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Dr.Looper / 2019-12-07
1
DEXTER WANSEL - LIFE ON MARS
Dexter Wanselによる'76年リリースの初ソロ・アルバムから厳選4曲を抜粋!
今月はまずは訂正から。先月2枚目にご紹介したDexter Wanselの7インチ盤について。まだ現物を入手する前だったので、「本盤をそのまま再生してみたところで、あの『UBB』10番に収録されている状態のドラムブレイクは再現できないと思われます」と書きましたが、実際に入手して確認してみたところ、なんと33rpmから45rpmにピッチを早めて、つまり、『UBB』と同じスタイルで収録されており、33rpmで再生するとオリジナル・ヴァージョンになる、というのが正確でした。通常であればレーベル面に回転数が明記されているはずが、どこにも「45rpm」とは明記されていないので、そこはもう意図的な仕様だと思われます。ということで、先月のチャート内の該当の箇所については、「本盤はオリジナルのピッチを早めたヴァージョンで収録されていますので、明らかにヒップホップ系7インチDJをターゲットにしたレコードだと思われます」という形に訂正させて頂きます。失礼いたしました!
2
BLACK CASH & THEO - THE VULTURE / GET TOGETHER
Labi Siffreの人気曲"The Vulture"をエディットしたSide-Aに注目!
毎度カップリングが面白いGalaxy Sound Companyの7インチ、今回の新作はLabi SiffreとThe Metro-Tones, Incの楽曲です。ナイジェリア人の父とイギリス人の母の子として、1945年にロンドンに生まれたLabi Siffreは、タクシー運転手や配達員で生計を立てつつその後フランスへと渡り、カンヌでギタリストとして音楽活動を始めました。1960年代の後半にイギリスに戻ってからは、再びロンドンを拠点にシンガーとして活動したようです。当時のロンドンで黒人系シンガーが音楽を生業とする大変さを想像すると、「UKソウル・シンガーの先駆け」などといった簡単な言葉だけでは決して言い表せないかもしれませんが、彼の場合は幸運にも、映画『The Tall Guy』(1971年)の挿入歌として採用された"It Must Be Love"がヒット(ちなみにその10年後となる1981年には、同曲を2トーン・スカのバンドMadnessがカヴァーして、そちらもヒットを記録しました)。そこから28年が経過した後、1999年に彼の"I Got The..."という曲がいきなり脚光を浴びることとなります。あのEminemの大ヒット曲"My Name Is"にて、前述の曲の中盤に出てくる印象的なエレクトリック・ピアノのブレイクが、大胆に引用された為です。90年代の中頃に、フリーソウルの文脈で再評価され出していましたが、その後にそうしたトピックが続いたこともあり、本人も2006年のアルバム・リリースまで、現役のシンガーとしてそのキャリアを延長し続けることになったようです。今回の7インチ盤に収録されているのは、その"I Got The..."と同じく1975年リリースの、彼にとっては6枚目となるソロ・アルバム、『Remember My Song』の収録曲"The Vulture"。イントロのドラム・ブレイクから、本編に入るとともに流麗なストリングスが聴こえてくる、エヴァーグリーンな良質ソウル・ナンバーです。どことなくですが、彼と同じく1945年生まれのソウル・シンガー、Leroy Hutsonの名曲"All Because Of You"に通ずるものがあると感じてしまうのは、果たして自分だけでしょうか。いずれの曲も、聴いていると思わず泣きたくなるような、とても素晴らしい曲です。ちなみに"The Vulture"のオリジナルでは4小節しかなかった冒頭のドラムブレイクですが、本盤ではエディットされて16小節となっています。一方のB面収録の曲は、アトランタ出身の4人組ファンク・グループ、The Metro-Tones, Inc.のアルバム・タイトル曲(1973年)で、つんのめったフィルも印象的なローテンポ・ファンク"Get Together"。アルバムのLPの方はめったにお目に掛かることのできない、正にレア・グルーヴと呼ばれるにふさわしい一曲です。こちらもA面と同様に「Edit」と表記されてはいますが、どう聴いてもオリジナルのままなんですよね。ともあれ、例によって謎のカップリングではありますが、両面とも最高です。
3
AUDIO TWO - TOP BILLIN
First Rriority所属のMilkとGizmoの兄弟デュオによる代表曲にして名曲中の名曲が7"で再登場。
定番ドラムブレイクとして知られる"Impeach The President"(1973年)は、基本的に1小節ループで使用されることが多いですが、敢えて同ブレイクの頭の2拍のみをチョップで使用して(正確には、1拍目のキックとその裏のハイハットまでの箇所と、2拍目のスネアとその裏のハイハットまでの箇所のサンプルを、ゲートタイムの長短も使って組み換えて使用しているのかと)、スネアの数が半分、取りようによっては半分のbpmの16ビートにも聴こえる、変則的で強烈に耳に残るパターンでドラムを組み、そこにStetsasonic"Go Stetsa I"(1986年)で飛び出す「Go Brooklyn!」のガヤのループを被せただけで完成しているのが、こちらの名曲"Top Billin'"のビートです。構造自体は実にシンプルながらも、誰も思いつかないような天才的な閃きによって生まれたこのビートのパターンはきわめて特徴的であり、ゆえにこれまで実に300曲近い曲でサンプリングされてきたとも言えます(WhoSampled調べ)。また、元々ドラムブレイクからのサンプリングされたビートなのに、その組み直された方のビートがまたサンプリングされるという、あまり他に類を見ないケースだとも思います。プロデュースはAudio Twoの2人と、前述のStetsasonicのメンバーDaddy-Oであり、そのStetsasonicといえば、今でこそ「サンプリングの魔術師」ことPrince Paulがかつて在籍したヒップホップ・バンドの元祖として有名ですが、実はラッパーながらDaddy-Oのプロデュースの手腕は優秀であり、後にCookie CrewやThe Black Flamesを手掛けたことも広く知られています。「早すぎたQ-Tip」と表現すると、そのニュアンスが伝わるでしょうか。もちろん、ヒップホップ史に刻まれる名曲として昔から有名な曲ではありましたが、サンプリング・ネタとしての価値をグッと引き上げたのはやはり、Mary J Bligeのヒット曲"Real Love"(1992年)ではなかったかと思われます。ヒップホップとR&Bが急速に接近していったこの時期に、いわゆる「歌モノ」にヒップホップ的な要素を注入する過程において、"Top Billin'"のドラムが「ヒップホップ印」として使われた意味は、実に大きかったと思います。1998年にはAudio TwoのラッパーMilk Deeが、元レーベルメイトのMC Lyteと共に"Top Billin'"のセルフ・リメイクを制作しましたが、そちらはMC Lyteのアルバム『Seven & Seven』の方に収録されていますので、気になる方は是非一度チェックを。ちなみに、Audio Twoや前述のMC Lyteも所属していたAtlantic傘下のレーベル、First Priority Musicからリリースされた"Top Billin'"の7インチ盤には、レーベル面が赤いものや青いものなど数種類存在していますが、いずれのタイプも中古市場では相場が高騰したままでしたので、久々となる今回の7インチ再発を待ち望んでいた方も何気に多いはず。しかも今回はB面にインストまで収録されています。
4
DENDAN - DON’T PLAY / DB
Big L、Keith Sweat、Faze-Oを使ったスウェーデンからのキラー7"!!
2000年代の初頭にKOHEI Japanと話していたら、当時彼が作っていた曲でFaze-Oの"Riding High"(1977年)をネタとして使うと聞いて、軽く驚きつつも改めて感心した記憶があります。よく考えてみたら"Riding High"というのは不思議な曲で、EPMDが"Please Listen My Demo"(1989年)で思いきりそのまんまのフレーズを使用して以来、大ネタ、有名ネタとして扱われてはいましたが、実際の使用例としては(特に国内では)それほど多くなかったはずで。そんな中でも特にはっきりと覚えているのは、初期のEAST ENDがライヴで2枚使いしていたこと。確かそれで「宿題」という曲を演っていた気がします。もしかしたらKRUSH POSSEも使っていたかもしれないけど。でもせいぜいその2チームぐらいで、あとは正直全く思いつきません。本場USのヒップホップの曲でも、実は意外なほどに使われていなかったので、大ネタながらなかなかいいとこ付いてくるなあ、という意味で、KOHEIのセンスや着眼点に対して、そのとき思わず感心したのでした。ところで当時2枚使いしていた前述のグループは、一体どのレコードを使っていたのでしょうか?オリジナルはLPと7インチだけ。でも当時、その7インチ盤は国内に果たして何枚あったのか?というレベルだったはずだし、ということはLPで?いや、当時はLPもそこそこレアでしたしね。ということは白盤でしょうか。Discogsで調べた限りでは、もしかしたら当時よくレコード屋に並んでいた『Mastercuts』のコンピレーションだったのかな?と今更ながら想像してみたり。そんな感じで記憶を辿れば辿るほど、当時から気に掛かっていることが次から次へと出てきて、本当に謎が尽きません。さて、スウェーデンから突如届いた本盤のB面曲"(dB)"は、そんな大ネタ曲"Riding High"を引用した極上のヒップホップ・トラック。過度のコンプに、咳き込むような低音のスモーキーさ加減。かなり凄い鳴りなので、ぜひアナログ盤で聴かれることをおススメします。
5
はっぴいえんど解散後から慢性的なヴォーカリスト不足に悩まされつつも、The Three Degrees「ミッドナイト・トレイン」のヒット(1974年)という実績のあった細野晴臣さんは、「外国人シンガーを日本でプロデュースして海外で当てる」という、壮大なプロジェクトに取り掛かります。パトロンは当時まだ新興レーベルだったアルファ・レコード。その顔であるプロデューサー村井邦彦さんと細野さんの2人は、1977年1月にロサンゼルスへと渡米します。現地オーディション(!)では細野さんが受けた天の啓示により、クレオールのシンガーが探された、とのこと(ここで言うクレオールとは、例えばかつてフランス領だったニューオーリンズに多い「フランス人とアフリカ系アメリカ人の混血児」という意味)。ということで、ニューオーリンズ・マナーのセカンドライン・ファンクはもちろん、当時好きだったというDr. Buzzard's Original Savannah Bandの無国籍さも、きっと頭の片隅にはあったはず。そうした思惑のなかで出会ったのが、Linda Carriereという女性シンガーでした。村井さんの第一印象としては「田舎のお姉ちゃん」だったそうですが、すぐさま契約が結ばれて、1977年2月末から日本の芝浦アルファ・スタジオにてレコーディングが始まります。この時期の細野さんはスタジオ・ミュージシャンとしても多忙であり、このオーディションとレコーディングとのインターバルにあたるわずか1か月の間に、山下達郎さんのアルバム『SPACY』(1977年)の冒頭を飾る"Love Space"にベーシストとして参加、録音されています。スタジオ・ミュージシャンとしても、ヘッド・アレンジ・チームの核としても、まさに円熟期だったのだと思います。話をLinda Carriereへと戻すと、彼女のアルバムには細野さんが4曲、山下達郎さんが2曲、吉田美奈子さんが2曲、矢野顕子さんと佐藤博さんがそれぞれ1曲ずつ提供し、10曲全ての作詞は、ニューヨーク・タイムズ所属のJames Jim Raganという記者が担当しました。寄り道の話が長くなりましたが、そのLinda Carriereのアルバムの中の1曲であり、山下達郎さんが提供した"Love Celebration"のカヴァーが本盤、ということになります。翌年の1978年には、その山下達郎さんがアルバム『Go Ahead!』でセルフ・カヴァー、さらに安井かずみさんが日本語詞を用意して、「バイブレイション」という邦題に改められてシングル・カットされたのが、かの笠井紀美子さんによるヴァージョンです。このシングルはCBSソニーからリリースされたのですが、細野さんがLinda Carriere用に書いた曲を、坂本龍一さんがインストゥルメンタルでカヴァーした"Neuronian Network"と、その収録アルバム『サマー・ナーヴス』(1979年)も、同じくCBSソニーからのリリースだった、というのはただの偶然なのでしょうか。ところでご存知の方も多いでしょうが、そのLinda Carriereのアルバムは「ヴォーカルが弱い」、「英語歌詞が文学的過ぎた」、などの理由で結局オクラ入りしてしまい、今の今に至るまで陽の目を見ていない、文字通り幻のアルバムとなりました(一方で、ロサンゼルスへと帰国したLinda Carriereは、Sound Of Los Angeles Records=SOLARと契約後、Dynastyというバンドのヴォーカリストとして、あのLakesideやShalamarらと共に活躍して大成功を収めることになったので、人の人生とはどう転がっていくのか、本当に分からないものです)。本人が頑なにリリースを拒んでいた、というこの幻のアルバムですが、日本の音楽史にも特記されるべきミュージシャン達が一堂に会して、演奏のセンスや録音時期的にも申し分ない時代(ちなみに細野さん、このレコーディングの直後に大貫妙子さんのアルバム『サンシャワー』のレコーディングにも参加していますが・・・この仕事量と密度の高さたるや!)の音源でもある為、ごく限られた枚数だけ存在するプロモLP盤は、プレスされた瞬間から即レア盤化してしまったようです。実際レコ屋を巡っていても滅多に出会いませんが、それでも3年に1回ぐらいの頻度で市場に出てくるような印象で、そういえば今年2019年も、とある中古レコード屋さんが某オークション・サイトの方に出品していましたっけ。そしてそれを落札したのは、実は自分の知り合いの知り合いという比較的近い距離の方だった、と後で聞きました。おめでとうございます。でも、こういうアルバムこそ白盤でコッソリ出しちゃえばいいのに・・・なんて。
6
EPMD - SO WATCHA SAYIN’ / YOU GOTS TO CHILL
EPMDのキャリア初期の代表曲2曲をカップリングした7"シングルがこちら。
先日JET SET下北沢店に取り置き分の回収に伺ったところ、そこにたまたまひよこさん(このDJチャートではMakkotronさんとお呼びすべきでしょうか。元ひよこレコード~Weekend records~現Upstairs Records & Bar店主)も来店されたので、店頭にて少しばかり立ち話を。実はひよこさん、そのときにこちらのタイトルを求めて来られてたのですが、残念ながら店頭在庫がたまたま売り切れで。タッチの差で買い逃して、とても残念そうにしているひよこさんの様子を見ていた店番のヤン君やラーク君も交えて、「そもそも何でこの曲の7インチがこの2019年に必要なのか?」という話から、「12インチだと今や中古で安く買える訳だし、なんでわざわざ新譜の7インチで?」とか、「そもそもこの曲今までの人生の中で飽きるほど聴いてきたはずなのに、それでもまだ再発を7インチで買い直すまでして聴きたいのか?本当に?」なんてところまで話が膨らんでいったのですが、「昔は未発表曲とかアングラのマニアックな7インチが人気だったけど、今となってはそれも出尽くして落ち着いてきて、むしろ今は定番曲の7インチ再発の方が人気だったりしますね」というラーク君のお店の人ならではの見方に一同で頷きつつ、「聴いた瞬間にニューヨークで過ごした頃の記憶というか、あのときのあの場所の光景が蘇る曲、というのが確実にあって、そういう曲のレコードが出るとどうしても欲しくなる。どんだけ今更だったとしても」といったひよこさんの意見も聞いていたら、結局のところ音楽なんて、他人との価値観の共有云々よりも、極めてパーソナルな、各々の記憶や思い出に寄り添うようなものなんだろうな、というようなことをふと思ったのでした。曲を聴くことで目に浮かんでくる、時代や街や風景の記憶こそが、ある意味究極的なサンクチュアリなのかもしれない。そう思い返しながら本盤を聴くと、個人的にはこの曲の場合、蘇ってくるのは渋谷よりも六本木のクラブでの光景。ウーハーからまるで交信ノイズのように聴こえてきた、B.T. Expressのギターの音。そしてピッチを落とされて、まるで洞穴の奥から不気味に鳴り響いてくるような、本来であれば脳天気なはずのPファンクのコーラス。実はSoul II Soulも使っていたことをかなり後になって知り、思わずひっくり返るほど驚いてしまったのも、今となっては良い思い出ですが、全ては自分自身の記憶の中の話です。ともあれこの7インチに収録されている曲は、両面とも間違いなく後世まで語り継がれるべきヒップホップ・クラシックスなので、特に思い入れが強い世代の方は、この機会にぜひ7インチ・シングルでも。ところでJET SETの店頭で会話をしていた際に、この7インチに対して異様な執着を見せるひよこさんのことを完全に変人扱いしてしまった自分ではありますが、実はそのとき右手からさげていた買い上げ袋の中に、この7インチがバッチリ2枚入っていたことをその場では言えませんでした。今更ながらここに告白しておきます。
Dr.Looper Chart
2020-03-15
2020-02-08
2020-01-20
2019-12-07
2019-11-06
2019-10-07
2019-09-03
2019-08-06
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