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Dr.Looper / 2019-11-06
1
SOUL SURFERS - SUMMER MADNESS PT.1 & 2
人気ロシアン・ファンク・バンド新作7インチは、Kool and the Gangカヴァー!!
現行グループの中でも特に素晴らしいリリースを続けているので、前々からここで取り上げようと思っていたのですが、なにせグループについての知識が乏しいこともあり、しばらくは書くのをためらっていました。そんな中リリースされた本盤があまりに素晴らしかったので、この機会に思い切って取り上げてみます。高校時代に結成されたというロシアの4人組バンドThe Soul Surfersは、2011年にシングル"Garcia Brother"でデビューした後、デトロイトのFNR(Funk Night Records)を中心に、8年間で20枚以上の7インチをリリース。2015年にサンフランシスコの名門Ubiquityからリリースされたデビュー・アルバムには、カリフォルニアのソウル・デュオMyron and Eや、英ニューイングランド出身のファンク・ユニットSmoove + Turrellなども参加していました。それまではオリジナル曲のリリースが多かったThe Soul Surfersですが、"Tribute to J.B.'s"(2018年)あたりからカヴァー曲もシングル・カットするようになり、ついにはKool & the Gang永遠のサマー・アンセム"Summer Madness"をカヴァー、そちらの7インチ・シングルが本盤というわけです。3分あたりで一度曲が終わるとみせかけて、Igor Zhukovskyが叩くドラムブレイクで再びテーマに戻る、という構成がとにかく素晴らしいのですが、もう少しキーボードの音色やエフェクトに気を遣ってくれればさらに最高だったかも・・・などと贅沢に思ったり。意外なことですが"Summer Madness"のカヴァーというのは何気に少なくて(WhoSampledにも4曲しか登録されていませんでした)、カヴァー曲として実は痒いところに手が届くセレクトだったと言えるでしょう。UK盤シングルのジャケットをサンプリングしたデザインや、De-Liteを模したレーベル面にも、思わずニヤリとさせられます。
2
DEXTER WANSEL - LIFE ON MARS
Dexter Wanselによる'76年リリースの初ソロ・アルバムから厳選4曲を抜粋!
レアグルーヴ方面だけでなく、最近は映画のサントラ楽曲など、再発7インチ盤のリリースをあいかわらず精力的に続ける英Dynamite Cutsから、またしても『Ultimate Breaks & Beats』(以下『UBB』)関連盤が登場。英Octoposseからの再発盤が今年の1月に、そしてJorun Bombayによるエディット・シングルが5月に出ていますから、"Theme from the Planets"絡みという括りでは、7インチが今年だけで実に3枚もリリースされている、ということになります。1950年生まれのDexter Wanselは、20歳で陸軍を名誉除隊した後に、シンセサイザーのプログラマーへと転身。そのプログラマーとしての勤め先が、フィリー・ソウルの聖地として有名なかのシグマ・スタジオだったのですが、ここでEMS社製のVCS3(The Putney)や、Arp社製の2600Vのプログラマーとして、音楽人としてのキャリアをスタートさせることになります。そのスタジオで録音された4つ打ちを基本としたリズムと、流麗なストリングスが特徴の、誰しもが踊りやすいソウル・ミュージックが後に世界的なブームとなり、O'JaysやThe Spinners、The Stylesticsといった大御所たちも同スタジオに引き寄せられてくることになったわけです。自身でそうした風を起こしつつ、自らもその追い風に乗ったDexter Wanselは、1970年代の半ばからはキーボーディストとしても活動を始め、Instant Funk、Yellow Sunshine、MFSBといったバンドに関わりました。1977年にはLou Rawlsをプロデュースしたアルバム、『Unmistakably Lou』でグラミー賞を獲得。MFSB Orchestraの指揮者として、ホワイトハウスでタクトを振ったことも知られています。本盤のB面曲"Theme from the Planets"は『UBB』シリーズの10番に収録されており、そのイントロのドラムブレイクは、これまで実に250以上もの曲でサンプリングされています(WhoSampled調べ)。かのWeather Reportにも一時期だけ所属することになるドラマーDarryl Brownが叩く、スネアロールが特徴的なドラムブレイクですが、『UBB』10番ではご存知のとおり、オリジナルの回転数の33rpmを敢えて45rpmの早回しにした形で収録されています(そこまでやっておいてオフィシャル盤だと言い張る『UBB』も、なかなかに凄いと思うのですけれど)。という事情もあり、本盤をそのまま再生してみたところで、あの『UBB』10番に収録されている状態のドラムブレイクは再現できない、と思われますがそこはあしからず。
3
SERGE GAINSBOURG - MELODY NELSON
'71年リリースの傑作『メロディ・ネルソンの物語』より未発表インスト音源が7"にて登場!
Jane Birkinの"Love for Sale"という曲をご存知でしょうか。フレンチ・ポップ屈指の美女ジャケットのアルバム、『Lolita Go Home』(1975年)にひっそりと収録された一曲で、もともとは1930年にブロードウェイで上演されたミュージカル、『The New Yorkers』の劇中曲が初披露だった、Cole Porter作詞、作曲のスタンダード・ナンバーです。1952年にBillie Holidayが最初にレコーディングして以来、数多のシンガーにカヴァーされてきましたが、特にJane Birkinのヴァージョンが秀逸で、自分にとっても彼女の曲の中で一番好きなのは文句無しにこの曲でした。プロデュースは彼女の当時のパートナーだったSerge Gainsbourgで、彼が残した膨大な音源の中には、レアグルーヴ視点でチェックした場合に、ごく稀に驚くほどファンキーな曲も含まれているのですが、なにしろGainsbourgがあまりにも多作過ぎて、その中から掘り当てるのが結構大変だったりもします。音楽の流行を敏感に感じ取ったり、楽曲のアレンジを極端に変えてしまったり、ビジュアル戦略にも拘ってみたりと、アーティストとして同じタイプといえばDavid BowieやRobert Palmerあたりを連想しますが、とにかく天の邪鬼で、敢えてタブー表現することで確信犯的に物議を醸す(例えば前述の"Love For Sale"も、売春を肯定的に扱ったことが理由でアメリカでは放送禁止になった曲であり、敢えてそういう曲をカヴァーした訳です)という、コンプライアンスの対極に位置しようとする点においては、その反骨精神や思想的なスタンスも含めて、Serge Gainsbourgが唯一無二の存在だったと言えるでしょう。本盤は、パートナーの女性であるJane Birkinの上半身を裸にして、子供の人形で隠す(因みにそのとき彼女は彼の子供を妊娠中)という衝撃的なジャケットでもおなじみのアルバム、『Histoire De Melody Nelson』(1971年)のレコーディング時の未発表音源で、内容は恐ろしくヘヴィなジャズファンクとなっています。レアグルーヴ・マニアの方はぜひ。
4
NAS - IT AIN'T HARD TO TELL
名盤デビュー作『Illmatic』からの人気シングル曲が7"で登場。B面にはインストも。
1998年の冬に、NHKの番組の仕事でニューヨークを訪れた時の話。NASDAQやNFLでの取材や撮影も順調に終わり、最終日に慰労も兼ねて、5、6人のスタッフで高級シーフード・レストランにて打ち上げを行うことに。ボストンから直送された最高級のロブスターを食べさせてくれるというその有名店へ向かうと、そこは薄暗い店内に高級インテリアが並ぶ、まるで映画『ゴッド・ファーザー』に出てくるようなシチュエーションで。主催してくれたユダヤ人のコーディネーターの、「ロブスターは右利きが多いが、たまに左利きがいるんだ」みたいなどうでもいいウンチクをぼーっと聞きながらふと隣の席に目をやると、こういう場所には珍しい黒人客の御一行の姿がいて。しかも全員がキャップやニット帽を被り、MLBシャツやジャンパーという、明らかに場違いな格好ではありましたが、彼らは別段大騒ぎをするわけでもなく、ときおり会話を挟みながら、ただ黙々とロブスターを食べていたのでした(むしろこちらのグループより行儀が良いぐらいでした)。その輪の中心でつまらなそうな顔で話をする青年がいたので目を凝らしてみると、なんとNas Escobarその人ではありませんか。心の中で思わず(あっ!)と叫んでしまいました。当時のNasはまだ20代半ばだったはずですが、年不相応に落ち着き払ったその存在感たるや。その場にいるメンバーをゆっくりと気遣いつつ見渡しながら、低い声でまるで何かを諭すように話す姿はなんとも強烈な光景で、今でも脳裏に刻み込まれています。アメリカで成功した黒人アスリートやミュージシャンが、家族や従兄弟など身近な人間たち全員を食べさせる、という話はよく耳にしますが、まさにその生の光景を目の当たりにした訳です。N.Y.を拠点に活動して成功するというのは、正にこういうことなのかと、そのときは嘆息しきりでしたが、90年代当時旬だったN.Y.のヒップホップ・プロデューサー達が一堂に会した、彼の1st.アルバム『Illmatic』(1994年)は,
確かに圧倒的なインパクトであり、それは紛れもない事実です(一方でNas自身は皮肉にも、その後長らくその呪縛に悩まされることになる訳ですが)。そのあまりにも出来すぎだったデビュー作の最後を飾ったのが、今回初めて7インチ化されたこちらの"It Ain't Hard to Tell"です。60~70年代のソウルやファンクをサンプリングするケースが大半だった当時において、Michael Jacksonの"Human Nature"という80年代の楽曲を引用する発想自体が新鮮でしたし、そのキラキラとしたさざ波のようなコーラス・フレーズのループと、モノリスのように分厚く立ちはだかる、オクターブ・ダウンされたサイン波のベース、そしてフック部分にて咽び泣く"N.T."のサックス、それらの組み合わせの妙が完璧過ぎて、同時代のビートメイカーとしては、正直嫉妬さえ覚えたものです。プロデューサーであるLarge Profesorのセンスや制作手法といい、クリスピーな音の鳴りといい、まだ若々しくも哲学的かつテクニカルなNasのライミングといい、その全てが正にヒップホップそのもの。この曲がアルバムの最後に収録されていることもまた、『Illmatic』が名盤たる所以の一つであるというのは、今更疑う余地もないでしょう。
5
DARONDO - LISTEN TO MY SONG / DIDN'T I
Gilles Petersonも愛するソウル~ファンク・シンガーDarondoの名曲がリイシュー!
サンフランシスコの老舗レーベルLuv N' Haightから、Darondoのデビュー・シングルがオフィシャルで再発。「ピンプな(≒ストリートに精通した)Al Green」との異名を持つこのベイエリア出身のシンガーは、そのAl Greenと同じく1946年に生まれ、弱冠18歳でプロのギタリストになります。しかし歌手としてのレコード・デビューはそこからかなり遅れて27歳のとき。打ち出しのコンセプトには、Al GreenやThe Dellsなどに象徴される「オーセンティックなソウル」と、「ストリートのソウル」の融合、つまりはゴスペル・クワイアが教会から飛び出し、1950年代頃から一般化して街角で歌われるようになったドゥ・ワップのイメージがあったそうです。ところが残念なことに商業的には芳しくなかったようで、70年代の後半には音楽ビジネスから離れて、ケーブルTVのパーソナリティや、セラピストに転身してカルト・パフォーマーとしても活躍したそうです。最初にDarondoの楽曲が再評価されるきっかけになったのはおそらく、1993年に英Goldmineからリリースされたコンピレーション『The Sound Of Funk Vol.2』に、本盤のA面曲"Listen to My Song"が収録されたことでしょう(このコンピのシリーズはその後Vol.10まで出るヒット作となりました)。その数年後、今度は本盤B面収録の"Did't I"が、英Counterpointレーベルからのコンピレーション『Freedom Time』に収録、同時期にGilles Petersonが自身のBBCラジオの番組内で取り上げたことで広く知られるようになったのですが、その人気や再評価が決定的となったのは、この7インチと同じくLuv N' Haightからのリリースだったコンピレーション、『Gilles Peterson Digs America』(2005年)への収録でした。Vic MensaやBig Sean、Ali A$など、この曲のサンプリング例が2005年以降に偏っているというのは、恐らくそのためでしょう。またヒップホップ・フィールドの外でも、TV映画『Breaking Bad』でJack Peñateによるカヴァーが使用されたり、2015年にはHonneが、翌2016年にはMax Popeがカヴァーするなど、素晴らしいヴァージョンが続々と登場したのですが、いかんせん歌詞の内容が「後悔ばかりを繰り返す男の失恋ソング」なもんですから、アコースティック・ギターを全面に押し出しつつ、じんわりと盛り上がっていく原曲の素晴らしさには、とてもじゃないけど敵わないとこの際断言してしまいましょう。結局ソウル・シンガーとしてはわずか3枚のシングルしか残せなかったDarondoですが、リリースから40年後に突然巻き起こった自身のデビュー曲への再評価を見届けた後に、2013年に亡くなりました。これはこれで、アメリカン・ドリームの一つの形なのではないかと思います。
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