Dr.Looper / 2019-09-03

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TIME'S UP / A DAY IN THE LIFE

O.C. / LES DEMERLE - TIME'S UP / A DAY IN THE LIFE

ヒップホップとその元ネタをカップリング・リリースする5 Borough Breaksの第20弾!

7" |  ¥1,650 |  5 BOROUGH BREAKS (UK)  |  2019-10-15 [再]  | 
本名のOmar Credleから「O.C.」と名乗るようになったラッパー、そのデビュー・シングルを初めて聴いたのは、1994年のことだったと思います。今も昔もレコ掘りにかけては全世界的なプロップスを集めるD.I.T.C.(Diggin' In The Crates)の一員であり、Organized Konfusionの"Fudge Pudge"(1991年)への客演で初めてラップを録音、同曲のO.C.のバースを評価したMC Searchが当時副社長を務めていた名門レーベル、Wild Pitchからデビュー。という文句のつけようのない経歴を持ち主の登場に、いよいよ自分たちと同世代のラッパーにスポットが当たる時代が来たな、とワクワクしたのを覚えています(O.C.はMummy-DやEast Endの3人と同学年でした)。しかもデビュー曲は「人は死ぬのに、何故生まれるのか」という、重いながらも極めて普遍的、哲学的なテーマであり知性を感じさせるものでした。そしてその後、今回7"化されたこの2nd.シングル曲を初めて聴いたときは、そのあまりのシンプルなプロダクションに驚いた記憶があります。重厚なネタのフレーズはほぼそのままに、わずかにドラムを足した程度のシンプルな作りで、こちらはヒップホップ史上屈指の「録音チャンネル数が少ないバックトラック」と言えるかもしれません。ちなみに足されているスネアはLou Donaldsonの"Ode to Billie Joe"のものだと思うのですが、みなさんにはどう聴こえますか?プロデュースは同じくD.I.T.C.所属のトラックメイカーBuckwildで、もともとはPharoahe Monch(Organized Konfusion)用に作られたトラックとのこと。引用元は本盤のB面に収録されている、Les DeMerleによるThe Beatlesのカヴァーでした。当時このネタを教えてくれたのはDJ Jinで、彼は例の虹色がかった1st.アルバム『Spectrum」(1969年)を早々と入手していたので、実に羨ましかったことを覚えています。それ以来、名前からしてなんとなくフランス人ジャズ・ドラマーだと思い込んでいたのですが、調べてみたらNYブルックリン生まれのアメリカ人で、トランペット奏者Harry Jamesが率いたビッグバンド出身の人のようです。自分と同じく、多くのヒップホップDJはこの曲で初めてLes DeMerleの名前を知ったと思うのですが、実はかのDJ Shadowが、Les DeMerleの3rd.アルバム『Transfusion』(1978年)の収録曲"Moondial"のドラム・ブレイクを、1993年の"Entropy"で引用していた、と後で知りました。おそらくそれがLes DeMerleの楽曲を初めてサンプリングした例だと思われます。掘り師たちがしのぎを削っていた、インターネット以前の時代のお話。ちなみにA面"Time's Up"は2008年に謎のレーベル米Takeshi Recordsから1度だけ7インチ化されているようですが、未所有ですし、そもそも12インチと同じヴァージョンかどうかすら分かりません(※注:Samon Kawamuraによるリミックス・ヴァージョンのみの収録でした)。ということで、今回の7インチ化を待ち望んでいた方は多いのではないでしょうか。B面は2018年に日本のP-Vineからリリースされて以来、2度目の7インチ化となります。
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MISDEMEANOR / YOU'RE GONNA NEED ME

AHMAD JAMAL / DIONNE WARWICK - MISDEMEANOR / YOU'RE GONNA NEED ME

ヒップホップ・ネタとしても知られるAhmad JamalによるFoster Sylversの名曲メロウ・インスト・カヴァー!!

7" |  ¥1,350 |  GALAXY SOUND COMPANY (USA)  |  2019-09-12 [再]  | 
なんでこの2曲の組み合わせなのか?かなり真剣に5分ほど考えたのですが、答えは出ないまま書き始めてしまいましょう。(A面)はご存知Ahmad Jamalが20th Centuryに残した珠玉の4枚のアルバムのうちの、旅行トランクのジャケットが印象的なアルバム『Jamalca』(1974年)の収録曲、"Misdemeanor"が今回(おそらく)世界初の7インチ化です。DJ PremierがGang Starrの"Soliloquy of Chaos"(1992年)で引用したことで有名ですが、実はFoster Sylversのカヴァーであると気付いたのはそのしばらく後のことだった、とここに告白しておきます。同アルバムには他にも、同じくGang Starrの"The Illest Brother"(1992年)で引用された元曲の方も収録されていますし、機材が電気化して以降の時期のAhmad Jamalによる演奏も素晴らしいアルバムですので、ぜひ一度お聴きになることをお勧めします。こんなに素晴らしいアルバムなのに、2019年8月現在に至るまで何故かCD化すらされていないのですが。B面は、"(I'm) Just Being Myself"のオリジナル盤7インチが中古市場で高騰している"You're Gonna Need Me"(オリジナル盤のカップリング曲)が待望の再発。Burt Bacharach~Hal Davidコンビとの蜜月に終止符を打ち、心機一転で新たに組んだ相手は、Lamont Dozierと、BrianとEddieのHolland兄弟の3人によるプロダクション・チーム、Holland–Dozier–Holland(以下H-D-H)でした。こんなに素晴らしい楽曲を残したH-D-Hですが、この直後に各々のソロへの転向をきっかけに空中分解。本曲はプロダクション・チームH-D-Hのキャリア終盤のプロデュース作品となります。J Dillaが遺作『Donuts』に収録した"Stop"で思いきり引用したこともあり、再評価の機運が高まったのだと思いますが、もちろん原曲の素晴らしさがあってこそ。謎の組み合わせによるカップリングですが、A/B面どちらの曲も佳曲ですので、ぜひ。
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THE BIG BEAT / GIMME WHAT YOU GOT

BILLY SQUIER / LE PAMPLEMOUSSE - THE BIG BEAT / GIMME WHAT YOU GOT

ブレイク・クラシックをリエディットするBreaks & Beats第12弾!!

7" |  ¥1,850 |  BREAKS & BEATS (UK)  |  2021-08-31 [再]  | 
大学生時代に所属していたサークルでは、学園祭の時期になるとディスコを催していました。DJ周りの機材は自分たちで持ち込み、壁紙を貼って内装にも凝るというハンドメイドな即席ディスコではありましたが、松下電器に就職した先輩のご厚意のおかげでRAMSAのPAセット一式が用意されたこともあり、音響面に関しては相当本格的でした。毎年最終日はDJのJAMさんこと細田さんたち大先輩方が盛り上げて、大トリは現役生の中で最も有力なDJが務めていたのでした。1993年の学園祭にて大トリを務めたDJはMummy-Dこと坂間兄で、当日たまたまブースの傍にいた自分は、片耳だけヘッドフォンをして苦悶の表情を浮かべている彼を目にしたので思わず「どうした?」と訊いてみると、彼曰く「もう掛ける曲がない・・・」とのこと。その時の状況的には確かに、世間一般的なヒット曲のみならず、そのサークル特有のアンセムと言いますか、Parliamentの"Flash Light"やShockの"Let's Get Crackin'"、The Junkyard Bandの"The Word"といった「トドメの一曲」が全て発射され尽くされた後だったのです。それで自分は咄嗟に「"Here We Go"は・・・?」とRun DMCのライヴ曲を勧めてみたのですが、彼は一瞬「え?」という顔をしながらもそのレコードを探し出し、やや首をひねりながら頭出しをしたのでした。その前に彼が何を掛けていたのかは忘れてしまいましたが、冒頭の2人の煽りからJam Master Jayがビートを出したその瞬間、母校の大学の11号館全体が大きく揺れたのでした。あの曲であれだけ盛り上がるとは・・・それは正に異様な光景だったのですが、そこに何らかのヒントを得た我々は、それから間もなく、その"Here We Go"のスタイルを踏襲する形で、Billy Squierの"Big Beat"を2枚使いしながらオーディエンスを煽る、例の「RHYMESTERがライブしにやってきた どこに来た」のライヴ・ルーティーンを完成させたのでした。ただ、あまりにもそのライヴ・ルーティーンの印象が強すぎたということなのか、日本の他のラップ・グループが"Big Beat"でキックする場面を、目にすることがほとんどありません。ということでこの強烈なドラム・ブレイクを、オーセンティックなスタイルで再現するグループがもっと増えたらいいな、という期待があります。また、このルーティーンが完成した当初こそ『Ultimate Breaks Beats』の9番("Big Beat"以外にも"U.F.O."や"Long Red"、"Seven Minutes Of Funk"といったブレイク曲が収録されている、シリーズ屈指の使える一枚)を使用していましたが、2回目か3回目のライヴ以降は、すべてBilly Squier名義の"Big Beat"の12インチ・シングル2枚を使い続けており、その異様なまでにストイックなDJ Jinの拘りに対しても、この機会に改めて敬意を表しておきたいと思います。12インチにせよ7インチにせよ、"Big Beat"のオリジナル盤はかなりレアなので、今回の再発を待ち望んでいた方も少なくないはず。ちなみに余談ですが、その学園祭の即席ディスコの脇にあったテラスでアカペラ・コーラスを披露していた学生たちは、その何年か後にゴスペラーズという名前でメジャー・デビューすることとなります。
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LOOK AT ME / MYSTERY OF LOVE

ROY AYERS UBIQUITY - LOOK AT ME / MYSTERY OF LOVE

Roy Ayers Ubiquityによる日本盤オンリーのレア盤が初の再発!!

7" |  ¥2,090 |  POLYDOR (JPN)  |  2019-11-03  | 
『月光仮面』はさておき、『レインボーマン』や『コンドールマン』はリアルタイムで観ていた世代ですので、川内康範といえばかなり政治思想の強い脚本家というイメージがありました。分かりやすい単純な勧善懲悪ヒーロー物ではなく、悪者にも道理があることを描いたその独特な世界観には、幼心にも「他の悪者たちとは何かが違うな」と違和感を感じていたものでした。なんたって名前からして「死ね死ね団」ですからね。一方作詞家としては、当時の全日空羽田沖墜落事故の現場で見た光景を元に書いたと言われる「骨まで愛して」(1966年)や、森進一の大ヒット曲「おふくろさん」(1971年)あたりからも窺えるように、いかにも昭和歌謡的というか、情念剥き出しの詞を書くイメージがあります。また、正義感が強く決して妥協を許さない、きっと敵にしたら面倒くさい、言わば「穏やかな梶原一騎」的なイメージもあります。そんな川内康範とRoy Ayersがタッグを組んでいたと聞くと、なんとなく時空や空間のねじれを感じざるを得ないし、歴史の捏造ではないかという気さえしますがこれは紛れもない事実で、どうやら前年1976年に出たアルバム『Vibrations』がヒットしたRoy Ayers Ubiquityを、ここ日本でも大きく売り出そうという流れの中での企画だったようです。2人を引き合わせたのは、共通の友人であり当時N.Y.在住だった神保祥子さんという女性だそうで、なんと川内康範本人がアメリカに出向いて直にRoy Ayersと打ち合わせ、やり取りしながら作詞したとのこと。このレコーディングの前年に彼が作詞した有名曲が「にっぽん昔ばなし」ですから、作詞家としての幅の広さには本当に驚かされます。しかも、Roy AyersがナイジェリアのFela Kutiとのコラボレーションを形にするのに先駆けて、その3年前には日本人とも音楽作品を作っていたとは・・・。この曲は日本盤オンリーの収録曲であり、長らくのあいだ知る人ぞ知る存在でしたが、その日本盤のカップリング曲"Mystery of Love"が、英BBEから出た未発表曲集『Virgin Ubiquity (Unreleased Recordings 1976-1981)』(2013年)に収録されたことを通じて、世界中に広く知られるようになりました。ちなみにA面に収録されている"Look at Me"ですが、今回が初のアナログ再発になると思われます。ところで、オリジナルの日本盤シングルの存在を教えてくれたのは、実は亡きDev Largeでした。「ルーパー、Roy Ayersの日本盤オンリーの7があるの知ってる?ヤバいよ」そういってニヤリと笑ったのです。あれから十数年。とりあえず今日もレコード屋へ行ってみよう。生きているだけで感謝しなければ。唐突な締めですが、何卒お許しください。
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サウンドポエジー・サチオ

三保敬太郎と彼のグループ - サウンドポエジー・サチオ

和製モンド・ラウンジ名盤が初のアナログ・リイシュー!

LP |  ¥4,180 |  日本コロムビア / JET SET (JPN)  |  2021-11-15 [再]  | 
前から行こう行こうと思っていて、結局行けないままにふと気付くともう何年も経ってしまっていたレストラン、というのが誰にでも一軒ぐらいあるものだと思いますが、自分にとってのその筆頭は、飯倉片町のキャンティかもしれません。高校生時分から憧れの店で、いつかは地下にあると言われているテーブルに着いてみたいと思っていましたし、この店がなかったらアルファ・レコードは存在してなかったかもしれないというぐらい、偉大なレストランでもあります。想像でしかないのですが、キャンティの印象を一言で書くならば「退廃的な硬派」という感じでしょうか。今でも3日に1回ぐらいはこの店の前を通っているというのに、気が付けばこの歳まで一度も訪れることはありませんでした。思い当たる理由は一つ。自分の父親の存在です。1970年代にキャンティから交差点を渡って六本木へ向かってほどなく、今は輸入家具店がある辺りにマックロウというビストロがあり、その店は父親にとって馴染みの店でした。そのお店によく父親を迎えに行ったものですが、そこに当時モンちゃんという女性がいて、父親に対してやけに馴れ馴れしかったこともあり、子供ながら複雑な気持ちでそのやり取りを見ていたのを覚えています。そしてそのすぐ傍に、キャンティという有名店があることも父親は知っていたようですが、仕事柄イタリアと日本を行き来していた彼にとって、日本で食べるイタリア料理というものは、さほど魅力的ではなかったようです。キャンティはまごうことなき名店ですが、イタリア料理のお店であることは、イタリア帰りの家族にとってある意味不幸なことでした。もし我が家がアメリカ帰りだったならば、特に抵抗なく家族で訪れていただろうし、その時期に沢山来店していた、まるで現人神のような1970年代のレジェンドたちに会うことが出来たのかもしれません。そう、キャンティは自分にとって今もなお「神々の店」なのです。かなり脱線したので話を戻しますが、本作はその「神々の店」で出会った、2人の男による友情の軌跡が記録されています。福澤諭吉の曾孫でギリシャ人の母を持ち、レーサー兼ファッション・モデルでもあった福澤幸雄と、前田憲男や山屋清との「モダンジャズ3人の会」や、「11PMのテーマ」の作曲者であり、近年「ゲット・マイ・ウェイブ」も再評価されているジャズ・シンガー、宮崎正子の夫として知られるピアニストの三保敬太郎。福澤幸雄は1969年、サーキットでのテスト走行中に事故を起こし25歳の若さで急逝したのですが、その追悼盤として発表されたのが本作です。しかし三保敬太郎の方もその十数年後、1986年に不慮の転落事故により51歳で亡くなりました。そういえばあの伊丹十三が飛び降り自殺をしたのも、キャンティから目と鼻の先でしたっけ。最近ではムッシュかまやつも亡くなりました。今もこうして天に召されていく神々たち。今はご健在な加賀まりこや北野武、松任谷由実も、決して例外ではないというか。いつまでもうかうかしていると、どんどん畏れ多い店になっていってしまう。しかし現時点でもう既に畏れ多すぎる・・・こうしてまたキャンティから足が遠のいてしまうのでした。

Dr.Looper

Profile

1979年よりレコードを買い始め、その魅力に取り憑かれたまま今に至る。1990年から1998年までRHYMESTERに参加。現在はROCK-Tee(ex.East End)とL-R STEREOとして活動中。

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