や再評価が進むにつれ、もしかしたらbpm的に速くなりディスコ・サウンドへと寄っていった後期の方が、(楽曲としては)良く出来ているのではないか?とも思い始めたのでした。現に、本盤に針を落とした瞬間に聴こえてくる、130bpmのドラム・ブレイク入りの"A Step Ahead"も最高ですし、Steve Masonの弾く、アープらしきシンセ音でキラキラと幕を開ける"Let It Shine"もまた最高。つづく"Beatuful Lady"は、後のShakatakを思い起こさせる都会的なファンクでした(マスターのノイズさえ無ければより最高だったとは思いますが)。そう、どことなくUKの香りも漂う、都会的な楽曲が多いのです。そんな最高な楽曲を沢山を残したThe 9th Creationは、Burrise兄弟を中心に結成、オークランドを拠点に1970年代前半から活動していたグループ。グループ名の由来は単にメンバーが9人だったからだそうですが、グループ全体の音楽性は弟のA.D.Burriseがイニシアティヴを取っていたようです。そして、ベーシストである彼がバンマスだった、という特徴が、同時期にUS東海岸側で大活躍していたKool & The Gangとの共通点として挙げられます。そして肝心の演奏の方も、なかなかどうして上手なのです。テクニックに限って言うと、Kool & The Gangよりむしろこちらの方がレベルが上だったのかも。西海岸らしく、というか、同じ四つ打ちであっても、イースト・コーストのディスコ~ファンク・サウンドよりも、なんだかいい意味で緩く聴こえるのは自分だけでしょうか。録音規模が大きく楽器数が多い(=チャンネル数が多い)せいか、西海岸のバンド・サウンドは賑やかで明るく聴こえるような気がします。一方東海岸の方は、きっとホーンや弦は一発録りで済ませて、むしろドラムやベースの方にチャンネルを割くことで、もっと重心を低くしようとしたのかも?なんて思ったり。個人的に、若い頃は暗くてスモーキーな東海岸の四つ打ちが好きでしたが、今は西海岸のサニーサイド感のあるキラキラしたサウンドの方が好みかもしれません。ちなみに本盤、LPは8曲入りですがCDはなんと17曲入り。同時代に録音された"Mellow Music"もちゃんと入っていますので、どちらもぜひ。
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BLIND ALLEY / AIN'T NO HALF STEPPIN'

ALTERED TAPES / PHOREYZ & BRISK - BLIND ALLEY / AIN'T NO HALF STEPPIN'

これは面白い! Big Daddy Kane名曲"Ain't No Half Steppin'"をJim Sharpアプローチで再構築。

7" |  ¥1,850 |  HEAT ROCK (USA)  |  2019-05-14 [再]  | 
4、5年前に、英Originalsレーベルから両面とも全く同じタイトルの仕様の7インチが出ていましたが、今回は同じくUKの謎のレーベルHeat Rockから、『Ultimate Breaks & Beats』(以下UBB)収録曲であるThe Emotions"Blind Alley"と、同曲を使用した数あるヒップホップ楽曲の中で最もポピュラーな(一般的にはMariah Careyの"Dreamlover"の方が有名かも)、Big Daddy Kane(以下BDK)の"Ain't No Half Steppin'"という組み合わせが収録された7インチが登場。クレジット上は"Blind Alley"となっていますが、実際に聴いてみると完全にエディット物で、Jim SharpやJorun Bombay路線と同列にあるもの、と考えて良いかと。Jorun Bombayなら"The Alley Edit"みたいな、オリジナルをもじったタイトルにしたかもしれませんね。数多の楽曲でサンプリングされた、定番中の定番曲"Blind Alley"の一番の特徴は、何といっても冒頭の鍵盤楽器の8分音メロディではないでしょうか。単音で聴いただけで分かってしまうほど、よく考えたら他の曲では聴いたことのないような非常に特徴的なフレーズではあるのですが、はたして何の楽器のフレーズなのか、恥ずかしながら自分は全く分かりません。記憶ではグロッケンの音だと思っていたのですが、今回よく聴いてみたらどうも違うようで、もしかしたら同曲のアレンジャーだった鍵盤奏者のRonnie Williamsが弾くオルガンの音、あるいはエレピとのユニゾンの音なのかもしれません。本盤A面はそのフレーズのみ(ドラム抜き)から始まり、Lou Donaldsonの"Ode To Billie Joe"を思わせる生ドラムが重なっていく、生バンド風で解放感のあるトラックが収録。B面はA面と同じ音源を使ったイントロに、BDKのラップと、前述の"Ain't No Half Steppin'"と同じく、『UBB』9番に収録のESG"U.F.O."のイントロ・フレーズ、そして他から持ってきたドラム・ブレイク、という最高の組み合わせで仕上げられています。でも、個人的にはこのドラム・ブレイクよりも、やっぱり元の"Papa Was Two"の方が100倍好きかも。なんて書いてしまいました。両面ともそうですが、この手のエディット物は後から聴いても「いつの時代の曲か分からない」という、クラブ・ミュージックにおいて大事な要素の一つである「時代性」を感じさせないことが特徴かもしれません。でもその裏を返せば、「いつ聴いても古くない」ということでもあるのかも。これは強味ですね。
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BGM

STUDIO MULE - BGM

mule musiqによる新レーベル、studio muleの名を冠した看板ユニットによるファースト・フル・アルバム!!

LP |  ¥3,259 |  STUDIO MULE (JPN)  |  2019-05-07 [再]  | 
本LPの2曲めに「鏡の中の十月」と書かれているのを見て驚きました。オリジナル曲を歌った小池玉緒さんは、1962年に生まれの歌手/モデル。1982年にカネボウ化粧品CFのキャンペーンガールに抜擢されました(CFタイアップ曲は大友康平率いるHOUND DOGの「浮気な、パレット・キャット」でした)。ちなみに、対する資生堂が当時CF曲として選んだのが「い・け・な・いルージュマジック」だった、というのも、今となっては不思議な縁ですね。さてその小池玉緒さん、歌手としては同年にNHK『三国志』のエンディング・テーマを歌った方、として一部では有名なのかもしれません。この曲のヒットを受けて、細野晴臣さんプロデュースでフル・アルバムが制作されたものの、残念ながらYENレーベルからリリースされることなく、そのままお蔵入りしてしまいます。幸いにも一部の曲は、1996年にリリースされたCDボックス・セット『YEN BOX VOL.2』に収録され、中でも故・中西俊夫さんがアレンジした「ラニン・アウェイ」(Sly & the Family Stoneのカヴァー)は、そこから20年以上経過した今でも通用する楽曲。それ以外にも、後に松田聖子の「わがままな片思い」(1983年リリースの「天国のキッス」のB面)へとリメイクされる曲や、後にWater Melon Group名義で中西俊夫さんがセルフ・カヴァーすることになる曲が収録されていたりと、素晴らしい内容でした。この幻のアルバムが復刻されることを、ずいぶん長らく願っていますが、現在のところアルバムは未発表のまま。またまた話が長くなりましたが、そんな小池玉緒さんがYENレーベルに残した、たった1枚のシングルが「鏡の中の十月」なのです。そもそもレアである上に、楽曲自体の素晴らしさもあって、現在では中古相場での値段が高騰しているようですが、聴けば納得のテクノ歌謡史上屈指の名曲。珍しくYMOのメンバー3人による共作で、イントロやAメロBメロの分担が、あの「君に、胸キュン。」にも似た感じに。ヴォーカルは気怠いウィスパー・ヴォイスで、「早すぎたカヒミ・カリィ」、或いは「早すぎた早瀬優香子」と書けば分かりやすいかもしれません。そしてこの「鏡の中の十月」には、『YEN卒業アルバム』に収録された、小池さんご本人と寺田康彦さんが担当したリミックス・ヴァージョンが存在しており、そちらはそちらで必聴級の素晴らしさ。そんなごくごく一部のマニアの間でしか知られていない隠れ名曲なのですが、本盤にそのカヴァーが収録されている時点で、これはもう買うしかなかったわけです。しかも歌うのは佐藤奈々子さんで(最高のキャスティング!)、こちらもまた必聴級の素晴らしさでした。今なおアンニュイな魅力を感じさせてくれる佐藤奈々子さんのヴォーカルも最高ですし、オリジナルのYMOヴァージョンと同様にリン・ドラム、しかも音源ではなく実機を使用しているように聴こえるので、正に頭が下がる思い。「鏡の中の十月」以外にも、いつぞやここでご紹介させて頂いた甲田益也子さんの「カルナヴァル」カヴァー(オリジナルは大貫妙子さん)や、YMOの「バレエ」のカヴァー、大沢誉志幸さんの「そして僕は途方に暮れる」のカヴァー(なんとインスト!)などなど、テクノ・ポップ・マニア泣かせな佳曲が並びます。ぜひ。

Dr.Looper

Profile

1979年よりレコードを買い始め、その魅力に取り憑かれたまま今に至る。1990年から1998年までRHYMESTERに参加。現在はROCK-Tee(ex.East End)とL-R STEREOとして活動中。

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