昨年はアナログがマスメディアにブーム的な捉えられ方でかなり取り上げられましたが、2016年は少し落ち着き、アナログを買うことが割と「ちょっと尖った」趣味程度に捉えられてきたように思います。

当店への取材も音楽誌やファッション誌から、今年は遂にあの「明星」から取材があり、店内で「Hey!Say!JUMP」のメンバー有岡くんのフォトセッションなんてことも記憶に新しいところです（2017年1月号だからまだ見れるかも）。そう言えば、12月から始まった三井住友カードのCMにココナッツディスクさんでアナログレコードを購入するイケメンDJなんてのが映っているのを見て( ﾟдﾟ)っとなったのも最近でした。

そうして成熟してきたアナログレコード市場ですが、だからこそいよいよ中身。音源のチョイスとトレンドを如何に掬い上げていくのか、というセンスが問われてきていると感じます。アナログを扱っているだけではもはや「特に尖っている」わけではなくいよいよバイヤーの能力がシビアに問われてきている。あらゆる音源とメディアが溢れている現在にあって、アナログレコードにこだわるアーティストとユーザーの方々の熱に負けないよう、バイヤー一同いっそう張り切ってまいりたいと思います。

Text by KCMT(JET SET CEO)

 

 

 

Masaaki Matsuura（Hip Hop / R&B Buyer）

今年2016年にヴァイナルでリリースされたアルバムから10枚選びました。上半期のAnderson .Paak人気から、Beyonceが放つ無敵感、Frank OceanやSolangeといったインディ・リスナーからも人気を博した作品のリリース、Kanye『The Life of Pablo』のリリース(からの大統領選後の迷走ぶり)、Young ThugやTravis $cott、Lil Yachty、YGら新世代タレントの台頭、A.T.C.Q.待望の復活作に至るまで、数多くの話題作がリリースされましたが、アルバム全体の聴き易さという意味で、個人的にはDomo Genesisのアルバムを一番沢山聴いたような気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yusuke Nishi（Hip Hop / R&B Buyer）

例年に比べると80'sディスコ〜インディR&B路線の作品が他ジャンルから多数リリースされていたように思いますが、当ジャンルとしてはNxWorries、MNDSGNがヒップホップ・リスナー以外にも広く受け入れられていました。ラップものも従来のブーンバップ路線というよりは寧ろ洗練されたジャジーな質感が目立っており、Jakarta新星Juju RogersやMindsone & DJ Iron、Sraw & Eastあたりのリリース、Tall Black Guy、Reginald Omas Mamode IVなどのニューソウル〜ビートダウン・アプローチの作品が印象的でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tomohito Yuge（Japanese Hip Hop Buyer）

テレビ番組『フリースタイルダンジョン』のヒットが象徴的な出来事の一つですが、2016年は日本語ラップに関してトピックに事欠かない1年だったように思います。そんな2016年にCDでフィジカル・リリースされた作品からの10枚です。今年一番注目されたニュー・カマーの1人、Ryugo Ishidaのデビュー・アルバム。IO、Young Jujuとソロ・デビューが続き、クルー本隊のメジャー・デビュー・アルバムもリリースされたKANDYTOWNの躍進。数々のトラック提供を経て充実の1st.アルバムを完成させたStutsとHi'Spec。Slum RCのアルバム『Who Wanna Rap 2』も鮮烈だったC.O.S.A.、Campanella等東海勢とKid Fresinoの毅然としたアルバム。ファン待望だったDUO Tokyoの作品。強度の高さが圧倒的だったIssugi & Gradis Nice、仙人掌の2作品や、Endrunの2nd.アルバムなどもとても印象深く残っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hideaki Tamura（House Buyer）

2016年にリリースされたハウス〜ディスコ作品から10枚を選ばせてもらいました。John Talabot変名Parpleのデビュー12”や、ここ数年魅了されっぱなしのKeita Sanoのアルバムが衝撃的でした。Sk8thing氏がアートワークを手掛けたMark Eの2枚組や、Cerron & Tony Allenのコラボレート10”、Todd Terjeが率いるバンド・プロジェクト作品、Jamie Read、Leon Vynehallらによる作品も本当に素晴らしい内容のものばかりでした。今年リリースされたエディット作品の中でも大阪のMori Ra氏のエディットはかなりツボでした。Sun Palaceの復刻を手掛けたBBEの仕事も見事でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Takashi Kuwabara (House Buyer)

2016年にリリースされたコンピレーションを除く、新作ヴァイナル作品から10枚ピックアップしました。イギリスにおけるダウンロード音源のセールスを、アナログ音源の売上高が上回るというニュースにも関係するかのように、新鋭/ベテランの垣根を越えたヴァイナル特有の丸みのある感触とマッチするような、オーガニックな作品が多くリリースされたように思います。"International Feel"を代表格として、年々盛り上がりを見せるバレアリック・シーンと、様々なアプローチで展開されるトライバル・ビート、16年は特に、フランス周辺に見るサンプリング・ディープハウスや、その勢いに付随するかのように、新たな風を感じるクロスオーヴァーな作品が印象的でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Keiko Hoshikawa (Techno / Leftfield Buyer)

【Techno】よりエクスペリメンタルに深化したアナログ技巧派による実験的なミニマル作品や、ディープ・ミニマル系の安定した人気、フランス・シーンの盛り上がりやUKのアンダーグランド・シーンからのエッジの効いたサウンドの台頭で更なる盛り上がりをみせてきたモダン・ミニマルハウス・シーン。デトロイト新世代アーティスト達の音楽的な豊かなバックグラウンドとエッジーな感覚が見事に具現化された作品など今年も柔軟なスタイルの良作が登場しました。中でもフロア直球型のDJ Toolに留まらず、よりアーティスト性が理解出来るであろうアルバム単位の作品やダブル〜トリプルE.P等が耳を愉しませてくれました。海外を拠点に活躍を始めている先陣日本人アーティスト達の活躍は勿論のこと、ジャンルの壁を無意味なものにさえした新世代アーティストKeita Sanoや、ヴィンテージ機材を縦横無尽に操り即興性を重視したユニットであるGalcid他、実力があり個性派の日本人アクト達が世界を相手に大きな飛躍を遂げた一年でもありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Leftfield】インダストリアル〜EBM回帰やオルタネイティヴ・サンドなど昨年からの流れを組んだ上半期から一転し、下半期はアンビエンス〜ニューエイジ系、そしてモダニズムを感じさせるミニマル・サウンドの質の高い作品群が目立ちました。Gigi Masinによる不朽の名作"Cloud"の復刻＆新リミックスの初アナログ化や、Mark Pritchardの本人名義での初となるアルバム発表、そしてチャート外とはなりましたがAutechreの初期3作の再発などもあり、現行シーンへ影響を与えた先駆者達の功績と現役アーティストとしての存在感に感慨深いものがありました。
　とかく新しいものばかりに価値を見出す通年の風潮の中で、本年はタイムレスなサウンドに個人的には惹かれた一年でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Motoki Sakaguchi (Techno / Bass-Beats Buyer)

【Techno】昨年に引き続き人気のDonato Dozzyを筆頭としたヒプノティックなディープ・ミニマル、人気クラブConcreteを中心としたフランス勢が台頭してきたミニマル・ハウス系を敢えて少なめで選出しました。今回選出した10枚はハウスやベースなど他のジャンルで紹介されていてもおかしくない個性的なサウンドが印象的です。ユニークなサンプリングやリズム、他ジャンルとのハイブリッド、実験精神を伴ったものを中心に構成しており、それらのアイデアが更なるアイデアのヒントとなることも無きにしも非ず。2017年はどのような流れになるのか今から楽しみです。続々と増加する日本人アクトの海外進出も刺激たっぷりのニュースでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Bass-Beats】約8年振りにバイイングを担当したBass系でしたが細分化、派生ジャンルの多さに驚くと共に良作にたくさん出会うことが出来たので実り多い1年でした。成熟した安定感を見せるMala,Shackleton、次回作への期待も高まるClap! Clap!,Swindle、来日公演と共に話題を掻っ攫ったEquiknoxxと何れもが素晴らしい仕上がりでした。ジューク方面からは日本人代表格DJ FulltonoがRemixで参加のRhythm Baboon、D'N'BレジェンドDieがAddison Grooveと挑んだ意欲作を挙げさせて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Gikyo Nakamura（Production Manager / Indie Dance / Indie Rock Staff）

Frank Oceanに、Solange、Blood Orangeなどなどヒップホップとインディの文脈から、アーバンなコンテンポラリー・ポップスの傑作が多くリリースされた1年でしたが、インディ・ダンス・ジャンルの展開アイテムにもR&B/ディスコ・テイストの作品が目立ちました。S U R F I N G、Rev Thornなどヴェイパーウェイヴ系アーティストのアナログも意外に好評で、やはりフィジカルで欲しいよね、と再確認。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』サントラはドラマ本編を見てしまうと、ほとんどマスト・バイかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tetsu Kozai（Indie Rock / Alternative / Indie Dance / Nu-Jazz Staff）

【Indie Rock】様々なところで今年を代表する作品に選ばれているBlood Orangeを始め、インディR&B〜インディ・ソウル作品がトレンドとなる中、ライト・メロウなポップやシティ・ポップなどの80年代の洗練された音質を感じる作品〜ソフトなシンセ・ポップ作品も充実しました。また、WhitneyやJapanese Breakfastといったニュー・バンド、大注目のヤング・バンドLemon Twigs、衝撃コラボのSoft Hairらのアルバムにも驚いたインディ・ロック・シーンでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Alternative】OPN & Hudson MohawkeプロデュースによるAnohniのアルバムがやはり今年のハイライト。フリー・フォーク/S.S.W.ではDevendra BanhartやAngel Olsen、Bon Iverの作品がヒット。Marching ChurchやSeth Bogartなどのポスト・パンク/ガレージ・パンク・バンド、Ultimate Paintingなどのソフトなサイケ・ポップ・バンド、ベテランAnimal Collective等、今年も幅広い作品がリリースされ話題となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuji Yamada（60's ~ 90's Rock Staff）

年始早々の悲報、David Bowieの死と共に幕開けた2016年。没後にリリースされた新作『★ Black Star』が遺作となってしまったのは残念ですが、大きな反響を呼んだこともまだ記憶に新しく残っています。春秋行なわれるRecord Store Dayの再発/限定盤企画はもちろん、Music On Vinyl等の再発レーベルもより一層勢いを増している様に感じた一年でした。極東〜東南アジア〜アフリカ北西部等の辺境サイケ・フォークや欧米インダストリアル〜ニュー・ウェーブ〜ミニマル・シーンの発掘/再発や'80年代録音のカセット音源のLPリイシュー等どんどん面白味を増しており、今後の期待も益々高まる一方です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Makoto Ono（Nu-Jazz / Indie Dance / Indie Rock Buyer）

2016年も良質な作品が多数発表され、アナログでのリリースにも恵まれました。Gilles Petersonによる"Havana Cultura"プロジェクトの力強い集大成と言える3枚組ボックス、今年も台風の目であったRobert GlasperによるMiles Davisへのトリビュート作品『Everything's Beautiful』といった話題作にも事欠きませんでした。Kamasi Washington以降の動きをさらに推し進めるようなKneebodyとDaedelusの共演作など、Brainfeederからのリリースにも常に注目が集まりました。Do Right! Musicから"Don't You Worry 'Bout A Thing"の7インチがリリースされたJacob Collierは下半期最大のヒットとなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KCMT (Jazz Buyer)
今年特筆すべきはオーストリアのPRESCH MEDIA GMBHレーベルの狂ったようなナイジェリア・ファンクのオリジナル・フォーマットでのリイシューでしょう。そのクオリティのブレ無さもさることながら、リリーステンポが凄まじく、毎月4タイトルくらいリリースしてくるのでついていくだけでもいっぱいいっぱいになりそうです。それ以外ではノルウェーのPRESERVATIONやAfro7のジャズラインであるJAZZAGGRESSIONも興味深く、ユニークなリイシューを続け様にリリースしました。トレンド的には米国NumeroやLight in the Atticあたりのニューエイジ再評価と市場の意外な好反応や80年代シンセ系サントラへの異常なまでに愛情溢れるリイシューの連打、こちらは一部マニア受けでしたが。。ともあれその深堀具合は頭が下がりました。あと、印象に強く残ったのはフランスのAKUPHONEレーベル。基本的にはアジアをメインとしたエキゾ歌謡曲のラインらしいのですが、個人的には生涯ベスト級の江利チエミのキングレコード10インチで出ていた民謡スウィングジャズをリイシューしてきたのに震えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yoshitaka Morino（Soul Buyer）

昨年から引き続き、今年もディスコ/ブギーの再発、リエディット、コンピが多くリリースされました。FavoriteやBBE、Athens of the Northといったお馴染みのレーベルはいずれもヒット作多数、ハワイ産ソウル/ブルーアイド・ソウル再発レーベルAloha Got Soulの活躍も目立ち、日本の各レーベルからリリースされた、所謂「妄想国内盤ジャケット」による再発7"は本当にどれも大人気でした。現行アーティストでは、特に勢いのあったレーベルBig CrownからリリースされたBacao Rhythm & Steel BandとLady Wrayのデビュー・アルバムが評価が高く、新レーベルStar Creatureからの一連の7"など、シンセ・ブギー物も充実していました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Shunsuke Narimo（Reggae Buyer）

VPからのDennis Brown、Black Uhuruのトリビュート企画盤は、ヴェテランや現行アーティストが多数参加し、新旧双方のファンにとって嬉しい内容だったのではないでしょうか。またリイシュー物も、Count Ossie & The Mystic Revelation Of Rastafari『Grounation』等のスピリチュアルで崇高な作品から、Revelation『Book of Revelation』等の風通しの良い爽やかなUKラヴァーズ作品まで、幅広く素晴らしいラインナップでした。Jamwaxからのジャマイカン・ディスコや、UKのOptimo MusicからのDennis Bovellによるディスコ〜ファンク・ナンバーの再発は、レゲエ・ファン以外からも注目され人気でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Akio Kosakai（Japanese Buyer）

2016年もJET SET Products部門では、たくさんのアナログ盤やCDを制作・流通させていただきました。やけのはら X ロンリー、Pictured Resortなどのインディ・ポップ作品から新川忠や坂本慎太郎といったシンガーソングライター作品、ソフィア真奈里と井の頭レンジャーズやYuji Ohno & Lupintic Fiveなどのジャズ〜クロスオーヴァー作品、Yuki from O.P.DやBiceなどのリイシュー作品まで、JET SET Products部門での制作・流通タイトルは過去最高を記録しました。2017年リリース予定作品も既に多数準備中です。来年もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Shuto Kabeya（Japanese Staff）

結成12年目にして遂に初リリースとなった小鳥美術館、オオルタイチとYTAMOからなるデュオ、ゆうきのファースト・フル・アルバム等を筆頭に歌に比重を置いた素晴らしい作品が目立ったように感じた年でした。サニーデイ・サービスのニュー・アルバムには、ニュー・カマーのようなフレッシュさと積み重ねてきたキャリアの円熟が同居した奇跡の素晴らしさに興奮を覚え、Kilikilivilla、Poor Vacation主宰コンピレーション等各々の審美眼をもってそれぞれ活動してる活発なインディ・ネットワークからも目が離せなかったです。雷音、Second Royalといったレーベルのアナログ・リリースはもちろんのこと、自主制作のアナログ作品も多く見られたのが心に残っています。